第2話 波乱の夜明け
湯気漂う中に男の娘と犬。
「よーし、ゴシゴシするぞー」
鼻歌まじりに犬を洗う男の娘はモノクロなしっぽをフリフリする。
「ゴシ、ゴシ。ゴシゴシ-。」
しっぽをふるとメイド服のスカートがゆらめき、ふとももがチラリとする。
シャンプーに洗われようとしているポチ・アンダンソンのリスナー、ポッチーズ。
そしてこのポッチーズ、実はAI。
生成AIの「Nyanco」がポッチーズのコメント欄から理想のポッチーズを生成。
こんなポッチーズが居て欲しいを読み取り、AIが代行しているのである。
そして、そのAIが見ている景色、触覚といった五感はVRを通して、感じる事が出来る。
これが「変態に技術を与えた結果」なのだろう。大好評を博した。
「じゃあ、洗うからね。ご主人。」
顔が赤らめながらシャンプーを求めるAIポッチーズ。
「や、やさしくしてね・・ポチ君」
顔に泡をつけながら笑うポチくん。
「なんで、顔赤いんだよー。バカァ。」
ふと、手がそこに触れた時、AIポッチーズは身体をねじらせる。
「あ、駄目。そこは弱いんだ。」
イタズラな笑みを浮かべる。
「ふふん?弱いんだ?ほれほれ」
ジタバタし出す犬。
「ぐふ、や、や、やめろー」
「ん?そっか、良いんだぁ。ふーん。」
口調は落ち着きを取り戻しているが、手の動きは早さを増していく。
「ワオーん」
果てた。気持ちよさそうな顔してやがる。ポッチーズ(AI)。
一仕事を終えたという満足感を胸に、ふと思い出す。
「おじさん、大丈夫かな?」
◆◆◆
そして、時は「シン◯レラおじさん爆誕事件」の日に戻る。
おじさんが状況を読み込めず困惑している。
「えっ・・・あ・・・・はい、どうもぉーおじさんコスチュームでしたぁ~、みんなぁ驚いたぁ?」
広場からざわざわと
「おじフォームってこと・・?」
「草、生えますわ」
すると新増はクルッと回って。
「はっはっはぁー、では皆さん。さらばだー」
「あっ」と立ち止まり、犬メイドのポチ・アンダンソンと向かい合う。
「ごめんね。また、機会があれば配信しようね。」
すると、ポチはお腹に手を当て、笑いながら
「あははは。はい、お願いします。あー、お腹痛い。」
「ではでは~」
と、手を振りながら去るおじフォームの新増。
◆◆◆
「あーやらかしたぁあああああああああ。」
ホームに戻り、あれこれを調べて【新増ミロ】に戻って、今に至る。
「すると、まさかこんな事になるなんて」
今回の事件の要因は大きく二つだ。
1.生成AI「Nyanco」には多くのパッケージがあり、今回のNyancoは低価格帯の0学習モデルということ。
2.CGモデルなどの読み取り先の設定が十分に出来てなかった事。
俯きながらNyancoが届いたときの事を思い出す。
「えぇ、これって全部、最初から学習させなきゃいけないの?」
「学習素材を自分で用意しなきゃって。おいおい、マジかよ。」
「何とか、インターネットで調べながら、転がっている素材使ってCGとかの学習は出来たけどさ。」
はぁーとため息をうつ新増。
ざっくり説明すると「Nyanco」は製品と言うよりもオープンソースとして共有される技術の総称である。それをお客様に提供するに当たり、各社がオープンソースを利用して「AIへの学習方法」で差別化して販売している。一例を挙げれば「学習対象を制限することでコストを抑えることが出来る。」などである。今回、購入した「Nyanco」はほぼ学習情報が無い0学習モデルというモノで玄人向けの製品である。
そんな玄人向けの製品に初心者が手を出してしまったのである。
幸いにも0学習モデルは安い事も売りのため、手を出す人も一定数いる。ある程度、技術用語を読み解けるなら、先人の屍を横目にそれらしき正解にたどり着くことが出来る。
ただ、新増は爪が甘かった。
CGモデル、音声モデルといった表向きの設定ばかりに目を向けて、いざというバックアップ設定などをすっぽかしていたのだ。
新増のモデルデータはクラウド上に保存され、そのデータを読み取り先に設定している。しかし、保存しているクラウド先が0時にメンテナンス期間に入り、読み取り先がなくなってしまった。その為、バックアップとしてデフォルト設定されていたのが初期アバターであるおじさんのモデルデータであった。
「くそぉおお、最初から新増を作っていたらな。遊び含めておじさんモデルを作ったらこんな事になるなんて。」
半裸に関してはおじさんモデルで全部の装備を外すという全裸縛りプレイで遊んでおり、その名残が出てしまった。
それが、「シン○レラおじさん爆誕事件」のあらましになる。
「うわぁ・・大丈夫かなこれ。いや、待って。チャンネル登録数10万・・・!?うそでしょ!?」
「でもなぁ、完全におじさんの印象になっているだと・・・・」
「コメント欄」
「やっほ、おじさん元気してる?」
「おじさんってww」
「おじさん、次いつ配信するの?」
「清楚なミロちゃんを返せ!」
「シン○レラおじさんは超えられないでしょうよ。」
「ミロおじ、はよぉ」
「大丈夫、ミロちゃんは女の子、おじは設定。」
「これは【新増ミロ】、存続のピンチか・・・・いや、チャンスだ。行くしかない」
机を両手で抑え、勢いよく立ち上がる。
「この波を乗り切るにはあれしかない!ASMR配信だ!!」
◆◆◆
新増ミロの配信映像がPC画面に映っている。
「うそ、おじさんじゃん。へー来たんだ。やっと。」
PC画面に映る笑う口元。
「そっかぁ、楽しみだな。また会おうね。お・じ・さ・ん。」
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