13話:アナタと再び会う時の私は天才でなければ
──2026年 12月2日 水曜日 17時16分
尾行している可能性がある追っ手を
血痕と破かれた跡がついたままの服で入店し、他の客や店員に
なので李羅はスマホを耳に当て、少々大きな
「何が遅めのハロウィンをしよだよ!
お前が変なことしたせいで、
と、嘘の言い訳を振り巻いた。
嫌でも目立つのだから、更にその理由をさりげなく言うという薬にもならない方法。
適当に防寒用の上着と上下の服、新しいスニーカーをレジに出し一式購入する。
「あっ、すみません。試着室お借りして買った物に着替えて行くのって大丈夫ですか?」
※
──靴もそのうちすぐに壊れるだろうな、加密爾列の動かし方結構激しいし。
着替え終えると先程まで着ていた服を袋に詰めて、李羅はすぐ隣にあるコンビニへと捨てに向かった。
誰かにバレない事を祈りながらも、皆が
──さて、後は合流するだけだけど……
「──……?」
ふと李羅は横から視線を感じ、其の方角を向いてみると長髪の女学生が目前に立って此方を静かに見据えていた。
コンビニとは明らかに関係のないゴミを捨てている現場を目撃され、李羅は少々戸惑いを見せてしまう。
──何だろう、この人……ん? アレ?
すると李羅は女学生を視て、彼女に対し何処となく既視感を覚えだした。
誰か過去に会った事のある人と似ている、
直立不動のまま立ち尽くしている
「久しぶりね」
突然の挨拶──彼女の
するとパズルが完成したかのように思い当たる人物が脳裏に浮かび、李羅は少々大聲で「あ!」と呆気に取られた表情で叫びだした。
ようやく気付いた、と言わんばかりに女学生は微笑みを見せると李羅の頭の上へと
「相変わらずね、背は越されちゃったみたいだけど……ほら、首にホクロがある。やっぱりそう」
確信した表情を浮かべる彼女に対して、李羅は驚いた表情のまま頭にある彼女の名を問いた。
「お前……
思わず拍子抜けした様な聲を上げてしまい、そんな彼の反応に女学生は堂々と応える。
「当たり! この通り茉莉花よ。本当に久しぶり──李羅」
李羅も旧友である茉莉花との再開に、思わず笑みが綻んでしまう。
「茉莉花……驚いた。
本当に久しぶりだな、小学生の時以来だよな……」
「うん。あの後私、
「そうそう、中高一貫のとこ。皆驚いてたよな、茉莉花が受験するって言った時は」
「ふふっ、簡単よ。受験なんて大したことなかったわ」
沈着とした態度を装うとしながらも少々照れた様子を浮かべる茉莉花に、李羅は『相変わらずだな』と実感する。
「ねぇ、李羅の方は何してるの?」
「え、あぁ……」
突然の茉莉花からの問いに李羅は負い目を感じ、一瞬視線を逸らして返しを考えてしまう。
「そこら辺の誰にでも入れるとこ通って……バイトしたり……だな」
最初は嘘、最後は本当の咄嗟に思いついた事を喋ると、茉莉花は「ふぅん」と
「バイトか、良いな~……私も早く働いてみたいな」
「茉莉花は色々と賞貰ってたりとか検定や資格持ってたじゃん、俺そんなもん一つも持ってねぇから凄いと思うけど」
「あら、どんなに凄い英語の検定を取っていても現場ですぐ使えなきゃ宝の持ち腐れじゃない。
本当に凄いのは其れを突然の状況でも活かせて、実戦で直ぐに行動できる人間の事よ」
まるで当たり前の事だと話す茉莉花に李羅は感銘を覚え、『そういえばこういう事を小さい頃から言える奴だったな』と彼女のカリスマ性を再確認する。
「さすが茉莉花様、凡人と言う事がまるで違う」
「やめてよ、その呼ばれかた大っ嫌いなんだから」
久方ぶりで懐かしさを感じさせる会話に笑みを交わす。
すると微笑む茉莉花を見て──李羅は咄嗟に加密爾列の事を思い出し、ハッと顔色を変え慌てだした。
「──ヤッバ……! 茉莉花悪い! この後バイトがあるんだ!
ひ、久しぶりに会えて本当に良かった! それじゃあ!」
急いでコンビニから出ようとすると、「待って!」と茉莉花が李羅の腕を強く握って引き留めだした。
力を込めて逃がそうとしない彼女の貌は李羅からは俯いていて、小さな口元しか映っていない。
そんな桜色の唇が弱々しく動き出す。
「あ、明日……もう一回会えない、かな」
「え?」
少し抑えめに、いつも堂々としている彼女とは違う様子に思わず戸惑ってしまう。
茉莉花は無言のままポケットに入れていたメモ用紙とペンを取り出し、何か書き出すと李羅の履いているズボンのポケットへと押し入れた。
「こ、来なくても良いからさ、
「あ、おい……」
微弱にそう言い放つと李羅の前を通り過ぎ、逃げるかのように茉莉花は店の外へと駆けて行った。
茉莉花が飛び出して十秒程経つと李羅も店内から出て行き、尾行がないかと周囲を警戒しながらも合流場所へと急いだ。
誰にもバレていない事を願いながら李羅は小さな公園へと辿り着き、
トイレの後方に回り込むと壁の上に設置されている小窓に向かって登っていき、李羅は引っ掛かりながらも中へと入って行った。
逆さの状態で降りていき、床へと手を付いてバク転しながら立つと異臭が立ち込めて蠅が舞う暗闇の空間にある一点を凝視する。
李羅は状態を確認すると、深く
「悪い……遅くなった」
隣には車椅子へ腰かけた白桃色長髪の少女──
「……こんな臭いとこなのに、よく寝られるな」
ある意味での彼女の凄みを実感しながらも、先程自販機で買っていたコーラを飲みだした。
「──そういや、さっき小学生の時の友達に会ったんだ」
加密爾列に先程の事を話しかけるが、彼女は無論寝ており聞いてはいない。
『独り言で結構だ』と、李羅は壁を見つめたまま加密爾列に会話をしている
「昔っから何でもできる奴でさ、俺から話しかけて仲良くなったんだ。
──でも小六の卒業前に全然話さなくなっちゃって……避けられてたのかなって思ってたけど、今日はアッチから話してきたんだよ」
すると飲み終わっていないコーラ缶の下を回しながら──
「今日、久しぶりに会って解ったけど……」
吹き上がってくる炭酸の泡を見て今まで思っていたことが間違いではなかったと悟りだした。
「お前と初めて会った時、なんか視たことあるなって思ってたけど……アレ、茉莉花だったわ。
傷跡とかは無いしあっちは黒髪だけど、お前と茉莉花、結構似てる。……あともう一人似てる人間がいるかもな」
李羅は鼻で溜息をつくと、小窓から差し込んでくる外の光が段々と薄くなっている事に気付いた。
部屋の光は無くなっていき──加密爾列の車椅子のパネルが幽霊のように発している緑色の光でしか、彼女が何処にいるかも判別が尽かない。
──もう一回、会える……かな。
暗さに比例して気分も落ち込んでくると少し俯いて、コーラのボトルを加密爾列の車椅子のパネルへと置いて暗闇の中で一人惨めそうに呟いた。
「……高校、行けば良かったよなぁ」
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