酔い覚め

次の日の朝起きると、僕は店のソファーにぶっ倒れていて

店の中には酒の匂いが充満していた。

ぼんやりとした意識が徐々に戻ってくるや否や、二日酔いで頭がズキンと痛む


僕は酒が好きだけど、やっぱりこればかりは慣れないし、毎回飲みすぎたことを後悔する。


フラフラしながら起き上がって壁にかかっている時計を見ると、針は6時とちょっと過ぎくらいを指していた。…絶対に寝不足だ


せめて30分後に起きたかった、寝不足は二日酔いの最大の敵なのに


とはいっても、僕の頭はもう起きてしまって

もう一度眠ることも出来なさそうだから

大きくあくびをしながら背伸びをして、床に転がっているダスティンやハロルド達を起こさないよう、ゆっくりとカウンターへ向かった。


もうとっくに日は顔を出していて

歩いてる途中にも心地よい気温が肌に染み込んできた


そんな明るい中で、ダニエルは左から3番目のカウンター席に突っ伏してスヤスヤとしている


きっとあの席は彼のお気に入りで、初めてダニエルと話したあの日もここだった。


冷蔵庫からオレンジジュースを取り出して飲みながら、僕はベーコンサンドの材料があるかをチェックした。

この国では二日酔いになった時、ベーコンサンドを食べるのがお決まりなんだ

僕は必ずブラウンソースをかける


確認した後にふと、ダニエルに視線を向けると

彼の髪がぐしゃぐしゃに崩れていることに気付いた。


いつもはケーリー・グラントみたいにしっかりキメているのに。

「うぅん」とうなる彼はまるでシェルティーのように可愛い顔で眠っていて、不意に笑顔がこぼれてしまった。


僕は彼の前髪に触れて少し整えながら、その綺麗なまつ毛を覗き込んだ



…あぁ、好きだ

好きだなあ


僕は1年以上も君のことを見ているよ

でもきっと君は、全人類のことを「兄弟」のようなものだと思っているんだろ?

もちろん優しい君のことだから、僕のことも弟だと


僕は君のその思わせぶりなところが嫌いだ

彼をジッと見つめながら、あの日のように考える


…もし自分の人生の脚本を書けるなら

もし僕で映画を作るなら


僕はダニエルと出会ったその日に結ばれて、父さんやカート達みんなに祝福されながら抱き合うだろう。

卒業後は一緒に世界を回って色んなものを見て、満足したら海辺に住んで保護犬か保護猫を迎え入れよう。

そして一緒に時代の壁を乗り越えながら、世界に認められるのを待つ。


僕はきっとそんな幸せなラブストーリーを書くだろうな


でも時計は逆には戻せない

僕は今ここにいる。


そしてこの現実はまるで幸せにも見放されたかのように

彼に触れるのも精一杯な世界だ。


だからこれは前から考えていたこと


彼を、ダニエルを好きでいるのをやめよう。


僕は何も言わずに1年間、彼を思い続けた

このまま好きで居続けても誰にいつバレるか分からないし、もう充分だと思う。


それにダニエルはカート達とやるバンドが好きみたいだから、迷惑をかける訳にはいかない

だから僕は頬に1つ涙を流しながら呟いた


「…君は鈍いな、僕は好きだったんだぞ」


そうして僕はダニエルの髪から手を離した。


あの日この店にやってきたのが君だけなら良かったのに。



────────────────────


「おい、ダニエル起きろ、帰るぞ」


カートの声で目が覚めた

途端にいつもより酷い二日酔いが襲ってくる


「あ…?あー…昨日すげぇ飲んだんだっけ…」

「そうだよ、大丈夫か?とりあえず水でも飲んどけ、あとルイスがベーコンサンド作ったって、落ち着いたら食べろよ」

「………おう…」


時計の針は7時と30分くらいを指していた。

横に置いてあった水を飲みながら後ろを振り向くと、カートがダスティン達を蹴り起こしてるのが見える。

…別に蹴らなくてもいいじゃねぇか


そんな光景をボーッと見ていたら背後から声が聞こえてきた。


「起きたんだ、体調は?」

「…ルイス、お前が昨日チンザノなんて出すからこんなことになったんだぞ、いつもより二日酔いが酷いんだ……」


アイツは苦笑いして

「それは悪かったよ」と言った。


「好きなだけ休んで行っていいから」

「いやあ、親父さんに悪いし、これ食ったら帰るよ」

「そう?僕はいいけど、あの調子じゃダスティン達なかなか起きないでしょ」


「まぁな、あの二人は寝起き悪いんだ…


…ルイスお前目の下赤いけど、どうしたんだ?」


俺がそう聞くとアイツは驚いたような顔を見せて、その後すぐ何かを誤魔化すように目を閉じた


「…多分、顔を洗った時にタオルを強く擦りすぎたんだ、眠かったしね」


嘘をつくのが下手くそだと思った


失恋か?今までそんな素振り見せなかったのに

まぁルイスのことだ、もし本当に失恋だったとしても、きっと相手に告白もせず勝手に終わらせたに違いない


そんなルイスに呆れて

「卵割らなきゃオムレツは作れないだろ」

ボソッとそう呟いた。


「…それはフランスのことわざだろ」

「いいんだよ、君には分からなくても」


ルイスは笑った


変に大人びた笑顔だった。

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