第2話

「え、このパン、10枚だよ」

「あ」


 テクノロジーと魔法の発展によって、僕たちの世界は無理をする必要がない。

 だいたいのことはロボッとによって事足りる。

 魔法によってある程度の融通さもある。

 実は生活用品も転移魔法でなんとかなるのだが、僕の妻は外に出る野も好きだ。

 貧弱、貧相だというのに。

 彼女の元気なとき、僕たちは買い物に出かける。

 彼女ははりきっと朝から買い物、買い物と騒ぎ立て、ふらふらところげそうな足取りでお風呂でシャワーを浴びて、そのあとお気に入りのワンピースに着替えた。

 まだ歩ける妻は僕に手を引き入れて歩き出す。

 腕を組んで歩くと

「デートみたい」

 ものすごく笑顔だ。

 僕たちは歩いて五分ほどのスーパーに向かった。籠と押し車を進み、あれこれと買い物をしていく。これがなかったね、あれがなかった。これを食べよう、アレを食べようと口にして籠はいっぱいになる。

 妻はいつもよりもずっと嬉しそうににこにこと笑い、最後にアイスを買った。二人で食べながら帰ろうと口にする。

 ちょっとお行儀悪く、僕たちは二つが一つセットになっているアイスを開けて食べながら帰る。

「これ、ソーダ味だ。それもさ、見て、棒付きなんてなかなかないよね」

「そうですね」

「おいしいし、楽しい」

 ふふ、と妻は機嫌よく笑っていたが、あ。

 半分食べたアイスが地面に落ちた。

「……」

「僕の食べます?」

「い、いらないもん。キミのだもん」

 結局、僕はアイスを食べ尽くし、家に帰った。

 帰ったあと妻はふらふらと床に座り込む.僕は荷物を片付けていて、失敗に気がついた。

「パンが」

「ん? あ、10個のやつ。食パン、うっすいやつ! あははは、どうする」

「サンドイッチにします」

 本当は五枚入りを買う予定だったのだ。それが十枚になった。

 まぁ薄いのは食べ方がいろいろとあるからいいんだけど。

「今日はパンを使って昼を食べる」

「食べれます?」

「食べれますっ」

 これは夜は寝込むな。


 彼女は買ってきた麺を取出し、野菜を取り出す。

 キャベツ、玉葱、ピーマン、それらをざく切りにして、豚肉をまずは焼きながら麺をいれて、お湯を少したらしてふやかすとソースをいれる。じゅうじゅうと音をたてている焼きそば。それを仕上げると、パンを出してと口にする。

 僕はパンを取出し、そこのチーズをのせてレンジにいれる。

 これで焼いておくのだ。

 妻はその間に焼きそばとは別のフライパンを取り出して、目玉焼きを作る。

 パンを皿において、焼きそば、そして目玉焼き、さらにパン。


「豪華!」

「ですね。けど食べれます、これ」

「……」

「実はクリームもあるんですよ。あとぶどう」

 がーんの顔をしている。

 ちなみにパンが焼いている間に僕は生クリームをいれてぶどうを挟んでしまった。ちなみにきゅういも。

 さらに妻はがーんの顔をする。

「半分に切って食べませんか?」

「それだ」

 そんな天才みたいな言い方しなくても。


 僕たちはパンを半分っこする。

 僕は大口を開けてばくばくと食べる。その横で妻はあーんと口をあけて、あれ、あれと迷って、覚悟を決めてかぶりつく。口元を汚して一生懸命食べていく。

 半分食べて腹をいっぱいにした妻はそれでも決死の覚悟でクリームいっぱいの果物パンを食べていく。

「おいしい」

「そうですね」

「このパンを使って、今度はフレンチトースト食べたい」

「いいですね」

 僕たちはテーブルでそんな和気藹々と話す。

 その五分後に妻は力尽きて倒れてしまい、寝る体力もなくてうんうんと唸り始めた。僕はお薬を飲ませて、眠らせると残った食事の片付けをする。ラップに包んで冷凍して、今度食べよう。夜はどうするだろうと想像しながらフレンチトーストをいつ作ろうかと考える。

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僕の妻は体が弱い 北野かほり @3tl

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