第6話 新しい場所への挑戦

「今日は、少し遠出してみない?」ハルトが微笑みながらレニに言った。


「遠出…ですか?」レニは驚いた表情を浮かべたが、すぐにハルトの提案に心が踊った。彼女は普段あまり遠出をしないため、どこか新しい場所に行くのは少し怖くもあり、同時にワクワクする挑戦だった。


「そう、実は少し前から行ってみたかった場所があるんだ。自然がたくさんあって、ちょっとした散歩にもぴったりな場所なんだけど、一緒にどうかな?」


ハルトの提案に、レニは少し考えた。彼女にとって新しい場所は、環境の変化による不安も伴う。それでも、ハルトとなら挑戦してみようという気持ちが湧いてきた。


「…行ってみたいです。でも、私が迷惑をかけたらどうしようって、少し不安です。」


「大丈夫だよ。無理しないでいいし、疲れたらいつでも休めばいいんだから。楽しむことが一番だからね。」


その優しい言葉に、レニは頷いた。「わかりました。じゃあ、一緒に行きましょう。」


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二人が向かったのは、市の外れにある自然公園だった。静かな森や湖が広がる場所で、ハルトは車椅子でも問題なく楽しめる散策路があると調べていた。


公園に到着すると、レニはその広々とした空間に驚き、少し緊張しながらも自然の美しさに心を奪われた。木々の間を吹き抜ける風や、さわやかな草の香りが、彼女の心を落ち着かせてくれた。


「こんなに広いんですね…」レニは静かに言った。


「うん、静かでいい場所だろう?ここに来ると、なんだか気持ちがリセットされる気がするんだ。」ハルトは嬉しそうに周囲を見渡した。


「そうですね…すごく落ち着きます。」レニも自然に笑顔を浮かべていた。


二人はゆっくりと散歩を始めた。ハルトの車椅子の音と、レニの静かな足音が心地よいリズムを刻み、周りの自然と調和しているようだった。


「ねえ、ハルトさんはいつもこうやって新しい場所を探しているんですか?」レニがふと聞いた。


「最近は特にね。前は、どうせ行ける場所が限られてるって思ってたけど、調べてみると意外と行ける場所ってたくさんあるんだよ。ネットで見つけた時、この公園もいつか来たいって思ってたんだ。」


「そうなんですね…すごいです。私も、もっと外に出てみようかな。」


レニの言葉に、ハルトは頷いた。「そうだよ。無理はしなくていいけど、少しずつ自分の世界を広げていくと、意外な発見があるよ。こうして一緒に散歩するのも、すごくいい時間だろ?」


「はい、そう思います。新しい場所に行くのは不安もあるけど、ハルトさんとなら安心できます。」


二人は歩き続け、やがて湖が見えてきた。穏やかな水面が静かに光を反射し、自然の中に包まれたその光景は、まるで二人だけの世界のように感じられた。


「すごく綺麗ですね…」レニは湖を見つめながら呟いた。


「本当に。来てよかったよ。こういう場所で、ただゆっくりするのも贅沢な時間だよな。」ハルトも同じように湖を見つめていた。


しばらく二人はその場で静かに過ごしていた。レニは、こうしてハルトと一緒にいることが、以前よりもずっと自然に感じられるようになっている自分に気づいた。彼のそばでは、自分を無理に作らなくてもいいし、少しずつ自分を出せるようになっているのだ。


「ハルトさん、今日は来てよかったです。私、これからも新しいことに挑戦してみようと思います。」


「そうか、それは良かった。俺もレニと一緒にいろんな場所に行けたら嬉しいよ。」


「はい、少しずつでも、自分の世界を広げていきたいです。」


その言葉に、ハルトは心からの微笑みを浮かべた。彼女が少しずつ前を向き、自分の道を歩み始めていることが、彼にとっても大きな喜びだった。


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その日の帰り道、二人はまだ新しい挑戦に向けた計画を立てていた。どこへ行くか、何をするかはまだ漠然としていたが、二人ならどんなことでも乗り越えていけるという確信が少しずつ芽生えていた。


新しい場所、そして新しい挑戦。二人はそれを通じて、互いにもっと強く、深く繋がっていくことを、次第に感じ始めていた。

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