第10話 独りきりの私

優花のくれた花の香りが車の中に優しく漂う。

三人は言葉少なく、三陸にある愛の実家へと向かった。


快晴だった。

夏海と祖父は、空へ白煙となって消えていった。

優花のくれた花も一緒に。


「……あっけないんだね。人の命って」

愛の溜息のような小さな声に千賀子は黙って聞いていた。


千賀子の両親は、千賀子の若いころに相次いで亡くなっている。

二人とも病気だったので、枯れながらであっても別れの言葉も

感謝の気持ちも伝えて見送る事が出来ていた。

愛の深い哀しみを癒してあげるなんて、おこがましい事は言えない。


華奢な背中の向こう側で、愛は止まる事のない涙を流した。



……………


夏海たちの簡素な葬儀を終えると

今度は、愛の父親を捜すために一旦家に戻る事にした。


父親が働いていた会社の協力があったが、

父の行方はわからない。


どんな服をその日に着ていたのかも愛はわからない。

ただ、言える事は日にちが経つにつれて生きている可能性は低くなるという事だ。


日々の営みを停める事はできない。

愛をはじめ、時男も千賀子も通常の生活に戻らなければならなかった。


……………


愛は学校に戻った。

……なんでだろう。

今までとは違う自分がそこに居た。

普通に友人達と話していても、全然楽しくない。

授業を受けていても、目標を見失っていた。

空虚の世界に独りきりだった。


…………


ある日、優花はそんな愛を自宅に誘った。


庭には色とりどりの花が咲いている。

羨ましいと、心の中で愛は自分の身の上と比較して思った。


――来るんじゃなかった――

自分が惨めだった。


「……愛ちゃん。愛ちゃんだから話すね」

じっと愛を見つめて優花は静かに話し始めた。


「私ね、信じてもらえないかもだけど、実の子供じゃないの」

優花の告白に愛は驚いた。

いつも明るくて影など微塵もない優花。

優花は続けた。


「私は実の親が誰なのか知らないんだ。

私が養子だとしったのは小学高学年の時なの。

育ての親が、本当の事を話してくれて。

最初は驚きと一緒に、何とも言えない複雑な気持ちになってしまった時もあるわ」


穏やかな優花から全く想像もできなかった。

愛は黙って聞いていた。


「運命ってあるんだと思う。

だけどそれに飲み込まれてはいけないと思うんだ。

私が背負った運命は、私の糧になるの。

私が養子だという事、そして愛ちゃんとこうして出逢った事、

これも運命だと思う。弱音は吐いていいのよ。

どこかの芸人さんが話していた言葉があるわ。

吐くという字は、プラスマイナスが潜んでいるんだって。

弱音はいたらポジティブシンキングする。

そうやってポジティブな事を話しているうちに

マイナスが消えて、そして叶うという文字になるって」


優花は、愛の手を取った。

「私達には音楽という夢があるわ。

どんな形でも良いと思う。叶えようよ、夢を」


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