第8話 新しい希望

その日の夜、レニはベッドに横になりながら、ハルトとの会話を思い返していた。過去に囚われていた自分を受け入れ、少しずつでも前に進んでいくことができるかもしれない。その可能性が、彼女の心に小さな希望を灯していた。


「少しずつ、少しずつでいい…」


レニは心の中でそう繰り返しながら、ノートを手に取り、今日の出来事を書き始めた。日記を書くことが、彼女にとって日常の一部になりつつあった。言葉にすることで、心の整理ができ、自分の考えが少しずつ明確になっていくのを感じていた。


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**今日の日記**


今日はハルトさんと、私の過去の話をした。ずっと心の中に閉じ込めていた記憶を話すのは怖かったけど、ハルトさんは優しく聞いてくれて、私の気持ちを理解してくれた。彼は「過去を受け入れることが大事だ」と言っていたけど、確かにその通りかもしれない。過去は変えられないけれど、それをどう受け止めるかで、これからの自分の未来も変わるのかもしれない。


私はまだ、過去に囚われることがあるけれど、ハルトさんが言うように、少しずつ受け入れていけるようになりたい。そして、彼のように前を向いて生きる力を持ちたい。


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ペンを置いたレニは、ふと窓の外に目をやった。夜空には無数の星が輝いていた。どれだけ暗い夜でも、星がそこにあるように、彼女もまた小さな光を見つけることができるかもしれない。そう思うと、少しだけ心が軽くなった。


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次の日、レニはいつものカフェでハルトと会うことになっていた。彼女は昨日の夜のことを少し話したいと思い、早めに家を出た。カフェに到着すると、ハルトは既に席に座って彼女を待っていた。


「おはよう、レニ。」ハルトがいつものように優しい笑顔で迎えた。


「おはようございます。」レニも自然と笑顔になった。以前なら緊張してうまく言葉が出なかったかもしれないが、今は少しずつ自分の思いを伝えられるようになっている。


「昨日の話、すごく考えました。私、まだ怖い気持ちはあるけど、ハルトさんの言葉に励まされて、少しずつでも過去を受け入れていきたいと思うんです。」


ハルトは頷きながら彼女の話を聞いていた。「それはすごく良いことだと思うよ。何か新しいことを始めるのは怖いけど、レニならきっとできる。」


「ありがとうございます。それで、私も少し挑戦してみたいことがあって…」レニは少し緊張しながら続けた。「ハルトさんに感化されて、私も新しい趣味を見つけたいと思ったんです。何か自分が夢中になれるものを探してみようかなって。」


その言葉にハルトは目を輝かせた。「それはすごい!どんなことに挑戦してみたいの?」


「まだ決めてないんですけど…絵を描いてみたいなって思っています。実は、子供の頃に少しだけ絵を描くのが好きだったんです。でも、自分の絵が人と比べて下手だと感じて、やめてしまって…でも、また少しずつ始めてみようかなって。」


ハルトは嬉しそうに笑った。「それは素晴らしいよ!誰かと比べる必要なんてないし、自分が楽しめるならそれでいいんだよ。俺も応援するよ。」


「ありがとうございます。まだ不安だけど、少しずつやってみます。ハルトさんみたいに、新しいことに挑戦してみたいんです。」


レニの瞳には、確かな決意が宿っていた。彼女は少しずつではあるが、自分自身と向き合い、過去に縛られることなく新しい未来を見据え始めていた。


「そういえば、俺も新しい場所を見つけたんだ。次の週末に、レニと一緒に行けたらいいなと思って。」


「新しい場所…どんなところなんですか?」


「ちょっと静かな美術館なんだ。絵を描くのが好きなら、きっと楽しめると思うよ。」


レニはその提案に少し驚いたが、すぐに笑顔で答えた。「それ、すごく楽しそうですね。ぜひ行ってみたいです。」


こうして、二人は次の週末の計画を立てた。レニにとって、絵を描くことに再挑戦するという決意は、新しい自分を見つけるための第一歩だった。そしてハルトは、彼女を支えながら共に歩んでいくことに心からの喜びを感じていた。


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週末、美術館で過ごす時間が、二人にとってさらに絆を深める特別なひとときとなることを、彼らはまだ知らない。しかし、二人が新しい希望を胸に抱いて進んでいくその姿が、これからも多くの喜びをもたらしてくれることは確かだった。

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