【No.004★】匿名コンをぶちのめせ! ~白き狼と二人の式部~

 真っ白なスーツがトレードマークの弁護士である白山しろやま白狼はくろうが目を覚ますとそこは目の前の全てが真っ白な世界だった。トンネルを抜けると雪国だったという名作の書き出しを連想させるように眼前には白い世界が広がっていてまるで異世界転移の前に女神とかと話をする空間のようだった。ちなみに作者はそうゆうジャンルがあんまり得意じゃないけど。


「ちょっと待ってもらおう。誰だ、さっきからおかしな地の文を綴っているのは」


 白山はそう言った。ちなみに白山白狼とゆうのは板野かもの小説に登場する登場人物でありブラック企業のせん滅を誓っているホワイトウルフと呼ばれる弁護士なのだった。


「一応、俺のことを知ってはいるようだな……。それならせめて、この真っ白な空間と俺の服装いでたちを絡めたレトリックの一つも繰り出してほしいものだが……」


 白山は言った。すると白い空間の奥から今度は紫色の着物を着た長い黒髪が目立つ若い美人女性がすっと歩み出てきて言った。


「あら? お久しぶりですわね、白山先生」

式部しきぶ紫莉ユカリ君か。キミとまみえるのは『YOU'RE MY WIND』と『スーパー板野大戦』の時以来かな」


 この式部ユカリという女性は紫式部の生まれ変わりとされていてその力で駄作から生まれる魔物を退治する駄作バスターとして知られている女性だった。ちなみに白山が言った「YOU'RE MY WIND」と「スーパー板野大戦」というのは板野かもがかなり前に主催するイベントのために書いた小説でアイドライズの結依と電脳歌姫の美音も出演して4つの作品のクロスオーバーになっているやつだった。


「そうでしたわね。わたしは一応、新匿名コン『始まり編』にもゲスト出演していたのだけれど……」

「ふむ、『2500字後に君は死ぬ』か。あのベニヤ野郎の暴れぶりは読ませてもらった。ところで先程から――」


 ユカリが言ったゲスト出演というのは板野かもが新匿名コンの始まり編で書いた作品の中でインチキルビ空間で呼び出されるキャラとしてゲスト出演していたやつのことで白山もそれを読んでいたというメタ発言をしたのだった。


「――先程から、ブラック経営者の自分語りレターの駄文にも劣る噴飯物の地の文がやたらと鬱陶しいのだが……。キミの領分の事案じゃないのか、これは」

「ええ、まあ、そうですわね……。ちょっと、あなた?」


 そこでユカリは急に自分の傍らの少年に声をかけた。いつの間にかユカリの隣には中学生くらいの少年の姿があってそれは彼女が弟子にしている小説家志望のペンネームはキラーKという中二病男子だった。


「あなたの仕業じゃないでしょうね? これ」

「いや、ユカリさん。いくら僕でもここまで酷い文章は書きませんって」

「まあ、それもそうね……。そうなると……」


 ユカリが何かに気が付いたように人差し指を自分の口元に当てた。白山は「何か?」と言いキラーK少年も首をかしげた。


のお弟子さんの仕業かしら? 紫子ゆかりこ先生」


 ユカリが流し目を向けた先にはなんとユカリと瓜二つの紫の着物を着て黒髪のロングヘアが特徴の若い女性がいつの間にかスウッと現れていた。彼女は名前は左京さきょう紫子ゆかりこといって20年前に死んだ作家の幽霊なのだがこの空間では普通に皆に見えていて会話ができる。


「えぇー? お姉さん心外だなぁ。ウチの子だって最近はここまでお粗末じゃなくなってきたんだよ?」


 ふふっと可愛く微笑んだ紫子の外見は本当に式部ユカリと瓜二つであり白山とキラーKもびっくりしてその2人を見ている。どうして別の作品のキャラ同士がこんなに似ているのかというと板野かもが前にTwitterで言っていたことがあるのだが実は


「ちょっとちょっとぉ、地の文を書いてるキミ。さらっと板野先生がカクヨムで公にしてないネタバレをこんなところで出しちゃダメだよ?」

「まあ、いいんじゃないかしら? どの道、あの作者が続きを書くことはもうないのだし。ねえ白山先生?」

「ふむ、とうに時効が成立していると言えるだろうな」

「えっ、何ですかユカリさん? えっと、紫子ゆかりこ……さん? お二人が似ている理由って……?」


 つまりこの2人が似たようなキャラになっているのは板野がわざと


「みなまで言うな、だよ、地の文のキミ。それならわたしの口から言わせてよ? 『駄作バスター ユカリ』は、愛しのお姉さんのわたしが成仏しちゃった後、物書きとして奮起したライトが、このわたしの面影を思って書いた作品って繋がり方になる予定だったって」

「つまりこちらは、あなた達のお話の作中作にされるところだったのよね。作品としてはわたしの方がだいぶ先輩なのだけれど……」


 今紫子が言ったライトというのは彼女が出てくるノベルバトラーライトとゆう作品の主人公でその時点ではちょうどこんな風なヘタクソな文章を書くことしかできない中学生男子なのだった。そのライトという少年を天才作家の幽霊である紫子がヒカルの碁の藤原佐為みたいに小説の教育をしていって最後はやっぱり佐為みたいに消えてしまうがライトは奮起して紫子をモチーフにした小説を自力で書いて作家になるというのがその作品のラストシーンとして考えられていたのだと前に板野がXと呼ばれていなかった頃のTwitterで言っていた。ちなみに作者は佐為を女だと思っていたことがありますが、皆もあるあるですよね?


「そぉれぇはぁ、とーもーかーくー。ちょっとライトぉ? どーせライトがこの地の文書いてるんでしょ? 隠れてないで出てきなよー」


 紫子が呼びかけるが答えるものはいな


「焦れったいですわね。オン・アラハシャノウ・ソワカ!」


 ユカリの手元にいきなり出現した身長ほどもある巨大な大筆を彼女は一閃させ白い空間を墨で切り裂いた



 う……っ


 紫子ゆかりこセンセ……? じゃない、アンタ誰……?



「駄作バスター、式部ユカリ。無知の闇を祓う文芸の番人にして、の世界を繋ぐ仲裁者バランサーですわ」

「ライトー、大丈夫ー? そんなあからさまに瘴気しょうきの闇に囚われたような演出、令和になってもあるんだねー」



 うわ何だこれ……紫子センセが2人……?


 まあ幽霊だもんな、分身くらいするか……


 ああそうだ、そんなことよりオレは……本文を書かないと……



「異議あり!」


 突然白山の声が空間に響いた。


「あれ、ユカリさん、本物の弁護士はあんなこと言わないんじゃ……」

「白山先生もたまにははっちゃけたいんでしょう」

「ゴホン。――そんなことより、紫子ゆかりこ君といったか、彼女の証言には矛盾がある」

「おっ、気付いちゃった? 流石だねー、弁護士ホワイトウルフさん」


 幽霊こと紫子センセが意味ありげな流し目をオレに向けてくる。白山は続けて言った。


「彼女は先程、『ウチの子だって最近はここまでお粗末じゃなくなってきた』と言った。にも関わらず、今度はこのお粗末な地の文の主をライト少年とあっさり特定している。そう、彼女は気付いているのだ――地の文の主ことライト君は、、ということに」


 白山はそう言ってオレを、いや、オレの背後の闇を指さしてきた。


「今こそ主犯者を白日のもとに暴き出すとしよう。ライト少年を洗脳し、執筆労働に従事させていた闇の雇用主クライアント――匿名コン主催者、!」


 白山がその名前を言った瞬間オレは闇から解放され――



「……あれ? オレ、今まで何して……」

「わー、ライト、無事でよかったぁ。お姉さん心配したんだぞー?」

「ちょっ、すり抜けるからって抱きつくなって! ってか、そっちのよく似たヒトは結局誰?」

「あなたが将来書くかもしれなかった物語の登場人物……とでも言っておきますわ」

「オレがアンタの話を? なんで?」

「そ、そんなことよりユカリさんっ。ライト君のかわりに、が……!」


 一同が視線を向けたその先。宙空に渦巻く漆黒の瘴気しょうきの中――法廷の証言台を思わせるその空間に幽鬼の如く揺らめく影は、男とも女ともつかぬ――


「板野先生、もう地の文はいいですわ。楽になさって」


 それはさながら煉獄の業火に囚われた亡者


「おーい、アンタ。もういいってさ」

「そんなことより、聞かせてもらおうか。この少年を手駒にし、俺達を巻き込んでまで、一体何を企んでいたのか」



 ……白状するしかなさそうだな


 私はもう疲れたんだ。主催者として「匿名コンらしい作品」を書き続けることに……


 私はこれまで例えばこんなふうに主催者の責務ルビ芸で遊び倒すと思って作品だとか


  空白の上にルビを乗せて文字数をちょろまかす作品だとか、

  参加者の自由度を広げる作品を多く匿名コンに送り込んできた。

  だが、毎度毎度、奇をてらった作品で参加者を驚かせるにも限界がある


「成程な。だからゴーストライターの雇用に手を出したわけか」


 流石は私の生み出したキャラクター、察しがいいな


「だが、貴兄も労基法を知らぬ訳ではなかろう。中学生に違法な――」

「白山先生、話が横道に逸れるからそれは今度にして頂けるかしら」


 無論、私だって最初は真っ当な作家に書かせることを考えたさ。そう例えば、ラ・フランス先生 ※1天使あまつかリリー ※2桐山きりやま和希かずき ※3、春風レイナ ※4……

 ※1:『駄作バスター ユカリ』に登場するへっぽこ女流作家

 ※2:『駄作バスター ユカリ』に登場する炎上系アイドルポエマー

 ※3:『IDOLIZE』に登場する高校生売れっ子作家

 ※4:『ノベルバトラー ライト』に登場する美少女アイドル作家

「ラ・フランス先生やリリーも候補に入っているのね……」

「今更だが物書きキャラが多いな……。作者のコンプレックスか?」

「同業者の話は出しやすいってだけじゃないかな?」


 だが、匿名コンは非営利で、プロに頼む予算なんかない。白山白狼、ゴーストライティングで一千万もせしめていた君なら分かるだろう


「それは白河しらかわ六狼ろくろうとやらいう模倣キャラの話 ※5だろう……。まあ、貴兄が素人の中学生に違法労働をさせるに至った経緯は分かった」

 ※5:旧匿名コン「光VS闇編」『弁護士・白河六狼の受難』参照

「だからって、よりによってライトなんかに……」

「おい幽霊、今オレのこと『なんか』って言った!?」

「わたしに声掛けてくれたら、いつでも執筆役くらい買って出たのにー。これがほんとのゴーストライティングってね?」


 ……フン。それに、どうせ無駄なんだよ。主催者が頑張って『匿名コンらしさ』なんか示して盛り上げたところで。結局、PVが回るのは序盤の作品ばっかり。皆が公平に楽しめるイベントになんか出来っこないんだ


「やっと今回のお題に辿り着いたわね……」


 だから、もう疲れたんだよ。不均衡の改善なんか考えるだけ無駄だ。匿名コンなど惰性で運営して、主催者の作品も適当にゴーストライトさせておけばいい


「そんな、仮にも僕達の作者なんだからヤケバチにならないでくださいよ……。アイデアが必要なら僕達だって協力しますよ」


 私以上の発想が私のキャラから出てくるはずもない。登場人物は作者の頭脳を超えることはできないんだからな


「あら、それは誤解でしてよ?」

「作者が時間かけて考えたことをキャラには一瞬で思いつかせるとかー、色んな人から知恵をもらって考えたことをキャラには独力で導き出させるとかー、いくらでもやりようはあるよー。初歩的な話だとお姉さん思うけどなぁ?」


 ……じゃあ、お前らの力で名案を出してみろよ。作者命令だ


「貴兄が作者だからといって、指揮命令に服する義務はないのだが……」

「……なんつーか、オレはバカだからわかんねーけどさ」

「出たっ、自称わかんねーバカがバカゆえの鋭い意見を言うパターンっ」

「ウルサイなっ。……いや、なんかさ、そんなに悩むくらいならもう、順位なんか付けなくていいんじゃね?」


 何だと?


「作品持ち寄って、皆で感想とかダベってさ、それで終わりでいーじゃん。得点とか勝ち負けとか考えるからギスギスするんじゃねーの?」


 ……。


「ほぉほぉ、ライトにしては案外、正鵠せいこくを射たこと言うじゃん」

「セーコクって何?」

「まあ、そうね……。勝敗が絡むからしがらみも生まれる……この道の真理かもしれませんわ」

「何ならユカリさんが相手にしてるのって、そういう人達ばっかりですもんね」


 だが、流石に競争の要素を無くしては、最早匿名コンとは……


「どーしてもっていうならさ、コンはコンパのコンで、作者同士の出会いの場ってことにしたらいいじゃん」

「ライト、そんな地口じぐちも言えるようになって……。お姉さんは誇らしいよ」

「ジグチって何?」


 ……ふっ。ふふふ、匿名コンパか。そうだ、思えば私は……


「えぇ……僕が言うのも何ですけど、あんなんで良かっ」

「黙って聞いていなさい。板野先生が何かいいことを言おうとしてるのだから」

「純粋に創作を楽しむ心がナントカカントカ、かなっ? 改心パターンとしてはありがちだけど、もう字数も残り少ないからしょうがないよねー」


 純粋に創作を本当にもう字数もない……略…………不本意だがまさか自分の生み出したここで納得して消えてやろう。キャラクターに、さらばだ、登場人物達よ、それもおバカのライト君に久々にお前達を動かせて教えられるとはな。私も楽しかったぞ……


「……まあ、一件落着と言ってもいいかしら」

「では、これにて閉廷」

「みんなー、おつかれさまー」



「……ん、何だこれは? 匿名コン七つ道具・精神と時のルビ?」


 「あっ、白山さん! こんなところに居たんですか!?」

 「おや、シーズー君。重役出勤とはホワイトで結構なことだな」

 「んなこと言ってる場合ですか。それより、物書き属性のキャラがこれだけ集まってる場で、

  作家でもない白山さんがメイン級で出演してるのになんでわたしはスルーなんですか!?」

 「ぶっちゃけキミは扱いが面倒なのだよ……。続編の世界線によって、

  作家志望だったりデビュー済だったり設定が違うものだから」

 「それ言ったら白山さんなんかパチモン含めて四人くらい居るじゃないですか!」

 「……『あやかしホワイトウルフ』の件は忘れてほしいものだな」

 「そういえば、わたし、今度匿名コンっていうのに参加しようと思うんですよ。

  序盤に作品を送り込めば地の利で上位にランクインできるって聞いて――」

 「……悪いことは言わん、やめておけ。匿名コンはもうそういう場ではなくなるそうだ」

 「? どういうことですか?」

 「板野かもの心に今日の出来事が多少なりとも響いたのなら……な」

 「あのベニヤに心とかあります?」

 「さあな。さて、インチキルビで引き伸ばすのはこれくらいにして、事務所に戻るとしよう」

「次の依頼者が待っている」



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【本文の文字数:5,000字】

【登場キャラクター】

・『ブラック企業をぶちのめせ!』より、白山しろやま白狼はくろう不動ふどう志津しづ

https://kakuyomu.jp/works/16816700428483728427

・『駄作バスター ユカリ』より、式部しきぶ紫莉ユカリKillerキラー-Kケイ

https://kakuyomu.jp/works/16816700428506399124

・『ノベルバトラー ライト -新時代小説ゲーム戦記-』より、左京さきょう紫子ゆかりこあらた雷斗ライト

https://kakuyomu.jp/works/16816700428532913321


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