第35話 スカル・バンディッド(1)

 俺は病院を出ると祠に立ち寄った。スマホと充電器の入ったビニール袋を取ってアパートへと向かう。


 そしてアパートに着くと、郵便受けの蓋の裏に隠してあった鍵を取って部屋へ入った。


 いなかったのはそんなに長い間では無かったのに、埃が積もり、少しカビ臭いような気がする。


 俺は部屋の窓を開け、空気を入れ換えながらスマホの充電をした。そして、机の引き出しからバイクのスペアキーを取った。

 壁に貼り付けてあるメンバーの写真を眺めながら、これからのことを考える。


 まずはブラック・マンバ……いや、悪魔の狙いだ。それを知るためには正確な状況把握が必要だ。そしてその状況に対応した作戦が重要になる。


 俺は腕組みをし、天井を見上げた。


 悪魔は、既に復活している可能性が極めて高い。奴の目的は、ルイも言っていたが、自分の力の更なる強化だろう。じゃあ、その方法は具体的に何なのだ。ルイは悪魔は生け贄を使うというようなことを言っていたが――


 考え込んでいると、メッセージアプリが鳴った。スカル・バンディッドのグループメッセージだった。

「発信元は大。ガレージに三十分後に集合か……ちょうどいい」

 俺はそう呟き、キッチンまで歩いた。


 皆も、ブラック・マンバをこのままにしておいていいとは思っていないはずだ。メンバーのモチベーションも確認しておきたい。

 俺はコップに汲んだ水を一気に飲み干すと、玄関でスニーカーを履いた。


 皆が集まってからしばらくして着くように、俺は時間を調整してアパートを出た。

 一瞬、バイクを取りに実家に行こうかという考えも過ったが、やめておいた。今の時間だと、母さんや幸に会ってしまうかもしれないからだ。必要なら、タイミングを見てまた取りに行けばいい。


 三十分も歩くと、街の外れにあるガレージが見えてきた。

 俺はシャッターの横にある入り口から、ドアを開けて中に入っていった。


 大きなタイヤや自動車のホイールが積み上げられた奥のスペースで、浩二と大、一哉、健介の四人がいた。虎徹の姿で行ったときにはいた他の六人はいない。


 じゃりっという足音に気づいたメンバーが俺の方を見て、一瞬呆けたような顔になった。人間、想像もしないことが起きると、こんな表情になるのかもしれない。


「竜一くん……」

 浩二が呟き、

「大丈夫なのか?」

 大が駆けつけ、俺の肩を叩いた。


「ああ。すっかり大丈夫だ。皆、すまなかった」

 俺は頭を下げた。


「馬鹿。なんで謝るんだよ。それより、体は本当に大丈夫なのか? 病院を抜け出してきたんだろう?」


「そんなこと、するわけないだろ。ちゃんと退院してきたのさ」

 心配する大に、俺はとっさに嘘をついた。


「いつ起きたんだ?」

「実は、今日、目が覚めたばかりなんだ。病院の先生も俺の体の頑丈さに驚いていたぜ。それよりも、俺がいない間、ブラック・マンバと大変なことになっちまったみたいだな……。他のメンバーはどうなっているんだ?」


「どれくらい知ってる?」

「ニュースでやってることくらいだな」


「そうか……」

 大が眉根に皺を寄せ、首を振った。

「メンバーのうち、大丈夫なのはここにいる奴のほかは六人だけだ」

 一哉が言った。


「あの喧嘩で入院しちまった奴もいるし、ブルって家に隠れちまっている奴もいるんだ。それで、とりあえず幹部だけ集まって、これからどうするか相談してたとこなんだ」


「そういうことか……」

 一哉の言葉を聞いて、どうしたものか考え込んでいると、


「竜一くん、すまない。俺の立てた作戦でチームはブラック・マンバに負けたんだ。今になって考えると、なんであんな無茶な計画を立ててしまったのか……本当にごめん」

 浩二が、俺の前まで出てきて頭を下げた。


「大や一哉も、結果的には賛成したんだろう。それなら浩二だけのせいじゃないさ。だが、なぜブラック・マンバと喧嘩になったんだ?」


「奴ら、汚いことばかりやるんだ。うちのチームのメンバーが一人でいるところを拉致ってボコすなんてのは当たり前で、家族に手を出された奴までいる。それに一番問題なのは、奴らがやっている麻薬取引だ」


「麻薬? 昔から噂はあったが、やっぱりか?」

「ああ。うちのメンバーの妹が持っていた。友だちの間で流行はやってて、ブラック・マンバの奴らが売ってるらしい」


「その妹っていうのは、幾つなんだ?」

「十六歳。高校一年生だ」


「そいつは許せないな……」

 俺はため息をつくと、頭を振った。


「浩二、喧嘩をしたこと自体は謝る必要なんかない。俺がいてもやってたさ。ただ、作戦ミスはいただけないがな」

「うっす……」

 浩二は下を向いて頷いた。


「それじゃあ、喧嘩をしたときの様子をもう少し詳しく教えてくれ」

 俺の言葉に皆が頷いた。

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