でれ

イタチ

ぢれ

「本番まで321Q」

威勢のいい声が、スタジオに、響いていた

ずらりと並んだ、モニターの前で、ディレクターが、一人、コーヒーを、口に流し込んでいた

「いやー雁行ちゃん、今日も、奇麗なもんだねー、かえてよかったよ」

足を組んで、頭には、茶色いサングラスを、室内の明かりの下で、見ていた

「そうですね、しかし、最近、視聴率が、低くて」

組んでいた足を、組みなおして、相手に、言う

「そう、それじゃあ、変えちゃう」

分厚い書類を、パラパラと、見ながら、画面から目を離す

「コーヒー入れ直してきました」

横に置かれた、カップをもって

「有難うDちゃん、貰うよ」

と、口をつけながら

「おいおい、これ、ブレンドじゃないの、これ嫌いって、何度言えば、理解するんだよ、彼奴は

本当に、使えないな、彼奴は」

そう言って、カップを、適当に、向こうに押しやった

「すいません、変えてきます、新しい方が良いと思って」

カップをもって去って行くスタッフに

「あれ、居たの、もう、昔っから、僕は、ブルーじゃないと駄目なんだよ、覚えておいてよ」

扉が閉まった、後にそう言いながら、画面に、目を向けて、驚く

「だれ、あれ」

画面の中央に、太いズボンとチーシャツの男が、アナウンサーの前に、立っていたが

レンズは、更に向こうを、映して庵おり、男の顔に、ピントが合わず、ボケていた

「誰なんだ、スタッフか、画面を切り替えろよ」

しかし、その映像は、続いていた


「続きましてのニュースです」

目の前に、奇妙な人間がいる

新人であろうか

知らない顔であった

しかし、辞める訳にも行かず、喋っているが、写されているのか分からないが

壁の奥のディレクターの仕事であるので、続けるしかない

「おい、カメラを切るなよ

切ったら、そいつを、犯すからな」

瞬間、辺りに、ビビッと空気が凍り付いた

スタッフの首にかけられた通信機からは

「切れ、早く、切れ・・・いや、もういいや、俺の方で変えればいいや」

と、よく聞く、愚痴交じりの声が聞こえてくる

「ちょっ、ちょっと待ってください、不味いです」

スピーカーに響くスタッフの声に、不機嫌そうに、「何だよ、こっちは電波預かってるんだよ

そんなお前らの意地なんて」

それを否定する、声が、向こうから聞こえるが、埒が明かないと

直ぐに、画面を、切り替えて、警備員を、呼ぶ

数人の制服が、向かおうとするが

何か叫んでおり、立ち止まっている

マイクがないせいで、箱の中には聞こえなかったが

「何なんだ、これじゃあ、時間が、つながらないぞ、おい、残りの映像どれくらい残ってるんだおい

・・・え、あと十分が二本・・・お前、柔道で、けんまでいっていたよな

行って来いよ」

隣で、同じように画面を見ていた、男に、そう言う

隣のスタジオのマブチも、同級だろ、頼むよ、早くいけ」

部屋を飛び出す音と

しばらくして、二人の体格のいい男が、中央の黒い男に、組み敷こうとするが

あっという間に、床に、倒された

「何やってるんだ、あいつ」

そんなつぶやきをもらす男のもとに、先ほど、何か言おうとしていたスタッフの通信を回復させると

「早くしてください、早く」と言う声と

画面の男が、画面の映っていた一人を、首元に、腕を占めるように、立っている

「何だあれは」

がなり立てるスピーカーが状況を改めて説明した

「大変です、早く映してください、写さないとデブ山さんを、襲うと言っています」

ディレクターは漏らす

「なっなんだって、わざわざ、あんなブスを・・まあいや、仕方がない

あいつには・・・いや、責任が・・・もう、写せ、あれを」

部下が指示されたままに、画面を切り替え

先ほどまで、郷土料理のサツマイモを映していた画面が、唐突に、中央の元のアナウンサーが、映っているテーブルに切り替わった

相変わらず、そのレンズの中央には、アナウンサーがおり、端に、ぼやけたごみのような黒い物がうつされてる

カメラに向かって目線を向けて居た男は、足元の自分たちが映っているモニターを見て

叫ぶ

「おれに、ピントを、合わせろ、俺を映せよ、こいつがどうなっても良いのか」

太い首が絞められ

神経質そうな眼鏡がゆがむ

「たっちちゅけて」

それは、うでに口が挟まれて、ガガガとしか聞こえなくなる

「俺は、お前らに言う事がある」

誰のことだと、スタジオに震撼が走り

茶の間では、番組が切り替わったのかと困惑していた

「お前たちに言う事があるんだよ」

二度男はいって、更に、首を絞めつけた

「おっお前は何がしたいんだ、用件は何だ」

スタッフの一人が叫ぶ

アナウンサーは、しゃっくりした鳥のように、動かなくなっていた

「今から言うんだよ、まず、俺は、用件が」

男の怒号が、室内に響いた時、一瞬にして真っ暗闇になる

「だれだ、電気を消したのは」

男の怒号は、暗闇の中響こうとしていたが

次の瞬間、表の方で「ゴロゴロ」と、大きな音が、雷を知らせていた

誰かが、ぽつりと、停電だと、呟いた

「何でだよ」

黒い男はそう言って、また怒鳴った


青白い汗をかいたサングラスの男は、声に出して言う

「どうする、停電は、直ぐに復旧する

あいつを、また映すのか」

発電機に切り替わった中

停電の理由が、放送される

しかし、それをどうにかしてくれる返答はなかった

「あいつは、何が望みなんだ、復旧までは、五分程度だと言っていたが

お前聞いて来いよ」

若いスタッフが、返事をして、部屋を出ていくが暗いので、何処かに体をぶつけたようだ

暗い中、何も見える事は出来ないでいた


「あのー」

緊張の中横で声がしたので、振り返ると、新人が立っていた

「何だよ、今それどころじゃ」

そう言おうとしたが

目の前を、何かが歩いて行く気配がした

何だろうとみるとそこに誰もたってはいない

「あっあの、何が目的でしょうか」

男の前の方に、立って、新人は叫ぶ

「簡単な話だ、放送されたらわかる」

男が怒鳴ると、改めて、会場は静かになった

「でも、聞いて来いって」

スタッフが急いで、男を後ろに下がらせる

「すいません、後五分ほどで、放映再開されますので」

別のスタッフがそう言って、また後ろに下がった


「54321Q」

スタジオに、電気が回され

明るい中

またあの黒い男の姿が浮かび上がる

先ほどと同じような風景だが

そこには、アナウンサーの姿はない

何処かに、出ていった

画面に映った男は、分厚い口を開く

「あなた方は、大きな過ちを犯している

俺の婚約者 この番組の前のアナウンサーが、ここの奴に下ろされた

そのせいで、あいつは、死んだんだ

お前らは、人殺しだ」

男の叫びに、会場は、驚きに包まれていた

今目の前でやっている番組を降板されてすぐに、彼女は、退社したのだ

実質、首だという話も合ったが

しかし、そのあとの事を知るものは居なかったのも事実

一部では、陰口で自殺したのではないかとそう言われてさえいたのも事実

「どうするんですか、ディレクターのせいですよ、直ぐ下ろすから」

部下の批判に、困ったように

「何言ってるんだ、下ろさなきゃ、増えないんだよ、視聴率が、ブスより美人の方が良いだろ

っえ」

にらみを利かす男に、部下が言う

「何か言ってますよ、あの犯人、何かを要求しているんですよ、ディレクターは、それに応えないと

いつも言っているじゃないですか、お客様のために、視聴者のために、全てをかけろって

自分のやったことには、責任をとらないと」

画面に目を向ける

「そう言ったって、何だよ、要求って」

黒い男は、目を血走らせて画面に向き合うと宣誓した

「おれは、あいつを下ろしたディレクター小林健斗が、同じ目に合わないと、こいつを、今すぐに」

と、腕の力が強くなり

よだれが腕に垂れる

「分かったよ、俺は、この局を去る

そう伝えろ」

部下にそう言った次の瞬間、黒い男は言葉をつづけた

「今ここで、死ね」


「おい、あれは、世間的に、死ねって意味だよな」

部下は、何も言わない

ただ止まっている

「早く言った方が良いですよ、後は任せてください」

睨むディレクターは「お前に何ができるんだ」

と叫ぶが

「いえ、あなたは責任を取るのが仕事ですから、これは、私の仕事です」

と、返され、ドアを出ていく

ノロノロと、歩く男を、廊下に出て来た、社員が見る

たっぷりの時間をかけ

ようやく現場に出るディレクター小林は、男と初めて目が合った

「おっお前は、落ち着いた方が良いですひょ」

言葉を出すが、ストーブに、水をかけたように、蒸気が辺りに沸騰したように熱くなる

「おっお前が、お前が、そうだ、早くここで、おい、そこのスタッフ、こいつに、カッターを渡せ

置いてあるだろ」

やめろと制す、上司に、おずおずと、黄色いのを渡す

「早くしろ、仇討ちは、果たすからな、ごめんよ」

涙を流す、男の前に、女が、立ちはだかった

「今、フランスから帰りました

花子エスカレータです」

いつの間にか、立ちはだかった、女を前に、ディレクターと男の目は、点になる

「電話が来て、すぐに駆け付けてきました

ちょっと、勉強が必要だと思って居ましたので、私はちょうどいいと思って居たんです

ですから、下ろされたのは、丁度良い休暇も兼ねた勉強でした

でも、私は、あなたと一度もお会いしたことは、ありません

どちら様でしょうか」

スタッフの一人が叫ぶ

「まさか、黒切さんが、言っていたストーカーって、あなただったんじゃないですか」

それは、責め立てるように、男へと向かう

しかし、それを、制したように、ディレクターが叫ぶ

「まあ、間違いはある、彼女は生きていたし、良かったじゃないか

ストーカーは、良くないし電波きゃっくは、犯罪だ、罪は償って」

男は、それを遮った

「だれだ、そのブスは

俺が、言っているのは霧島 由美子だ

だい三十六代目の彼女の事だ」

男の手には、いつの間にか、腰から抜いたナイフが握られていた

「えっあ、だから、その、ッちょっと待ったほうが」

ナイフを相手に突きつける

「まあじゃねえ、早くしろ、お前が、やらないなら、俺が」

そのナイフの矛先は、次の瞬間、きらりと、方向を宙に変えていく

抱き込んでいた女が、蹴ったのだ

一瞬何か良く分からなかった男は、直ぐに、数人の男に取り囲まれる

それを薙ぎ払おうにも、見事に、女に、背負い投げられた

「まっまさか、あなたは」

女は、手を差し出して、こう言った

「私は、代三十六代目元霧島ですが、何か」

男は返す

「でも、死んだんじゃ」

首を振りそれを否定する

「産休で、少しふとりましたが、子供も手を離れたので」

ディレクターに横のスタッフが言う

「ディレクターも良いことしますね情ですか」

相手は首を振った

「さっきも言っただろ、俺は、昔から」

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でれ イタチ @zzed9

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