先生

ほっと

ルイス

1987年、僕はただの16歳だった。


友達はいない、運動も勉強も平均より少し下

誰とも付き合ったことは無い。

そして、母親もいない


毎日普通の生活をしていた

それが嫌いになれなかった


でも、僕の人生が変わったのは、16歳の時だった




ここはイングランド・ノーフォーク州


南の方にノリッジっていう発展した街があるけど、僕がいるところはそこじゃない。


僕は住んでるところはもう少し北にある


ここはノリッジより騒がしくない、至って普通の田舎町だ

娯楽もそれなりに存在する。

映画館や本屋、僕の父さんが経営してるパブもあるよ


あとは少し行けば海がある、夏になるとよく遊びに行くんだ。

退屈は…多分しないよ


でもそんな何も無い田舎町にも、僕には好きな先輩がいた。


「おーいルイス!今日9時に来いよ!」


先輩といっても、学校の先輩じゃない


「えっ、そんなにいきなり言わないでよ!今日は父さんの手伝いがあるって言ったじゃないか」


学校に遅刻しそうだから急いで家を出てきたのに、先輩は「まぁ待てよ」と言わんばかりに僕の手をぐっと掴んでくる


「別にいいだろ?親父さん優しいから許してくれるって」

と、先輩はまた適当なことを言って笑っていた


急いでいたからか、首からじわっと汗が出る


このまま彼と手を繋いでいる時間はない

僕は溜息をつきながら「わかったよ!」と言って約束を交わしてしまった。


僕の了承を確認すると先輩はすぐに手を離して、ニコッと笑った


「もう行くからな」と、ゆっくり先輩から目を逸らして、僕はいつも乗るバスへと走っていく。


息を切らしながらも頬が熱くなっているのを感じる

彼の前で変な顔はしていなかったかな


…なぜ僕がこんな反応をするのか、多分気になっているだろ、教えてあげるよ。


世の中にはいわゆるゲイ・ホモと呼ばれる人間がいて、この80年代に彼らは差別対象として見られている。

そして僕は「そういう意味」として

先輩が好きだ


だから先輩を背に走っている時でもじわじわと手首が熱くて、心臓がドキドキしてる。

まるでまだここに先輩がいるみたいだ


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


自分がゲイだと気付いたのは結構最近のことで

僕は今16歳だから、今から3年前


1984年、中学2年生の頃だった


クラスは常に男子と女子で分かれていて、お互いがお互いを「異性」として意識し始める年頃

もちろん、僕もみんなと同じように意識している人はいた。

「異性」ではなかったけれど



雨がいつもより多く降る6月だったかな


よく買い物に行くスーパーにハンサムな男の人がいて、僕はいつも彼が担当しているレジに並んでいたんだ。


でもこの時の僕は

(彼とは良い友達になれる気がする)としか感じていなかった。 -13歳の初々しい少年に、恋心なんて分かるわけないだろ?-


だから僕はほぼ毎日、「お預かりします」とか「ありがとうございました」とかしか言わない彼と顔を合わせては、得体の知れない感情と共に胸を高鳴らせていた。


そして彼と顔を合わせ続けて2週間ほど経ったある日

いつも通りチラチラと彼を見ていたら

「ねぇ」

彼そっくりの声が僕に向けて発せられた


「君はこのスーパーが気に入ってるのか?」

したり顔で質問してくる。

顔を上げて見てみれば、それは確かに彼だった


あまりにも突然のハプニング -サプライズと言うべき?- だったから

自分の身体が一気に赤くなって、体温が上がるのがとてもよく分かった。

脇から大量に汗が出ていたかも

焦りながら、それでも僕は口を開いて答えた


「あ…いや…違うよ、そこまでこのスーパーに思い入れはない…」

「…そうか」

「毎日のように来るから、てっきり」


彼はため息でもつくかのように、少しふざけ気味に答えを返した。


僕が必死だったからか、残念そうな彼の態度に心が痛む。

だから僕は数秒の沈黙のあと


「……き、きみのことを気に入っているからこのスーパーに来ているんだ…」

そう呟いてしまった。


また数秒の沈黙が続く

彼が驚いていたのか、引いていたのか、僕には分からない。

自分の恥ずかしさを隠すのに必死だったから


そんな僕がおかしかったのか、彼は少し鼻で笑って


「そうか、俺が気に入ったのか」

と、そう言った。


初めて見る彼の柔らかい笑顔に、僕の心臓は飛び出してしまいそうなほど揺れていた。


そのあと彼は

「俺ここのバイトなんだ」


と言って、次の瞬間、僕にとって最高の提案をしてくれた。


「人が来なくて暇だからさ、明日もおいでよ。一緒に話そう。名前は?」

「僕はルイス、よろしく」

「ルイス、俺はチャーリーだ、よろしく」


僕は彼、もとい"チャーリー"とこの日初めて触れ合った。

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