反乱
反乱
自らに深く服従するように躾けるデリーゲレの手によって恥辱に塗れたハイダルは、またも身を清められ薄暗い寝室に監禁されていた。その両腕には黄金の鎖が繋がれている。ハイダルは窓の外に目をやり、夜空を見上げた。満月が夜空を照らし、まるで自らを導くかのように思えた。
「レオニウス様。」
ハイダルの身の回りの世話していた奴隷が声をかけた。
「どうか、お逃げください。」
「どうすれば…。」
ハイダルは、絶望と希望が入り混じった複雑な気持ちで、奴隷を見つめた。
「私がお供致します。私はデリーゲレ様の狂気を止めたいのです。」
奴隷は、決意に満ちた表情で告げた。
「どういうことだ…?」
「デリーゲレ様は皇帝を暗殺し帝位につくおつもりです。そして、あなたをその駒に。」
「なぜ、主人に反旗を翻す。」
「私はクレストゥス教の信者なのです。同胞が死にゆく様を見続けるのは、もう沢山です。」
奴隷は静かにそう告げ、拳を握り締めた。
「名はなんという…。」
「ルキウスです。レオニウス様。」
「私の真名はハイダルだ。もうレオニウスではない。」
「ハイダル様…。どうか私達と共に戦ってください。」
ルキウスは、他の奴隷たちを呼び寄せた。皆、同じように希望と決意に満ちた表情をしていた。
集まった奴隷達はクレストゥス教徒だけではなく、残酷な支配者デリーゲレに対しての反乱部隊だった。
ルキウスは、鎖を外しハイダルに衣を着せ、脱出経路をハイダルに説明した。アンティオキアの地下には、クレストゥス教徒達が迫害から逃れるために作った秘密の通路網が広がっていた。ルキウスは城の地下牢に囚われたナディムと合流し、その通路網を利用してハイダル達を脱出させるつもりだった。
「危険すぎる。」
ハイダルは、ルキウスの計画に懸念を示す。
「しかし、このままではハイダル様はデリーゲレ様の道具として使われてしまいます。他に方法はありません。」 ルキウスは、決然と答えた。
ハイダルは、ルキウスの言葉に決意を新たにした。そして他の奴隷たちと共に、危険な脱出計画を実行に移す。
ハイダル達は見張りの目を盗み、城の地下道へと潜入する。しかし、デリーゲレの監視網は厳重で、すぐに追手に追われることになる。地下道は、暗く湿気た場所で、道中に待ち構える罠や警備兵を避けるため、ハイダル達は激しい死闘を繰り広げる。
暗闇を切り裂く剣の音、甲冑がぶつかり合う音、そして絶叫。地下道はまさに戦場と化していた。ハイダルは、剣を振るいながら、追ってくるローマ兵を次々と切り倒していく。壁には血しぶきが飛び散り、恐怖と興奮が入り混じった空気が充満していた。
激しい戦いの末、ようやくナディムが監禁されている牢獄にたどり着く。ナディムは衰弱していたものの、ハイダルの到着に安堵の表情を見せる。
「ハイダル!」
ナディムは力なくハイダルの名前を呼ぶ。
「ナディム、大丈夫か?」
ハイダルはナディムを抱きしめ、安堵する。
「ハイダル、私のせいで…。」
ナディムは涙を溢した。
「あぁ、大丈夫だ。お前のせいではない。それに、心はお前の言った通り頑丈だった。」
二人はきつく抱きしめ合った。
一方、デリーゲレは、ハイダル達の逃亡に激怒していた。彼は、ローマ兵に命じ、徹底的に彼らを追跡させた。しかし、ハイダル達は地下道を知り尽くしたルキウスの案内のもと、巧みに追手をかわし、ついにデリーゲレの目をくらますことに成功する。
ようやく、出口までたどり着いたハイダルたちは、振り返ることなく、アンティオキアの街へと飛び出した。夜空の下、彼らは自由の息吹を感じ、心から安堵した。しかし、まだ安心はできない。デリーゲレの追手が再び現れるかもしれないのだ。ハイダル達はルキウスに教えられたアジトへ急いだ。
ハイダル達は、アンティオキアの街の外れにある古びた神殿の地下に設けられた反乱軍のアジトへとたどり着いた。そこは、長い年月をかけて秘密裏に築き上げられた、外部からの侵入を防ぐための厳重な警備が施された隠れ家だった。
アジト内は、生活に必要な物資が整えられ、傷ついた者達が治療を受けられるよう、簡易な医務室も設けられていた。暗闇の中で輝く松明の灯りが、彼らの希望の光となった。
アジトのリーダーは、かつて使役奴隷として過酷な労働を強いられていたゼノという男だった。彼は自由を求めて反乱軍を結成し、多くの仲間たちを率いていた。ゼノは、ハイダル達の到着を心から歓迎し、彼らを同志として受け入れた。
「君達の活躍は、私達に大きな勇気を与えてくれた。私達の勝利は確信できた。」
ゼノは、そう言ってハイダルたちを力強く抱きしめた。
反乱軍はアジトを拠点に、着実に勢力を拡大していった。ハイダル達の勇気ある行動は、抑圧されていた市民たちの心に火を灯し多くの人々が反乱軍に合流した。
当初ローマ兵による激しい弾圧があったが、反乱軍は巧みなゲリラ戦術でこれを凌ぎ、次第に優位に立っていった。市民たちは、様々な形で反乱軍を支援した。食料や武器の提供はもちろんのこと、情報提供や直接戦闘に加わる者も現れた。
一方、デリーゲレは、自らの支配が揺らいでいることを悟り、ますます暴政をエスカレートさせた。重税はさらに増やし、市民への弾圧は強化された。しかし、これらはかえって民衆の反発を招き、反乱軍への支持を固める結果となった。
やがて、反乱軍によってデリーゲレの恐るべき野望が明るみに出た。ローマ皇帝暗殺計画の存在が暴露され、シリア属州総督デリーゲレはローマ帝国の公敵となった。
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