先輩

その後も数学や英語などの授業を終えると、いつの間にか外は4時くらいの空になっていた


今日はなるべく早く帰って父さんの手伝いを終わらせたあと、先輩の元へ行こうと思っていたから

僕はそそくさ準備して家に帰ろうとしていた


そしたら前の方から、今大人気のバンディ先生が書類を抱えながら歩いてきた


「ルイスくん、もう帰るのか?」

「はい、父さんの手伝いがあるので」

「そういえば君のお父さんはバーをやっていたんだっけ?帰る時は気を付けて」

「ありがとうございます、さようなら」


そうやって少し笑って先生とすれ違ったら

いきなり後ろから「うわっ」という声と同時に床にべしゃっと倒れる音が聞こえた

「!?」

僕は驚いて、すぐに後ろを振り返った

どうやら先生がつまずいて転んだみたいだ

授業で使うであろう書類がバサバサと散らばる


「いったぁ…」

「生徒の前で恥ずかしいなぁ……」

「だ、大丈夫ですか!?」


床にちらばった書類たちを拾い集めながら言う

それにしても、ハンサムな彼がこんなに盛大に転ぶなんて

つい笑いそうになってしまった。


「すまない…放課後になって気が緩んじゃったかな、拾ってくれてありがとう」

と、頭をさすりながら笑う先生に僕は「大丈夫ですよ」と返した。


そして拾った書類を先生の手に戻したあと


「じゃあ、今度こそさようなら」

「あぁ、助かったよ、今度お詫びに君の店へ行かせてくれ」


そう言って先生と別れた。


この日は本当にいつもと違う日だったから

家に帰って父さんの手伝いをしながらも僕はずっと、今日あったことを父さんに話してた。


「先生が「今度店に行くよ」と言っていた」と言うと、父さんは


「そうか!お前が客を連れてくる日が来るとはな、もっと連れてきてくれても良いんだぞ」

と、楽しそうにしていた。


9時になる前に色々終わらせて

その後は先輩たちと合流した。


パブで飲んだりタバコを吸ったりしてしばらく遊んでいた。

-今でこそタバコや酒は制限されてるけど

80年代なんてこんなもんさ、誰だってタバコくらい吸う-


僕はB&H(ベンソン&ヘッジス)が好きだったよ

ナッツのような香ばしい味が好みだったのもあるけど、初めて吸ったタバコがこれだから

愛着みたいなのがあったんだ。


夜の11時くらい、ふぅーっと煙を吐いていると先輩が

「まだそんな甘いの吸ってんのかよ」

と話しかけてくる。


「なぁ、お前ん家で飲み直そうぜ」

「やっぱり俺らはあの店が1番落ち着くんだよ」


先輩たちは元々うちの店の常連で、僕が父さんの手伝いをしてる時によく話しててそこから仲良くなったんだ。


「いいよ、父さんも疲れてるだろうし、酒は僕が作ってやる。」

「よし、そうと決まればさっさと行こうぜ

またバカみたいな酒をだしたら、ただじゃおかねぇからな。」


僕は前、先輩にクソ不味い酒を出したことがある


「あれはいい酔い覚ましだっただろ?」

「ふざけんな、犬のションベンみたいな味だったんだぞ、今度手前で飲んでみろってんだ。」


はははと笑いながら飲んでたパブを出る。


この場に2人だけだったら僕は酒の勢いで、彼にキスしてたかもな

…残念だけど、ここには僕達以外にも人が居る

先輩と遊ぶ時は、基本的に先輩の友達も一緒なんだ。


そうして先輩たちとゲラゲラ笑いながら店に入ると父さんが片付けをしていた。


「なんだ早かったな」

「うん、ほかの店は11時で閉まっちゃって

先輩たちがやっぱりここが好きだっていうから、酒は僕が作るよ」

「そうか、そりゃ助かる、じゃあ俺は閉店準備してるからな」


先輩たちはたまにこうして閉店後の店で飲んでいく

本当は法律で営業時間が決まってるんだけどね

個人で飲む分には良いだろう


「いつもありがとうございます、スコットさん」

「いいんだよ、息子と仲良くしてくれてるし」

「その変わり、チップくらいは置いていけよな」


みんなが会話してるのを眺めながら、僕は

カクテルを作っていた。

全員分の酒を用意するから、結構忙しい

パタパタとカウンターを歩いていると


「ちょっと待て、まさかチンザノか?

俺らさっきまで散々飲んでただろ、せめて弱いやつにしてくれないか。」

「僕が作るんだ、飲めないとは言わせない」


そう笑って、僕は彼らに少し強めのアップル・パイを出した


「…お前、いつからそんな生意気になっちまったんだ?」

「さぁね、ほら、飲めよ」


「…いいぜ、いくらでも飲んでやる、ぶっ倒れても知らねぇからな」


そうして僕達は深夜まで飲んだ。

先輩以外の仲間はすぐに潰れてて、僕もいつ寝落ちしたのか分からなかった。

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