第45話 ショッピング・モール
ショッピング・モールに着くと、玄関の近くにバイクを駐め、エンジンを切った。渋滞中の車を縫うように走ってきたおかげでパトカーはついてこれていなかったが、じきに来るだろう。
俺はルイと一緒に建物を見上げた。
広大な敷地に、二階建ての巨大なコンクリート造りの建築物が建っており、周りを囲む広い駐車場とは別に屋上にも駐車場がある。
竜一自身も何回か来たことがあったが、中にはモールを運営している企業のスーパー・マーケットと専門店街、フード・コートやゲームセンター、映画館なんかがあったはずだった。
周りを歩く多くの家族連れを見て俺は頭を抱えた。本当にこんなところで事件を起こすって言うのか――。
俺はバイクを降りると、ルイと一緒に中に入っていった。遠巻きに、横目でちらちらと見られている視線を感じる。
特攻服を着ているから物珍しいのだろうが、関わり合いにはなりたくないのだろう。直視してくる人はほとんどいない。
スーパー・マーケットのゾーンにある果物や野菜売り場を通り過ぎ、足早に中へと進んだ。
「ルイさん。悪魔がここのどこにいるのか、分からないのか?」
「人の中に隠れている今は分からない。だが、狙いは人の集まる場所に違いない。大量の生け贄を捧げ、その対価に力を得ようと思っているはずだからな」
「それなら、フード・コートだな。もうすぐ昼になる。昼食を食べるために、人はたくさん集まっているはずだ」
「一カ所にたくさん集まる場所はそこしか無いか?」
「ああ!!」
「よし。では、そこだ! 近づけば悪魔の気配も感じやすいはずだ」
死神は俺の背中を叩いた。
俺はモールの中心にあるフード・コートを目指しながら、そこに来るようにメンバー全員にメッセージを送った。
エスカレーターに飛び乗ると、二階へ走っていく。
雑貨店や洋服店、靴屋といった様々な販売店が通路に沿って並ぶ中、俺は人混みをかき分けながら走った。
フード・コートに着くと、浩二と健介が既に待っていた。
すぐにでも行動を起こした方がいいんじゃないかと気が
さらに待っていると、大から電話が入った。メッセージに返信の無かった二人は俺のように手榴弾で攻撃をされ、命に別状は無いが怪我を負ったらしい。救急車に連絡を入れたので、自分たちはこちらにすぐ向かうとのことだった。
俺は一般客の遠巻きな視線を感じながら、大の電話の内容を皆に伝えた。
「結果的に二人減ることになっちまったが、ここにいる人間で奴らのことを止めるんだ。大と一哉は遅れて来る」
俺の言葉に、皆、無言で頷いた。
何百席も座席とテーブルのあるフードコートでは、多くの客がそれぞれ座って食事や話に興じていた。広い店内の壁際に沿うように多くの飲食店が並んでいる。
俺は客を見回しながら、口を開いた。
「まず、俺と西上さんがブラック・マンバのメンバーを見つける」
「どうやって、見分けるんすか? 敵のメンバーは知らない奴もたくさんいますよ」
浩二が訊いた。
「説明するのが難しいんだが……」
「はい」
「奴らブラック・マンバには、邪霊という真っ黒な幽霊が憑いていてな、俺と西上さんにはそれが見えるんだ」
「邪霊っすか?」
「ああ……邪悪な幽霊のことだ」
お前にも憑いていたんだぜ。俺は心の中で呟いて、浩二の目を見た。
「そいつが憑くと、どうなるんすか?」
「簡単に言うと、悪人になる。そして、おかしくなる」
「おかしくなるって、普通の人たちも……?」
「ああ、そうだ。前にあいつらと喧嘩した時に、一般の人たちも襲ってきたんだろう。邪霊憑きはブラック・マンバにだけじゃなく、この街全体で急速に増えている」
ルイがそう言うと、
「奴ら、そんなものに憑かれているってのか!?」
突然、背後から大きな声が響いた。
振り向くと、息を荒げた大と一哉がそこにいた。
「信じるのか?」
俺は来たばかりの一哉と大に訊いた。
「馬鹿。ずっと信じられないようなことが起こってるんだ。それに、薬だ、何だっていうより、そっちの説明の方がよっぽど納得できるぜ。そうだろ、みんな!?」
大が言うと、メンバーは皆、頷いた。
「今日だって、あの塩を使っておまじないみたいなこともやったし、俺と一哉は、化け物みたいに変身しちまった奴とも戦ってるんだぜ」
大が俺の背中をばしんと叩く。
「化け物って……お前らよく無事だったな」
「馬鹿。俺と一哉の強さはおまえが一番知ってるだろ」
大がそう言うと、メンバーたちは大笑いし、俺もつられるように笑った。頭をかきながら、皆の笑顔を見回す。
「マジな話。オレたちが戦おうとしている本当の敵はブラック・マンバよりもヤバい奴なんだろ? 全部言ってくれ。その方が燃えるぜ」
一哉が言った。大も横で頷いている。メンバーは皆、一様に気合いの入ったいい表情をしていた。
「分かった。今から全て話すが、驚くなよ……。俺は、ひょんなことから、悪魔と戦うことになってしまったんだ。悪魔は邪霊を利用してブラック・マンバを使い、この街を好きなようにしようとしている。その企みを壊すために、皆の力を貸して欲しいんだ」
「悪魔!? マジなのか?」
「ああ。本当だ。実は奴とは一度既に戦っていてな。その時は退けたんだが、ブラック・マンバを使って復活してきやがった」
「戦った? 病院で寝てたのにか?」
「ああ。詳しくはまた話す。だが、確かに戦ったんだ」
もちろん、俺だけじゃない。虎徹も一緒だったんだがな――
そう思いながら、俺は右手首のブレスレットを撫でた。
「そうか……」
大と一哉は、それ以上、事情は聞かず頷いた。
「敵は悪魔だってよ。燃えるじゃないか。俺たちの街を守るために皆で力を合わせようぜ!」
大が叫んだ。
「おうっ!!」
同時に 気合いの入ったいい返事が返ってきた。
「よし。それじゃ、俺と西上さんが指をさした奴らに塩をぶっかけるんだ。残ってた塩は持ってきてるな?」
俺が訊くと、皆、頷いた。
「俺、残ったやつをリュックに詰めてきたぜ」
一哉が背中のリュックに手を突っ込み塩をつかんで見せた。特攻服のポケットからつかんで見せる奴もいた。
「よし。それじゃ、始めようか。俺と西上さんが指さした奴の背中に塩をかけるんだ。それで、取り憑いている邪霊どもは祓われる。いいか!?」
「分かった!」
俺は皆の返事に頷くと、
「よし、二手に分かれよう。西上さんたちはあっちから行ってくれ」
と指示をして、走り始めた。ルイの方に四人、こちらにも四人付いている。
辺りを見回しながら走ると、至る所に、邪霊が憑いている奴らがいるのが見えた。ひょっとすると、ブラック・マンバ以外の奴らもいるのかもしれなかったが、見分けている余裕はない。片っ端から指さしていく。
「グああッ!!」
塩をかけられると、苦悶の声を上げ、邪霊憑きが苦しみ倒れていった。
俺の目には、真っ黒な邪霊が悲鳴を上げて散り散りに消えていくのが映っていた。混ぜられている銀杏の葉の粉と枝のおかげなのか。さすがはルイ特製の塩だった。
「きゃあっ」
「何っ?」
塩をかけられた人々が倒れていくのを見て、関係の無い一般人も驚いて声を上げる。
俺たちは構わず、塩をかけまくり、邪霊に憑かれている奴らを倒していった。
その時だった――。
「何やってるの!?」
俺は聞き覚えのある声に、反射的に振り向き、そして固まった。そこにいたのは由里子と母さん、そして妹の幸だったのだ。
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