ルイス-2
あの時の僕は、意識こそしていなかったものの、心の半分以上を彼に奪われていたんだと思う。
-「お預かりします」とか「ありがとうございました」とかしか言わない彼ではなくなったことが嬉しかったのかもしれない。-
そしてあの日から僕たちは毎日スーパーで顔を合わせてはしばらく話し込んだ。
いつもチャーリーはいろんなことを話してくれて、すごく居心地が良かった
たとえば、チャーリーは17歳の高校3年生で
大学の学費を少しでも自分の力で払うためにここでバイトしているとか
このスーパーの店長は浮気をしているだとか
チャーリー自身のことから、どうでもよいことまで、たくさん僕に話してくれたんだ。
でも僕はたまに相槌をうつくらいで -それを会話と言えるのかはわからないけど- ずっと彼の話を聞いてた。
ぶっちゃけ話題は何でも良かったんだ
僕はただ、そのトパーズのような瞳に僕を写しながら、楽しそうにものを話す彼の声を聞いていたかったから
…でもどうやら僕は運が悪かったらしい
チャーリーと話し始めて3ヶ月くらい経った時、少し肌寒くなってきた9月の中盤くらいに彼は
「俺、1月にノーフォーク州から離れて、別の州に引っ越すんだよ」
と、確かにそう言った。
信じられなかった。
よく小説や漫画で「目の前が真っ暗になる」という表現があるけど、本当にその通りだと思う。
チャーリーの話す声が聞こえなくなるくらい
僕は冷静に物事を判断できなくなっていた
「…なんで?」
自分の意思とは反対に、酷く掠れた声で勝手に出てきてしまった言葉。
どうして今彼がこんなことを言うのか全く理解できなかった。
だって彼も僕のことが好きだと思っていたから
心の奥がふつふつと沸いている音がする
(僕がいるのに)
そう思った。
どうしようもないやるせなさで彼を怒鳴りつけてやりたくもなった
だけど彼を傷付ける言葉よりも先に僕は酷く悲しい気持ちになって、今にも泣き出してしまいそうになったから
僕は目じりが熱くなるのをグッと堪えて、全てを飲み込んだ。
でもきっとそれが逆効果だったんだ
悲しみを飲み込んだあと、なんだか次はいたたまれない気持ちに襲われてしまって
彼には申し訳なかったけれど、僕はその場ですぐに話を切り上げた。
チャーリーは何か言っていた気がするけど、気付けなかった
そして僕はできるだけ早くスーパーを去り、ゆっくりと家へ向かった。
あの時せめてチャーリーがどんな顔をしていたのか、振り返って見ていたら良かったかな
そして彼から遠く離れた道を歩きながら
僕は色んなことを考えた。
(苦しい、かなしい)
(僕がいるのにどうして?僕らは特別じゃなかったの?)
(悔しい、チャーリーが分からない、許せない
この気持ちはなんだ?)
(どうして、どうして)
あの時の僕は、恋心も知らないくせに
自分が彼と両思いだと勘違いしてたんだ。
そして数分考えたあと
僕は立ち止まり、気付いてしまった。
あぁ、そうか……
僕の心はついにひとつの隙間もなく、彼に奪われてしまっていたんだな
静かに道にしゃがみ込む
その瞬間、心の奥からふつふつと鳴っていた音が消えた
僕は泣いた、声は出なかった。
チャーリーが居なくなることが悲しくて泣いたんじゃない。
ただ、あんなに優しい彼を “友達” として見ていなかった自分が恥ずかしくて、情けなくて、とても嫌になってしまった。
罪悪感が、僕を襲う。
これまで彼に向けていた好意は、僕の知らない嘘の感情だったんだ
嗚咽が出るほど泣きながらふと、クラスメイトの奴らを思い出した
…僕のこの感情は、本来同い年の女の子に向けられるべき感情だったんだな
それなのに僕は、4歳も年上の男性に
…そこまで考えておいて、僕はプッツリと思考を止めてしまった。
それ以上考えるのが怖かったんだ
まるで自分が世界で1番いけない存在のように感じて、フラフラと歩いていたら、僕はいつの間にか家の前に立っていた。
どうやって歩いてきたのか分からない
本当に何も考えたくなかったから
父さんの「おかえり」も聞いてられないほど、全ての時間が止まっていた。
そして僕はボーッとしながら自分の部屋に戻り、布団に沈み込んで、そのまま気を失ったように眠った。
起きると外は暗い夜になっていて
父親の店から愉快な声と歌が聞こえてくる
でも僕の心は全く反応せずに
たまに涙が数滴ほほを流れるだけだった
だって僕の心はあのスーパーにひとりぼっちだから
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結局この件を境に、僕はあのスーパーで買い物をすることはほぼ無くなった。
合わせる顔なんてどこにもなかった
そうして僕はいよいよチャーリーが引っ越す日まで、彼と顔を合わせることは無かった。
これが僕の3年前、初めての恋と失恋の話だ
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