ベリアル・バンディ
彼との握手を終えたあと、僕は少し早歩きで教室へ向かった。
教室までの道のりは -特に女子が- いつもよりうるさくて
その会話の半分くらいがバンディ先生に関するものだった。
確かに彼の顔は整っていたし、愛想も良くて、第一印象はバッチリだと思う。
そんなことを考えながら、ハンス先生に注意された髪を治して、教室についたあとは誰とも話さず、話しかけられず、僕はただ大人しく座ってるだけ。
…本当は友達が欲しいし、一人でいるのは決して楽しくないけど
なんやかんやで僕はクラスのみんなが楽しそうだと嬉しくなるし、学校で友達が出来なくても僕には父さんがいるから
今はそれでいいんだ。
しばらく時間が経つと教室に先生が入ってきて、ホームルームが始まる
でもやっぱり、今日はいつもと違う日だ
入ってきたのは、髪を結んで、優しそうな顔をした、校門前の彼だった。
びっくりした僕はつい目を大きく見開いて数十人いるクラスメイトの反応を見渡した。
「やっぱり、驚く?」
彼は控えめに言って笑った
「校門前で会話した子もいるけど、改めて自己紹介をさせてほしくてね。
私は今日からこの学校で音楽教師を任された、ベリアル・バンディ」
「ベリアルという名前は呼ばれなれてないから、ぜひ私のことは“Mr バンディ”と」
彼は少し僕の方を向いて
「どうぞ、よろしく。」
自己紹介を終わらせた。
そういえば、今日の一時間目は音楽だった
でもわざわざこの教室に来るのはどういう事だろう?
すると彼は僕の心を読んだかのように口を開く
「本当は音楽の教室でみんなを待つつもりだったんだけどね、出来るだけ早く君達に慣れて欲しくて、ついここまで来てしまったよ」
眉を下げ、照れくさそうに笑う彼を見て、ここにいる女子の殆どは、いや
この教室にいる全員、彼にネガティブなイメージを持つことなんて出来なかったはずだ。
「さぁ、一緒に話しながら教室まで行こう」
それから一息置いて、みんな納得したように椅子から立ち上がって移動を始めた。
もちろん先生はすぐ女の子や音楽好きの生徒に囲まれていたけど
僕はそんなクラスメイト達とは逆で、そこから一歩後ろに下がった所を歩きながら、先生の背中を見ていた。
音楽の教室についたあと、先生はみんなが席に座るのを確認してこう言った。
「私が来て初めての授業だね、せっかくだからこの時間を使って、君達の自己紹介をお願いしたい、いいかな?」
他の生徒たちは授業の内容が軽くなったからか「もちろん!」と楽しそうにしてるけど
…この人はひどい先生だ
僕は自己紹介がすごく苦手なのに
いきなりそんなこと言われても、僕の心拍数が上がるだけだ
すると、焦っている僕が目に映ったのか
「自己紹介といっても簡単なものでいい。名前と、あとは好きな音楽や弾ける楽器があれば教えてほしい」
「ちなみに私はクラシックが好きだ、ピアノは少々たしなむ程度にやっているよ。」
先生は自己紹介のお手本を見せてくれた。
さっきの言葉は撤回、この人はいい先生だ
それに先生のおかげで少し緊張が緩んだ気がする。
そして自己紹介が始まって、みんなは名前を言ったあと
デュラン・デュランとか、ホイットニーヒューストンとか、昔ながらの名曲や最近の人気歌手の名前をあげた。
他にもピアノ、サックス、ドラムなんかを演奏するという人が居た。
あと、デヴィッド・ボウイの影響か、ギターを弾く人も多かった気がする。
「じゃあ、次は…ルイスくんだね」
クラスメイトの好みをゆっくり聞いていたらすぐに僕の番がきた
父さんの店で流れてる曲は一昔前のものばかりだし、僕は何も楽器をやった事がないから、ちょっとだけ肩身が狭い
そして僕はまるで苦虫でもかみ潰したかのような顔をしながら立ち上がって、重い口を開く
「ルイス・スコット、僕はサイモン&ガーファンクルをよく聴いてるかな、それとたまにABCとかも…」
「…えっと…Mr.バンディ、これからよろしくお願いします」
出来るだけ長くならないよう、少しの愛想笑いをして自己紹介を終わらせたつもりだけど、もう二度とやりたくない。
でも先生はそんな僕にも
「ハリス先生と話していると、よく君の話題が出てくるよ」
「こちらこそよろしくね」
と、可愛らしい笑顔で言ってくれた。
そんな彼の態度に僕はやっぱり気分が良くなってしまって、いつの間にか口元が緩んでいた
一通り自己紹介が終わると先生は残りの時間
「この学校について教えてもらいたい」とかなんとか言って、生徒たちとコッソリ雑談をしてた。
そんな先生とみんなが面白くって、僕は後ろの方でニコニコしていた
それが本格的な夏に入る前、7月1日の出来事
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