9話:マイナス50m抗争【弐】
先より二倍、六機の鉄人が──
両脚首から響く悲鳴に耳を塞ぎながらも肉体は生を求め、射るべき敵を目掛けながらも弾を回避する。
──避けてばかりじゃ
小盾から生み出した光障壁で弾丸を弾き、李羅はタイミングを狙って反撃に出た。
六機の
両脚が壁にくっ付いたかのように蹴り──重力を外視し、疾走する。
放たれる銃弾をも踏みつけるよう壁を踏み込み──李羅は前面にいた
「はぁァァァァああああァッッッ‼」
刹那の瞬間に
全身に激しい勝利の振動と痛みを覚えながらも、
一対五による一方的な銃撃戦の最中──後方にいた
其処から昨夜とは全く異なる、
「なっ……! ……ぐぅぅぅ‼」
持っていた敵の
されど敵の圧倒的な性能差に押されて、李羅の膝が後ろへと折れだす。
「昨日戦った奴らとやっぱ違う……!」
完全体であるクリサンセマンに圧され、李羅は『まともに戦ってても勝ち目はない』と判断すると──剣太刀を持つ力を横にズラし、敵の躰を横に流すと隙をついて敵の後方へと抜け出した。
「があぁぁぁああああああッ‼」
喉が裂け散る程の咆哮を上げながら敵の肉
空中弾幕を華麗に避けながら李羅は
激しい銃声が後ろで弾けながらも逃走し、奥へと続いて行く面廊を快走していく。
四肢装備型が一、完全装備型が三──状況としては
されど目的は戦うことではない。
──今は態勢を整えて、
漂ってくる硝煙の空気に
「はぁ……はぁ……やっぱ、
大脳インストールによる強制学習によって得た情報から、李羅は敵に対するデータと自分が纏うIIのデータを躰を休めながら比較する。
左右どちらかの腕に纏う──李羅の今の状態“
性能差では加密爾列が規格外である事は解ったが、一点装備ではあの完全装備型クリサンセマンと互角の性能差。
一対一ではわからないが敵の完全装備型は三機──真向勝負は不利と視える。
李羅は闇で塗りたくられている壁を見つめると、周囲を警戒しながら宛ても無い出口を目指した。
「なぁ、加密爾列……他にもお前みたいにIIに変身できるのはいるのか?」
反響せぬよう聲を抑えながら問うと、返事は脳内にすぐ返ってきた。
私以外はいない、皆、普通に着るやつだよ。
──No one but me. Everyone is a regular wearer.
「そうか……」
強化外骨格を全身に纏い、ロボットみたく操縦する。
SFでは在り来たりな設定だが理解はできる。
となれば、加密爾列に対する疑問は比例して増えていくというものだ。
人間が無機物の機械に変態するなどナンセンス甚だしい、肉体構造以前に不明な点が多すぎる。
「其れも
すると、病院の手術室を彷彿とさせる白い自動大扉に辿り着き、李羅は番号キーやカメラを搭載していた認証口に右手を置いた。
すぐさま加密爾列がハッキングし、扉が左右に開くと周囲を見渡して部屋の中へと入って行った。
また新たな、全身の毛穴に氷の矢を差してくる様な幻怪的な通路が広がっていて──其処には大きな部屋が六程有り、李羅は適当に一つの部屋へと侵入する。
「なんだここ、でっけぇモニターが三つも……」
大量のパソコンと机が整列し、奥には横幅二メートルある大型モニターが三台も並べられた空間に李羅は周囲を凝視しながらも右手で触れてパソコンを起動させた。
ファイルやデータを調べ、専門用語の数々を飛ばし飛ばしで見て──“
「
その横に書いてある加密爾列の名前も確認し、様々なワードを記憶するように呟いていく。
「変態のギミック、傷の転送……大事な部分なんだろうけど、さっぱりわからないな」
自分の知能に限界を感じ、李羅はパソコンを持ち出せないかと検討するも荷物が増えるのは頂けないと、そのまま廊下を出て別の部屋へと移った。
其処に入るとまた白い大部屋があったが──次に入った部屋はというと目前には巨大な
「今度は何だ……あっ、オイ! 加密爾列!」
不気味な雰囲気に警戒心を高めていると李羅の躰が一人でに動き出し、加密爾列によって導かれるよう──核シェルターの様に分厚い扉の前に立つとロックを解除して、奥にある空間へと入って行った。
入った瞬間、天井の明りが点灯し──まるでドラマに出て来るような凶悪犯罪者の監禁室を彷彿とさせる雰囲気に肌寒さを覚え、脳が自然に危険と判断して一歩後ずらせた。
「……何処なんだよ、
皆が私を見てくれる場所。
──Where everyone can see me.
「……見るって、何を」
加密爾列の文字に眉を寄せて天井を見上げると無数のシャワー口を見つけ、壁と壁の隙間に内蔵している小型カメラをも発見してしまう。
「なぁ、どういう事だよ──
そ……れ…………ッ!」
李羅は突然防弾硝子の下にある壁に身を伏せて、加密爾列によって研ぎ澄まされた聴覚で音を掻き分けた。
「足音が一つだけ……
敵が此方の通路まで迫って来ているのを感知し、次の行動を考える。
通り過ぎるのを待つ方が良いかもしれないが、探知されている可能性は大いにある。
「だったら、やっぱ迎え撃つしかねぇよな」
剣太刀を生成し、扉を敵が突破してくる瞬間を待つ。
駆動音が重く響き渡り、扉の近くへと少しずつ迫っていく。
構え、敵を斬ろうと神経を研ぎ澄ませる。
すると──突如、大音と共に扉側にある左の壁が破壊され、大量の瓦礫が
「──ッ⁉」
煙と共に突破された壁越しに二機のクリサンセマンがメインセンサーを発光させ、重量感のある歩行音を響かせながら
先頭にいた一機は全高を覆い隠せる程巨大な三メートルの盾『D-3 ハヤトノタテ』を構え、右腕に装備した
「足音を消していたのか⁉ そんなことまで……!」
駆動音を極力消去する“ステルスドライブ”で回り込まれ、予想外にも隣の部屋から突破してきたクリサンセマンに李羅は剣太刀で斬り掛かる。
「はぁぁぁぁあぁぁああああ‼」
「──ッ⁉」
直撃の
されど事態は驚愕、様々な装甲を斬り裂いてきた光の刃は大盾に阻まれていたのだ。
クリサンセマンに採用されている装甲合金を特殊加工し、四層構造で製作したハヤトノタテには加密爾列の武器も通らない。
李羅は苦悶に満ちた表情に浮かべながらも後方へ下がった。
次の瞬間、ハヤトノタテの上前面に固定装備されてる二門の小型
「盾に銃まで──」
刹那、李羅の前面へ後方にいたもう一機のクリサンセマンが接近し、
「クッソォォォォォ‼」
剣太刀の斬撃を唸らせ、フルメタルブレイドと対峙して幾度と鋼同士を打ち合う。
全ての風を切り裂く剣同士の戦い──其処にハヤトノタテからの援護射撃が李羅を襲い、回避のために態勢を変える。
「──ッ⁉」
其の瞬間を逃すまいと──接近してきたクリサンセマンのフルメタルブレイドが李羅の背中を上から裂いていった。
一瞬、衝撃が走りだした。
されど痛みはない。
血も出てない。
着ていたシャツが破れているのみ。
あと少しズレていたら。
そう考えると、焦りが全身を鈍らせてくる。
李羅の動揺につけ込むよう、盾を装備しているクリサンセマンはハヤトノタテとIA-21Cによる追撃が李羅を猛襲する。
加密爾列を纏った右腕に弾丸が掠り、頬を通り過ぎ、左腕に違和感を覚えた。
ふと見下ろすと、シャツの左袖に孔が開いており其処から赤黒く血が流れている。
躰に少しずつ鈍い痛みが広がりだし、痛覚が示す箇所は三つ。
左腕に力が入らなくなり、代わりに躰に蝕むほどの高熱がやってくる。
着ていた衣類が破れ、白の繊維を
右腕は硬く丈夫な装甲で守られているが、
フルメタルブレイドを装備していたクリサンセマンが片手にIA-21Cを構えている。
後方にいる大盾装備の機体と合わせて──四つの銃口が李羅を捉えている。
されど、李羅は思考を冷静にしようと傷ついた
己は別に良かった、命を失っても母が泣くかどうかなど解ったものではない。
──しかし加密爾列は──俺が死んだら、加密爾列はどうやって母と会える。
約束してしまった、ハンバーガーを一枚ずつ食べながら真剣な眼差しで
せめて、
其れまでは、
だから、
李羅。
──Rira.
月下の風に踊る華々の様な、そんな小さな
そして、
ちょっと、がんばるね。
──I'll work a little harder.
加密爾列の確保──そして、誘拐犯“
其の任務を果す為、クリサンセマンたちは再び少年へと銃口を向けた。
実戦の対II戦など全員が初めての事だった、其れも相手はまだ十代の童。
されど、此方は既に仲間が二人もやられている。最早子供だからと容赦はしまい。
右腕以外の四肢を無力化すべくと合図を出し──銃弾の散列が李羅へと振り注いで往く。
銃弾の嵐、死は一直線に有り。
それでも、
李羅はの躯は歩き出し、血に塗れた左の拳を握り締める。
彼を動かしていたのは加密爾列だった、しかし人形のように操られながらも闘志を絶やさないのは李羅の意志だった。
左腕を弾丸の豪雨へと突き出し、銃弾が彼の拳に触れた。
指が弾け飛ぶ、手が裂けて中にある骨と血が破裂する。
しかしそうはならない。
李羅の手へと直撃した弾丸は不自然にも殴られた様に湾曲し、地面へと無価値になって落ちていった。
クリサンセマンが彼の左手──IIに包まれだした拳を視た瞬間、隊長は次の行動を指示して二機による連射を続けた。
装着していた加密爾列の右腕から水銀の様な粘液の在る液体が地面へと垂れ落ち、蠢きだした液体がそれぞれの両脚にくっ付くとそのまま銃弾へと蹴り上げ──
李羅を狙っていた弾を全て滅し、足先にヒール状の大型の主脚が包みだした。
それでも攻撃の手を止めず、李羅が四肢で銃弾を跳ね返す度に侵食するように装甲が埋め尽くしていき──
IA-21Cのカートリッジが切れた時には、既に装着は完了してしまっていた。
右腕と
白桃色のラインが刻まれ、表面を
何よりも其れによって背丈が上昇しており、一九〇センチへと伸縮した鋼鉄の脚は生身の頃よりも身軽。
加密爾列は
母に会う為、
加密爾列は絶対軍神なる様を見せつけるかのように、IIを纏っている李羅の右手を前へと突き出させた。
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