先生

@hot_momo6029

ルイス

1987年、僕はただの16歳だった。


その年に初めてエディ・マーフィを見て、警官になろうかと考えるほど


バカで素直な高校生だった。




ここはイングランド・ノーフォーク州


南の方にノリッジっていう発展した街があるけど、僕がいるところはそこじゃない。


僕は住んでるのは北だ


ノリッジとは比べ物にならないくらいの田舎町に住んでる。

この町の楽しみと言えば、学校と、僕の父さんがやっているパブくらいかな


あとは少し行けば海がある、夏になるとよく遊びに行くんだ。

…でも本当にそれくらいしかない


そんな何も無い田舎町にも、僕には好きな先輩がいた。


「おいルイス」

「今日9時に来いよ」


先輩といっても、本当の先輩じゃない


「えっ」

「無理だよ、今日は父さんが…」


学校に遅刻しそうだから急いで家を出てきたのに、先輩はうるさいと言わんばかりに僕の手をぐっと掴んでくる


「良いから来いって言ってんだよ」

と、強めの口調で僕に言った。


急いでいたからか、首からじわっと汗が出る


断ったらきっと先輩はこの手を離してくれない、そう思った僕は少し時間を置いて


その後頷いてしまった。


僕が頷いたのを確認すると先輩はすぐに手を離して

「そうかそうか」みたいな顔をして笑った。


「ごめん、もう行くよ」と、ゆっくり先輩から目を逸らして、僕はいつも乗るバスへと走っていく。


息を切らしながらも頬が熱くなっているのを感じる


なぜ僕がこんな反応をするのか、教えてあげる


僕は「そういう意味」で

彼がすきなんだ。


だから先輩を背に走っている時でもじわじわと手首が熱い

まるでまだここに先輩がいるみたいだ


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


自分がゲイだと気付いたのは結構最近

僕は今16歳だから、今から3年前


1984年、中学2年生の頃だ


クラスは常に男子と女子で分かれていて、お互いがお互いを「異性」として意識し始める年頃

もちろん、僕もみんなと同じように「彼」を意識していた。



雨がいつもより多く降る時期だったかな


よく買い物に行くスーパーにハンサムな男の人がいて、僕はいつも彼が担当しているレジに並ぶんだ


ただ、この時の僕は

(彼とは良い友達になれる気がする)としか感じていなかった。 -13歳の初々しい少年に、恋心なんて分かるわけない-


だから僕はほぼ毎日、「お預かりします」とか「ありがとうございました」とかしか言わない彼と顔を合わせていた。


そして彼と顔を合わせ続けて約2週間

いつも通りチラチラと彼を見ていたら

「ねぇ」

彼そっくりの声が僕に向けて発せられた


「君はこのスーパーが気に入ってるのか?」

したり顔で質問してくる。

顔を上げて見てみれば、それは確かに彼だった


あまりにも突然のハプニング -サプライズと言うべき?- だったから

自分の身体が一気に赤くなって、体温が上がるのがとてもよく分かった。

脇から大量に汗が出ていたかも


「あ…いや…違うよ、そこまでこのスーパーに思い入れはない…」

「そうか」

「毎日のように来るから、てっきり」


彼はため息でもつくかのように、少しふざけ気味に答えを返した。


僕が必死だったからか、なんだか彼の対応が素っ気なく思えてしまう。

そんな彼の態度が少し悲しかったから、僕は数秒の沈黙のあと


「……き、きみのことを気に入っているからこのスーパーに来ているんだ…」

そう呟いてしまった。


また数秒の沈黙が続く

彼が驚いていたのか、引いていたのか、僕には分からない。

だってこんなに汗だくになったことなんて無いんだ。


そんな僕がおかしかったのか、彼は少し鼻で笑って


「そうか、俺が気に入ったのか」


と、そう言った。

初めて見る彼の柔らかい笑顔に、僕の心臓は飛び出してしまいそうなほど揺れていた。


そのあと彼は

「俺ここのバイトなんだ」


と言って、次の瞬間、僕にとって最高の提案をしてくれた。


「人が来なくて暇だからさ、明日もおいでよ。一緒に話そう。名前は?」

「僕はルイス、よろしく」

「ルイス、俺はチャーリーだ、よろしく」


僕は彼、もとい"チャーリー"とこの日初めて触れ合った。

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