第5話 おじさんプロデュース


女の子らしかった部屋に異様なちゃぶ台が置かれた部屋で

景気の良いズズズッとお茶をすする音がした。


「はぁ~良い。お茶がしみるね。ん?ねぇ、見て!茶柱たってる!!」


これ見よがしに茶飲みを見せ、頬を緩ませる新増。


ざわざわし出す髭面ラピッド一同。


「うんうん、茶柱がたったね。」

「・・やっぱ・・?おじじゃんねぇ・・?」

「脳みそバグる。可愛い女の子なのに、行動がおじなんよ。」

「おじさんって思っているからそう見えるだけでしょ?」

「様になってんだよな。なぁ、ミロおじよ。」

「いやいや、芝居だから。そういうの徹底してんのよミロちゃんは」

「それな。これだからにわかは。」


コメントにより生成された個性的なミロップ(AI)が場を賑わせている。


「ん?どうしたの?大丈夫?」

右手、左手と四足歩行で近づき、座っている一人一人のミロップ(AI)の顔をのぞき込む。


「かわいい!!(ううん、何でも無いよ)」

咄嗟のことで本音と建て前を逆になってしまう腹巻きラビット。


(それにしてもこんな事になるなんて・・・)

新増はポチ君や、萌生との今日の作戦会議を思い返す。


◆◆◆


「おじさん!私たちに任せて!!」

と右手を胸にあて、左手を大きく広げ、萌生が言い放つ。


「ねぇ、一緒に頑張りましょ!」

と、ポチ君の手を両手で握りしめる。


「は、はい!!!」

声が裏返りつつも部屋の中に響くような元気な声で返す。


「デート大作戦を成功させるために、私たちでおじさんを、プロデュースしちゃうんだから。」


「そうですね。ミロさんの可愛らしさをさらに引き出したいですよね。実はその為にも作ってきた物があるんですよ。」


今日、新増の所まで来た理由を思い出したと言わんばかりにガサゴソと準備を始める。


「これですよ、これこれ。」


ズラッと並ぶ衣装の数々。

「例えばこれならお揃いですよ。ミロさん。絶対似合いますって。」

と、メイド服をズズズイと新増に近づける。時折、新増のほっぺをに当たり、「ポチ君、分かった。分かったってぇ。」と応える。


「ふふん、どう?みんな?」

ちょっと鼻が高くしながら、新たな衣装のメイド服に意気揚々な新増。

足取りも軽く、時折スキップが入る。


「どうですかみなさん。お揃いですよ!」


メイド服の美少女(片や男の娘、片やおっさん)が二人、並び立ってる。

ちょっとした撮影会になり、簡単なポーズなど取ることになった。


「あぁ、ありがたや。ありがたや。拝んどこ。」

「いいぞぉ。もっとやれぇ!!」

「もう少し、ローアングル。ローアングルから良いですか?」

「おい、アイツを止めろ」

「処せ。抜け駆けは許さない。」

「まぁまぁ、皆仲良くね。」


その後も、様々な衣装を着てみてミロップ達の声が熱を帯びてく。


すると、ポチ君が

「みなさーん。ここで、ミロさんに休んでもらって、衣装の感想会でもしませんか?」


「いいよ、感想会やろうよー」

「ミロおじの身体を労るなんてポチ君、良い子。」

「あんな動いたらおじさん、疲れちゃうよ。仕方ない。」

「ミロおじが屈んだときのローアングル。これだってなったね。」

「おまわりさん、こいつです。」

「ミロおじは休んでて、こっちはこっちで楽しくやっとくから。」


「みんな、やさしいな・・って!何がおじさんだ!こんなピチピチの女の子捕まえて!」


いつもはバラバラなミロップ一同。だけど、今だけは一言一句、ピタッと声をそろえる。

「ミロおじ、そういうとこだぞ。ピチピチな女の子は自分で自分をピチピチって言わない。」


「あああああああああああああああ」

可愛らしい女の子の部屋には似つかわしい何とも言えぬ怨嗟の声が響き渡るのであった。


「あーミロさんお気を確かに・・。えっと、では。みなさんこちらでお話しましょう。皆の気持ち、教えて下さいね。」


ポチ君がミミ垂れおじウサギの気を引いている最中に部屋の隅で銀髪美少女は腹巻き姿の新増に問いかける。


「ねぇ、覚えててくれたんだねぇ。おじさん。」


「やっぱり萌生ちゃんなの?大丈夫?」


「ん~、大丈夫。問題は、なぁいよぉ。あれはきっかけに過ぎないから。」


「そっか。なら、良かった。元気にやれてるなら。」


「えへへ、そう言ってくれるんなら良かったぁ。プロデューサー。」


「ハハ、なんか懐かしい響き。でも、当時はプロデューサーなんて呼んでくれなかったじゃん」


「だってぇ、メイにとって、おじさんはぁ、おじさんだもん?」


「うぐ。そこに繋がってくるのか。」

今、自分が"新増ミロ"である事を思い出して背筋をスッと伸ばす。

「・・・新増はおじさんじゃない。おじさんじゃないんだぁ!」

と大きく地団駄を踏み、両手をジタバタと上下に振る。


「きゃはは、分かったぁ。分かったってぇ。おじさんは、美少女だもんね。」

「ありがとう。ただ、頑としておじさん呼びは変える気ないと。」

「ごめん、それはむりぃ。でも、おじさんの事、美少女って思ってるのはホントだよ。」

いつもおちゃらかす萌生。ただ、その言葉を言う時は真剣に新増の目を見て、一言一言を噛みしめるように伝えた。


「うん、そっか。うん。ありがと。うん。」

ふと、顔を上げる新増。胸に手を当て、ギュッと力を込める。

照明の光が顔を照らすと頬に一筋の跡が垣間見える。


サッと顔を拭う新増。

恥ずかしさを紛らわすためなのか話題を変える新増。

「でも、バーチャルとはいえ、いきなりああ言うのはどうかなって思うんだ」

「えぇーああ言うの?あー、キスのことぉ?ほっぺにキスぐらい挨拶だよぉ、あいさつぅ。」

「どこの外国人だよ!てか、あれほっぺだった・・?いや、マウストゥマウ・・」


すると、メイは間髪入れずに

「ほっぺ、ほっぺだよぉ。やだなぁ、おじさん。キャンセルが悔しかったの?ん?今、しよっか?」

「い、いいよぉ!そういうのは簡単にするもんじゃないからね!!」

「おじさん、堅い、堅いなぁ。うん、でも、そんな所も可愛いかな?」

「なんか、女の子らしさを褒められた気がしない。」

「え、知らない?一部の女の子の間では、中年男性、通称おじさんは可愛い生き物って噂だよ。」

「し、知らないし。最近の子はそんな事になっているの?」

「ん~、諸説ありぃ。てか、最近の子ってぇ、そういうとこだよぉ。おじさん。」

「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ」

最近の子と、知らぬ知らぬ間に若い子と自分を区分けしている事に動揺する新増。


ぐうの音も出ないとはまさにこの事だろう。

会話のペースは完全に持って行かれてしまった様だ。


ふと気づくと、部屋が静かになっていた。どうやら、感想会は終わったらしい。


「よぉーし、大体、みなさんの感想を聞き終えました。これを元におじさんプロデュース第一弾を来週のこの時間に発表したいと思います。お楽しみにして下さいね?」

ポチ君が人差し指をフリフリと振りながら、片目を瞑って、告知を打つのであった。




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