傲慢聖歌の歌
第2話 天使と出会った日
花粉枚散る春が過ぎようとしている今日この頃。私は知らない河川敷をさまよっていた
スマホで現在地を調べようとしても無駄。残酷にも、斜線入り充電マークが表示されるだけで終わる
状況は深刻だ。なんせ、今朝は朝ごはんを食べる暇がなかった。そして今は昼過ぎ…ここから導きだせる答えは1つ
「お腹…空きました」
ぎゅぅ~、と鳴るお腹を押さえつつ、とぼとぼと歩き続ける。いつか飲食店にたどり着けると信じて!
しかし、世界は残酷にも私に牙を向いてくる。そう、1時間歩き続けて何もなかったのだ
最先端都市で餓死しかけるとは…この学園都市の区画はどうなっているのだ! 責任者をここに呼べい!
「うぅ~」
ここはエネルギーを効率よく扱うべきだと考え、近くのベンチに座り体力を回復させる
「すぅ~…はぁ~」
空気を食べて空腹をごまかす。うん、もちろん意味はないね
足から痛みというなの疲労がなくなるまではベンチで休憩タイム。足をプラプラし、鼻歌を歌う、これだけで時間はみるみる過ぎていく
しかし、残念ながら私は運が悪いらしい。なんと、ポツポツと雨が降ってきたのだ
「ふぅ~…セーフ」
小雨は大雨へと進化をとげて、目の前であらゆる音を相殺している
こうなると予想して、私は疲れた足を酷使して雨を防げる場所まで移動した。といっても、室内ではなく屋根のある公園のベンチなのだが…
しかし、ここでまさかの文明開花。なんとそこには自動販売機が置かれていたのだ!
自動販売機…あぁ自動販売機…
都会では無駄に多く設置されていて、値段の高さに抵抗感を覚えながらもなんだかんだで使ってしまう、あの自動販売機に私は命を救われようと…
ガサガサ…ゴソゴソゴソ
アレオカシイナ サイフノカンカクガナイゾ???
そこで私は、今朝のことを思い出した…
ほわほわほわ~~~~~~~~~
「それじゃあ、俺は理事長に圧を…挨拶をしてくる。お前は先に事務所に行ってくれ」
「わかりました。事務所に着いたら何をしてればいいですか?」
「荷解きでもしてればいい。あと、お前の持ち金はちゃんとこの都市用に変えて事務所に置いておいた。確認しておけ、あれがなければお前は一文無しだ」
私たちが引っ越してきたこの『学園都市 エレメント』は、日本の要素が色濃く出ているが、一応名目上は独立国家となっており、なぜか「円」が使えない
到着当日に変えるのは面倒だったので、私は事前に貯金を都市用貨幣に変換して、新しい住居兼事務所となる建物に送って置いた
「はーい。事務所まではどう行けばいいですか?」
「今から言う道を覚えておけ…まず、あのFリーマートを…」
ほわほわほわ~~~~~~~~~
「Pー!!!」
私はそとの雨音にも負けない声でそう叫び、地面を強く叩いた。そして、その衝撃で私に電流走る…
世はまさに大電子マネー時代。あらゆるものが電子マネーで買うことが可能…つまり、PayをPayとすることで飲み物を買うことも…
思い立ったが吉日。私はスマホを取り出して電源を…
「あー…そうだった」
忘れていた。現在、私のスマホは「充電足りません報告」以外の機能が使えないんだった…
……
「確かに、迷子になった私も悪いですよ! 飛行機でスマホの充電を使い果たし、ろくに充電もしなかったですよ! けど! せめて1000円、2000円ぐらいは持たせてもよかったじゃないですか!」
うん、声に出してわかった。どう考えても私が悪い
だが、まあ…少しぐらいはPも悪い
「さーて、どうしましょうかね~」
私はベンチに寝転び、足をパタパタさせる。ふと、逆さまの視界に、城のような巨大な建造物が映る
「あれって…」
この都市には6つの学園が存在する。そのうちの1つに、中世ヨーロッパのような建物の学園があったはず
確か名前は…
「聖歌学園…でしたっけ?」
「白が抜けてる。正式名称は
「ふぇっ?!」
私は飛び起きる。すると、私に声をかけてくれた子と目があった
腰までの伸びた金色の髪に、夜空の星のような白銀の瞳。顔も小さく、パーツの配置も完璧で、一目見て彼女が美少女だと分かる圧倒的美貌
そんな子と目があったら、見惚れてしまうのは人として、学生として、思春期として、普通のことだろう
ザーっという雨の音以外が聞こえなくなる。私は目の前の子の顔を観察する。クソ、雨が止んでいたら、匂いも堪能できたのに…
すると当然、彼女は困ったような表情になる
「その…えっと? なに?」
うん。当然の反応で、間違いなく変なのは私の方だ。ここは、素直に謝ろう。問題になったらPに殺されてしまう
「ごめんなさい! つい可愛くて、見惚れてしまっていました!」
「ああ…うん。そうよね」
彼女の反応は、恥じらいでもなく、困惑でもなく、納得であった。どうやら、自分が可愛いことを自覚しているらしい
そして、今気づいたのだが、彼女の着ている制服は白聖歌学園のものだ。つまり、あの校舎の生徒ということ。そりゃあ名前を訂正してくれる訳だ
彼女の方も私のことを観察する。そして、私が傘を持っていないことに気がついた
「傘、もってないのかしら?」
「はい…まあ、その…色々ともっていなくて…」
「ふーん…」
そんな返事をしながら、彼女は私の隣に座る。そして、そこで彼女も傘を持っていないことに気がついた
つまり、彼女も雨宿りなのだろうが、わざわざここで雨宿りしなくとも、校舎で雨宿りをすればよいのではないのだろうか
そうすれば、ここに来るまでの道中で濡れる必要もない…校舎に居づらい理由でもあるのだろうか?
その白聖歌学園の生徒は、何もない天井を眺めている。何も言わず、ただボーッと…
少し経つと、白聖歌生の子が立ち上がり、自動販売機に向かい合った。顎に手を当てて数秒考えると、ボタンを押して、自販機から飲み物が落ちてくる
買ったものは温かいおしるこ。どうやら、冷たいものを買うか、温かいものを買うかで迷っていたのだろう
ベンチに戻る間際に、少女が私に声をかけてきた
「あなたは、なにか飲まないの?」
「私、一文無しなので!」
自慢するようなことではないが、自慢するように言ってやった。これぞ自虐ネタというものだ
「えぇ…まあ、それなら」
彼女は、そう呟いて自販機に戻り、もう1缶おしるこを買って私に投げてくれた
「えっと、これは?」
「私からの慈悲よ。感謝して敬いなさい…と、普段なら言っているところなのだけど。1つ頼みを聞いてくれないかしら?」
「あなたは命の恩人です!!!」
即座に深いお辞儀をし、そのままの勢いで缶を開けておしるこを口へと流し込む
広がる糖分。満たされる水分。そして、微力ながら膨らむお腹…ほんの少しだが、私の飢えが収まった
「…ふふっ、そんなに美味しそうにしてくれるなら、買ってあげた甲斐があるわね」
そんなことを言いながら、少女も缶を開けておしるこを飲み始める。しかし、彼女は私ほど飢えていた訳ではないので、イッキ飲みはしていない
「それで、頼みごとというのは?」
おしるこにがっつき興奮していた私だが、もちろん、話を聞いていなかった訳ではない(空腹であまり覚えていないが
おしるこ1缶と言えど、その1缶がなければ私は死んでいたかもしれない…つまりは命の恩人
そんな人の頼みなのだから、私にできることなら、なんでもしてあげたい。あと、おしるこにも
「私からの頼みは1つ。私の歌を聴いて、率直な感想を教えてほしいの」
「それだけで、いいんですか? 臓器とかエッチなこととか…」
「しないわよ、そんなこと。今は雨が降っていて、歌うのにちょうどいいのよ。それで、引き受けてくれるのかしら?」
「恩人様の頼みを、聞かないわけないじゃないですか」
「そう? ありがとう。それじゃあ…」
少女は立ち上がり、マイクを手に持つジェスチャーをする。そして、少女のアカペラでのミニライブが始まった…
◇◇◇◇
彼女の歌声を聴いている間、私の口はきっと開きっぱなしだった。もし油断していたら、泣いていたかもしれない。まさに、天使の歌声
それほどまでに、その声は神々しく、その歌は圧倒的なものだった。つまり、彼女は天使さんということだ
白聖歌学園には『神々しさ』のある『魔法』を扱う生徒が集まっているとは聞いていたが、このレベルは明らかな別格。こんなのがホイホイいてたまるものか
しかも彼女、おそらく全力で歌っていない。その証拠として、心の高鳴りに連動して放たれる『心の魔光』が少ししか出てきていなかった
それで、これなのだ。末恐ろしいというか、普通に恐ろしい…
「どうだったかしら…?」
「言…葉に…できなぁい」
「強いていうなら?」
「天使の歌声…ですかね? 本当、凄かったです」
この都市に来て最初にあった学生がこれとか、正直不安になる…が! さすがに天使さんが凄すぎるだけだろう
「そう…天使ね…」
私は本心から褒めたのだが、何故だか天使さんが不服そうに見えた。何か失礼なことでも言ってしまったのだろうか
「まっ、いいわ。褒めてくれているみたいだし」
「褒めたりなかったですか!?」
「いいわよ、素直な感想だけで。それ以外には意味なんてないもの」
確かに褒められると嬉しいが、内容のない上部だけの褒めには、嬉しい以外には意味がない。承認欲求は満たされてくれるけど…
それにしても、彼女の求める「褒め言葉」は何だったのだろうか?
天使の歌声…で少し不服そうなら、ベクトルやジャンルが違う? いや、でも彼女の歌は間違いなく、それ系の歌だった
うーん…わからん
わからないという結論を出したところで、天使さんが声をかけてきた
「そういえば、あなた、名前は?」
おっと、そういえば恩人さまに、まだ名乗っていなかった。危ない危ない…
「私は
「
そう言って、由奈黄は髪を靡かせる。その顔は自信に満溢れており、雨空のなかに太陽のような存在感を感じた
と、感じたとたん、本当に雨が弱くなってきた
「雨、止みましたね」
「そうね。それじゃあ、私はそろそろいくわね」
そう言って、由奈黄は荷物を持った。それを見て、私も荷物を持って彼女の隣に並ぶ
「そういえば、白奏はどこに向かっているの?」
「えっと、確か…」
私は目的地を由奈黄に伝えた。それを聞いた由奈黄は呆れた顔で、息を吐く
「来た道を戻って、7つ前の十字路で右に向かって進めば辿り着けるわ…進みすぎよ」
「わーぉ…w」
「なに笑ってるのよ…」
一周回って面白くなり、ちょっと笑ってしまった。ははは、自虐ネタに消化しなければ泣けてくる
「はぁ、まあいいわ。それじゃあ、私はもう行くわね」
由奈黄はクルッと回り、私とは反対の道を向く。そして、首だけこちらに向けてこう言った
「じゃあ、またいつか。あなたとは、また会えるきがするわね」
私は小さくなっていく由奈黄の背中を眺める…ことなく、「それではー!」と手を降って来た道を駆け足で戻った
何故かって? はは、おしるこが切れる前に事務所に辿り着かなければならないからさ
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