第15話 訓練(2)

「どうしたものかな……」

(その玉を割る前に、まずはランニングなんじゃないか?)


「馬鹿。霊力を鍛えるのに、ランニングなんか関係あるか!」

 オレはふわふわと浮いている白い球を見つめながら、竜一に文句を言った。


「まあ、とりあえず鳴いてみるか」

 鳴き声や鳴く調子を変えて白い球に声を浴びせる。だが、一向に割れない玉を見てオレは首を振った。


(死神が何か言ってたよな。腹に溜めた力をぶつけろとか)

「それが霊力ってやつなのかな。試してみるか」


 俺は竜一の提案に乗っかってみることにして、静かに深呼吸を繰り返すと腹に力を溜めるようにイメージをしてみた。


 腹の底に溜めた力を大きくしていって、それをぶつけるイメージで鳴いてみる。

 すると、白い球が震え、一瞬暗くなった。


 これか――と思って、鳴き声にさらに力を乗せるように鳴く。

 何度も、何度も、繰り返していると、突然目の前が暗くなり、足下がフラついた。


(どうした? 虎徹)

「なんか変なんだ。さっきまで、どうもなかったのに体に力が入らないっていうか……」


 オレはその場に立っていられなくなって、床に体を伏せた。呼吸が荒くなって、ぜいぜいと音を立ててしまう。まるで、身体中の力が枯渇してしまったかのようだった。


(死神がここにいるだけで霊力が鍛えられるって言ってたもんな。しばらく休んで力を回復させた方がいいぜ)


「ああ」

 オレはまずは呼吸を落ち着かせようと、ゆっくりと深呼吸を繰り返した。

 すると、呼吸を通じて周りから体に力が入ってくるのを感じた。まるで、絞りきったスポンジが水を吸い込むように腹に力が溜まっていく。


「なんかさ。腹の底に金色の玉みたいな力を感じるぜ」

(俺にも伝わってるよ。こいつが霊力ってやつなんじゃないか。さっきはこれを使い果たして、倒れそうになったんだ。ここの部屋にはこいつがたくさんあるに違いない。呼吸を繰り返して、玉を大きくしていったらどうだ?)


「ああ。やってみるよ」

 オレは金色の粒子を体の中に取り込むイメージで呼吸を繰り返した。すると、腹の底にある金色の玉が大きく育っていった。


「なんか、いけそうな気がするぞ」

 オレは四肢を踏ん張って立ち上がると、目の前でふわふわと浮かぶ白い玉を見つめた。


(虎徹。気合いを入れろ! 喧嘩と一緒だぜ)

「ああ!」

 オレは腹の底にある金色の玉から力が湧き上がるイメージを口に持っていった。


「にゃうううああああっっ!!」

 オレの鳴き声が、白い玉の中心に向かって奔った。


 その瞬間、白い球が震え、弾けるように消えていった。欠片まで散り散りになって消えていく。


 先ほどまでの体中の力が枯渇した感じから、打って変わって力がみなぎっていた。


 ふうっと大きく息を吐く。

 すると、ぎいっと、蝶つがいが鳴って、ドアが開いた。

 死神だった。


「無事に割ることができたようだな?」

「ああ。何か、コツをつかめたみたいだよ。霊力とやらも何となくだが分かった」


「どうやら、そのようだな」

 死神が微笑んだ。


「ところで、練習相手を連れてくるって言っていたが、どこだ?」

「まあ、そうかすな。実戦的な訓練ができる相手を連れてきたよ」

 死神はそう言って、パンと手のひらを打ち鳴らした。


 すると、目の前に突然、洞窟の入り口のような大きな穴が現れた。人がくぐれるほどの大きさで、ごつごつとした岩肌が見えている。


「なんだ。これ?」

「ここを抜けた所にとある場所が作ってある。練習相手はそこにいる。そいつを倒せるようになったら、とりあえず合格だ」


「って、ここはどこに繋がっているんだ?」

 オレは洞穴の向こう側を覗いて言った。暗くて奥は見えない。


「それは行ってみてのお楽しみだな」

 死神は思わせぶりに言って、


「――それから、洞穴の中を進む間だけは、竜一が虎徹の体を操るんだ」と、続けた。


「何だって?」

(どういうことだ?)


 オレと竜一は同時に訊いていた。何だかふいを突かれたような感じでぽかんと口を開けてしまう。

「ここからは、竜一の訓練だってことさ」

 死神は腕を組んで言った。

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