銃砲弾など通さない
正義の悪意を
港より歓楽街へと続く道。人通りがピタリと止められている。……今は重装兵士の列が
偉そうな壮年の指揮官が、
「研究員ならびに警備兵50名余りを虐殺した凶悪犯!貴様らの卑劣な凶行により、我らが
芝居がかった態度で目頭を押さえ、声を震わせる。その感極まった声に、「…勇敢だったっ!」「…そうだ、立派だった…!」兵士たちからはグスグスとすすり泣きが漏れ始めた。
壁の向こう、トガリはひとり。差し出す拳で力強く天を
「しかぁし!!彼らの
「…ん~?どうだぁガキ共。恐ろしいかぁ?怖いだろう!…ヒャハハハ!!」
すすり泣く兵士たちさえもギャハハと馬鹿笑いを始めた。訓練されし、統率のとれた集団行動。
(…なぁにそれぇ…)切田くんはドン引いた。(練習したの?それぇ…)
(そりゃ、誰だって卑劣に喜ぶ精神は隠し持っているだろうけど。…まあ、流石にこの人たちも、組織やしがらみに強要されて笑っているのかな…)
(だったら望まず、仕方なく合わせてる人も、……うーん、なんだか
「良しっ!!いいぞお前らっ!!実に楽しそうだッッッ!!!」
「『はい!!隊長!!』」
「ヨォ〜シ…」
「おやおやぁ?何だぁ?…ふむ。『どうしてこの場所がわかったのかな。不思議だぁ~』という顔だな?貴様ら」
(いえ、別に…)そう思いながらも、切田くんは少し興味を惹かれる。
トガリが横に手を伸ばすと、脇に控える魔術兵が
「これだ!!」
「あっ」
トガリ隊長がひったくって突き出したもの。――それは、目の位置に穴の空いた、血のこびりついた水袋だ。
「【
「親切な人ですね」
「いやらしいサディストよ」
「はい」
「なるほどぉ?あの横取り覆面野郎の中身が、まさかこぉんなガキだったとはな。…パンデモーヌ伯の
「……特命があるゆえ殺しはせんが……」
「『一人は皆のために!皆は一人のために!』」突然、轟々と、兵員たちが文言を
「お前のことだぞっ!ヒャハハハ!いいぞぉ。おい、ガキぃ!…強化【
「なぜならばっ!!」トガリ隊長は
「我々の装備は!貴様たち召喚勇者の力を!遥かに
「…そうだな貴様ラアアァッ!!?」
「『はい!!隊長!!』」
「ヨォ〜シ…」天を指差す姿勢のまま、トガリは得意げにふんぞり返った。
「ヒャハハッ!優れているんだよぉ!我々の装甲は対勇者戦を想定して設計配備されている!」
「試験では我が国の誇る『最大火力』攻撃さえも、数秒ならば耐えきれた
……はしゃぐ男の瞳に、「……ヒヒッ……」
「……おい、化け物女。……すまし顔もそそるじゃあないか……?」東堂さんを上から下から眺め回し、中空を見上げて
「…いやぁ?…やはり貴様は、
「…えはぁ…そんな貴様のために、今回は、わざわざ、強力な魔獣兵器用の
「……しっかりと繋ぎとめて……暴れる貴様を無理やりにでもねじ伏せてぇ……」
天を仰ぐトガリ隊長は、……やがて顔面をゆっくりと下ろし、ふたりを見て笑う。
暴力を感じる、嫌な笑いだ。
「さあ諸君!今夜は楽しいパァ~ティ~だ。『抗魔盾兵圧殺陣』、仕掛けるぞ!…全隊、突撃準備ィ!!」
「『応っ!!!』」鋭い号令に呼応した兵士たちは、異様なほどに整然と雄叫びを
◇
前後挟撃、敵兵多数。全員が重装甲や謎バリア持ち。通常弾の『マジックボルト』では一人の足さえ止めることは難しいだろう。……一当てしたことのある東堂さんも、厳しい表情だ。列を睨みつけ、言い放つ。
「私が突っ込む。援護して」
「…東堂さん。まともに当たるより、安全な位置で戦いませんか」
――それを聞き彼女は、
「…そっか!つかまって!」意図を察した東堂さんが、迎え入れる様に、両腕を(握った手ごと)大きくガバと広げる。
……『精神力回復』が、
(…いや、東堂さんの判断は正しい。行け、切田類)食料袋と手のひらを素早く離し、両腕を自由にする。――そして
「ふゎ…」うながした側の東堂さんが、何故か変な声を出した。
腕の中の彼女はしなやかで細く、柔らかい。そして胸のあたりがふかっとしている。切田くんは流れ込む五感に翻弄される。
(…めっちゃ良いにおいする!…めっちゃ良いにお…)
顔の横から熱波が伝わってくる。釣られて全身が
……だが今は、そんな場合ではない。「頼みます!」
「は、はい!」
変にかしこまった東堂さんが、切田くんをギュッと抱きしめ返す。
熱烈な抱擁だ。
「……なにをやっておるか貴様らぁっ!!全隊突撃!押し潰せええええええぇぇぇっっっ!!!」
「『
怒号混じりの号令。雄叫び。前方二小隊並びに指揮官、そして後方二小隊。
トガリ中隊十七名は勇猛果敢にも、極悪なる武装反乱勇者勢力に向けて、一斉突撃を開始した。――金属音と地響きが、整然と鳴り響く。
……突然、兵士たちの前から、抱き合った二人の姿が消えた。
「なにっ!?」
「上だ!!」
舞う。
宙を舞う。
やがて弧を描く。
跳躍したふたりは、近くの建物の屋根にズドンと着地した。――激突。屋根瓦が割れ、周囲を破片が舞い散る。
「ぐぼっ!」衝撃によって意識が飛びそうになる。だが『聖女』から流れ込む『生命力回復』の力が、瞬時に意識を鮮明にさせた。
「……目標、すべて照準内です。指揮官から殺ります!」
「…おねがい!」
切田くんは素早く屋根の
(強化『
(……そうだ。空気抵抗で減衰しないような、細長い弾丸が良いだろう。杭の形の弾丸を
――加速思考の区切り。極低速化した時間が急激に動き出す。切田くんはギラリと標的を定め、目標に対して機械的にシャープペンシルを向けた。
(これで抜けなきゃガン逃げだ。…行けっ!!)
「
だが、魔力の杭は勢いのまま抗魔コーティング層を削り取り、盾を
光の杭は兵士の頭部を貫いて、さらに後ろにいるトガリ隊長の腹部を貫通する。そのまま斜めに地面へと着弾して、深くて小さなトンネルを開けた。
「…なんだ?」
トガリ隊長は腹のあたりに違和感を感じ、
……そこには血がべっとりとついていた。
突然、吐き気をもよおす。ごぷ、と音を立てて、トガリ隊長は
閃光が走り抜けた。
右方側面。魔術兵が頭部を撃ち抜かれた。『障壁』は一撃で無残に割れ、魔術兵の命と一緒に消えていく。さらに次の閃光が、第二小隊の魔術兵をも貫いたのが見えた。……現実味のない光景に、貧血の様に気が遠くなる。
膝をついたトガリ隊長の周りで、あっけにとられた重装兵たちが次々と閃光に貫かれていく。ひとり、ふたり。さんにん、よにん。
「…何が…何が起きて…」ごにん、ろくにん。
「いつの間にか盾に細工されたんだ!外部の者が入り込んで!」
「隊長がやられたぞっ!?とっくにやられてるっ!!」
「うろたえるな!陣形を、陣形を崩すな!」
「魔術兵の『障壁』が一撃で貫かれています!そういう攻撃なんです!!陣形どころじゃない、逃げないと…」
「特命が出ているんだぞ!!
彼らは順々に、光の杭によって急所を貫かれていく。
力を失った兵士たちが次々と崩れ落ちる。
脂汗に
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