【No.011】匿名コン用語集の誕生
「はーっ、今回の匿名コン、なかなか盛り上がんないわねぇ」
今にも中が見えそうなフリフリ系ミニスカートで大胆に脚を組み、ゲーミングチェアに華奢な背中を預けて黄色い愚痴を
「お前が気紛れに一年半も活動休んだりするからだろ。なーにが学業優先だよ色ボケJKが」
かたや、壁際のベッドに
「ウルサイわね。それ言ったらアンタだって二年近く新潟くんだりで放浪してたじゃないの。WEB作家として一番脂が乗ってるべき時期にアカウントを沈黙させざるを得なかった恨み、忘れてないんだからね」
「その件は
「じゃあ大人様が未来を見せてくださーい。この匿名コンが盛り上がる方法考えてくださーい」
「別に匿名コンなんざ今更俺はどうでもいいんだがなあ……」
新刊本を手放し、使い古しのスマホでカクヨムの管理画面を開く男。姪がPCで見ているものと同じ匿名コンのページを表示させ、二秒ほど眺めて「ほーん」と得心した声を漏らす。
「また知らねえ内に新顔が随分増えてんじゃねえか。いいんじゃねえの?」
「よくないわよ。いや、新しい人が来てくれること自体は有難いんだけど、そのぶん前に参加してくれてた人の集まりが悪いのよっ」
「そりゃ人間は飽きるからな。お前だってリアルの恋愛に飽きたからまたラブコメなんか書いてんだろ」
「関係ないしっ! だってこのままじゃ、匿名コンって名前を冠しただけの別のイベントじゃない。旧B小町と新生B小町くらい別物じゃない」
「せめて現実に存在するアイドルで
「
「松井玲奈がいた頃のSKEなんかリアルで見たことねーだろお前……」
その嘆息に被せるように、萌歌はチェアの背
「じゃあ新人さんの
「だから、ガキがそんな大昔の一発ネタを引きずってんなよ。未来に生きろ、未来に」
「だってっ」
チェアを回して正対し、水晶の瞳がまっすぐ男を見据える。
「叔父さんと一緒に夢を追ってた……あの頃の『板野かも』があたしは一番楽しかった」
「お前……」
酸いも甘いも二人で噛み尽くした相方同士の間に、神の時間の如き沈黙が流れること数秒。
「……華の女子大生作家様
煙草代わりの飴を己の口に放り込んで
――可愛い姪っ子にそんな目で見られちゃあな。しゃーねえ。
板野かも
そうして、
《匿名コン用語集》
おれお【オレオ】
古参カクヨムユーザーにはお馴染みのお菓子。カクヨム黎明期、タイトル・キャッチコピー・本文に「オレオ」とだけ書かれた作品が上位に居座ってしまった故事に由来する。
匿名コンにおいてもオレオはネタ人気の高い題材となり、字数下限のなかった旧匿名コン第1回「始まり編」、第2回「食編」では本文が「オレオ」だけの作品が投稿された。字数下限の設けられた第5回「過去VS未来編」、そして新匿名コン第1回「再会編」でも、●などの記号で字数を稼いだオレオ作品が投稿されているほか、「オレオ(俺を)」を異世界からのSOSと扱ったものや、「オレオレ詐欺」と絡めたものなど、多くの作者により様々に趣向を凝らしたオレオ作品が毎回投稿され、人気を博している。
あな【穴】
旧匿名コン第4回「光VS闇編」から発生した匿名コン独自ミーム。事前受付期間中から各作品のタイトルが主催者により公開されていたところ、一部の参加者が悪ノリして「穴【ホラー要素あり】」というタイトルを被らせたことに端を発し、同イベントでは「穴」の名を冠する作品が20作近くも投稿され、後の匿名コンでもお馴染みのミームとなった。その経緯は新匿名コン「再会編」の板野かもの投稿作『穴狙い』に詳しい。
るびげい【ルビ芸】
旧匿名コン第4回「光VS闇編」の板野かもの投稿作『匿名短編コンテストの字数制限に苦しむ人への光明』に端を発する、匿名コン定番芸の一類型。
「――まあ、こんなもんか。これで新参も気が向きゃあ昔のノリで遊んでくれるだろ」
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