全てに絶望したおじさんがV美肉化した件について

黒乃バツ

第1話 おじさん、美少女になる!?


「あぁ・・・駄目だ・・・もう終わっちまったんだ、俺の人生・・・」


真っ暗な部屋の中、ポーっと光るPCの画面から広告が流れる。


「話題のAI「Nyanco」があなたの要望から、理想の声、理想の姿を再現してくれます!

Vチューバーに必要な配信機材をもろもろ併せて、今ならなんとぉお、サンッ、キュッパァ!これであなたも今日から人気配信者だぁ!!」


その声でハッとする。

「俺にはもうこれしかない。でもな・・・」

39800円。この手の商品じゃ格別に安い。が、俺の貯金額は・・・


冷静な判断を進めようとする中で広告の声がそれを阻む。

「数量限定!9/6で販売を締め切らさせて頂きます!!」


焦る。

「まっ、待ってくれ。待ってくれよ。9/6って残り一時間じゃねぇか・・くそ・・」


◆◆◆


退店を告げるチャイムが鳴る。


自動ドアが開き、威勢の良い元気な声が聞こえる。

「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。」

軽く会釈し、店を出る。


気がついたら走っていた。すぐにむせたけど。

クレジットカードなんて大層なモノは持ち合わせていない。


そして目の前には手元に残るレシートと、残金1260円。

「買っちまった。どうするかな、これは」


「・・・あぁもう細かいことはいいや。これで、俺は・・・・・」


◆◆◆


2040年目前。

時代は進歩した。AIにより、誰にでも安価で好きなアバターで配信出来るようになった。

そして、ここにも配信者が「初配信」を迎えようとしている。


「こ・・こんミロ~、おれ・・ち、ちがった。あ、新増をーミロ」

声は透明感がありつつも可愛らしさのある声、背が低め。髪は肩まで伸びるくせっ毛で、色は白っぽさのある明るめの紫色。顔立ちはこどもらしさが残りつつも落ち着きがある美少女、印象的なのは顔についているモノクルだ。


だが、そんな美少女は今、顔が歪み始めている。

画面に映るある一点を見つめる。


【チャット欄】

「コメントがあればここに表示されます。」


「え?あれ、コメントが・・。って!?同時接続数0人!?」


まぶたがとじた後に、ぐいーんと開き、その後、力が抜けてだらーんとなる。

その表情はまさに伸びきったゴムのよう。


「嘘だ・・・あんなに告知したのに・・」


新増が配信をする「ゴロゴロ動画」は、動画投稿サイトから始まり、SNSなどもこなせるスーパーアプリ。SNSで人を引きつけて、配信でファンを獲得する。常套手段のはずだった。しかし、こんなにも届かないモノか・・・


「ふふふ・・・はははは・・・」


ついに美少女も壊れた様だ。それもそう。何故なら彼女に後はない。

頭の中で思い出される貯金残高と今月の支払い。


「や、やるしかない。やるしかないんだ。おれ・・・あらましはできる。」

いつもの癖というモノは消えないモノだ。仕方ない。そのうちなれる。


「やってやる。殴り込み配信」


殴り込み配信、それはゴロゴロ動画が運営するオンラインゲーム、ゴロゴロクエスト(通称ゴロクエ)において配信を推奨するエリアに殴り込みをかけるからだ。補足すると、大体は誰かが話の輪を作っているが、一回ぶっ壊してから乱入する事がセオリーがあるとかないとか。


このエリアには、自分のチャンネルで待ってても誰も来ない配信者が一縷の望みをかけて、ここに集まる。しかし、そんな場所だ。集まる人が様々でカオスのため放送事故になりかねない。下手したらそのまんま配信者人生が終わりかねない。


◆◆◆


広場の真ん中には中性的な顔立ちで男の娘がメイド服を着ている。その髪の毛はメイド服に似て、白と黒でデザインされていて、モフモフのしっぽとお耳がチャーミング。


「こんばんワン、あなたのメイド、ポチ・アンダンソンだよ~」

若干、低い声だが元気で勢いのある声。


「いいぞーやれー」

「メイドさん、かわいいー」


「ご主人、今日はお世話させてね?」

その声の後に歓声が上がる。


「いいんですかぁ!?」

「お世話してくれるってマ?」

「お世話してぇ」

「おっ、リスナー用アバターが配布されてる」


すると、デフォルメされた犬の姿が現れ始めた。


「みんな可愛いね、あとでシャンプーしようか。」



「あ・・洗われちゃうんですか・・俺・・・」

「や、優しくしてね///」

「俺、今日死んでも良いかもしれない」


すると、ポチ君が時計をみながら

「後もう少しで今日も終わりだね。一緒に日を超えようか。」


「トゥナイトしちゃうんですか・・!!」


そんな、お馬鹿な話をしていると走り込んでくる音が聞こえる。


ざわつくリスナー。

「おっ、なんだ。」


困惑するポチくん。

「あれ、なんだろ。」


「こ・・こん、ミロ。あ、あらましを、みろ。」

膝に手を当てながらぜぇーぜぇーと息が途切れ途切れになりながら名乗っていると


「おっ、殴り込みがきたか。でも、KO寸前じゃないか。大丈夫か」

「今日はイベントがいっぱいだな。まだ何か起こりそうだな」

「なかなか可愛い子だな。期待。」


と、期待と困惑を入り混ぜながら、新参者が何をするのかを見つめている。


「大丈夫かな、リアルタイムって事分かってるのかなあの娘は。」

と心配するポチくん。


新増は思う。(あれ、新増は何を話せば良いんだろう。どう思われたいんだろう。)


「みんなー、こんミロだよぉ!今日は寝かせないんだからね!」

と自分が思いつく限りの色っぽいポーズしながら、服をめくる。


「いいぞーもっといけいけ~」

「ミロちゃんの良いところみてみたい!」


「これは駄目だ」と走り始めるポチくん。


すると、新増の体が光り始める。

「え!?はっ!?」

と、驚く新増。


突如、光り始めた新増をみて、「えっ、脱ぐんですか・・!?」とざわつく


新増の体を光が包み、

「もしかしてこれは・・・脱げてる・・・!!」


そう、新増の本来のおじさん姿が姿を表しだしたのだ。


光が消えると色っぽいポーズを取った半裸のおじさんの姿があったのだ。


「おじかよ・・!!クククク・・・」

「おじさん体を張ってるねぇ。」

「美少女脱げておじさんが出てきたよ。」

「がはははは、バカだ。バカがいる。」

「ちょうど深夜0時か。おじさん、魔法がとけちゃったね。」

「シン○レラおじさん爆誕。」


すると、毛布をかけてくれたポチ

「大丈夫ですか・・?一体何が・・それにしてもあははははは」

と笑い出すポチ。


こうして初配信はいきなり日本トレンド1位になるという伝説を作る事になった。



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