第2話 再会の予感
スコールの夜から数日が経った。ハルトはその間、何度もあの古寺で出会った女性、レニのことを思い返していた。彼女の控えめな笑顔、どこか不器用な話し方、そしてカラオケという共通の趣味。それはハルトにとって、久しぶりに「誰かと繋がった」という実感を与えてくれた瞬間だった。
「また会えるといいな…」
ハルトは、つぶやきながら車椅子を動かし、いつものカフェへ向かった。このカフェは、彼のお気に入りの場所であり、そこでよく一人で時間を過ごしていた。今日もそこで何かを考えようと、少し早めに出かけた。
カフェに到着すると、ハルトは窓際のいつもの席に座った。外の風景をぼんやりと眺めながら、冷たい麦茶を一口飲む。麦茶と冷奴が大好きな自分に気づいたのはいつだっただろうか、と考えた。そんな思い出の中に、レニとの共通点が思い出される。
「麦茶、冷奴…彼女も好きだって言ってたな。」
そう思うと、彼女とまた会って話したいという気持ちがさらに強くなった。あの雨の夜に交わした短い会話が、何故かハルトの心に深く残っていた。そんなことを思っていると、カフェのドアがカランと音を立てて開いた。
ふと目を向けると、そこには見覚えのある姿があった。そう、レニだ。少し緊張した様子で、彼女はカフェの中を見渡している。
「レニ?」ハルトは驚きつつも、自然と声をかけていた。
レニも驚いたようにこちらを見て、少し戸惑ったような表情を浮かべた。「…ハルトさん?」
偶然の再会に、ハルトは少し恥ずかしそうに笑った。「また会えたね、ここで。」
レニは戸惑いながらも、少し笑みを浮かべた。「本当に…偶然ですね。私、ここに来るのは初めてなんですけど、なんだか入ってみたくて。」
「そうなんだ。良ければ、ここに座らない?」
ハルトは窓際の席を指し、レニを誘った。彼女は少し迷いながらも、ハルトの隣に静かに腰を下ろした。
「ここ、いいカフェだよ。よく来るんだ。」
「そうなんですね…なんだか、落ち着く感じですね。」
二人の間には、またあの雨の夜のように、自然な沈黙が流れた。しかし、その沈黙は前回よりも温かみがあった。少しずつ、言葉がいらなくてもお互いを感じられるようになっている気がした。
「レニ、今日は何を頼むの?」ハルトがそう問いかけると、レニはメニューを見ながら答えた。
「うーん、麦茶があれば…それと冷奴があると嬉しいんですけど。」
ハルトは思わず笑った。「やっぱり!俺も麦茶と冷奴が好きなんだ。ここでもよく頼むよ。」
レニは驚いたように目を丸くしたが、すぐに微笑んだ。「本当に…趣味が合いますね。」
「うん、なんか嬉しいね。こんな風に、ちょっとしたことで共通点があるとさ。」
その言葉にレニは頷いた。少しずつ、彼女も緊張がほぐれてきたのか、話しやすくなっているようだった。二人はカフェの穏やかな時間を共有しながら、少しずつお互いのことを知っていった。
「レニ、次の週末、もしよかったらまた一緒にカラオケ行かない?」ハルトがふと提案すると、レニは驚いたように彼を見た。
「カラオケ…ですか?」
「うん。前に言ってたじゃん、歌うの好きだって。一緒に歌えたら楽しいかなって思って。」
レニは少し考え込んだが、やがて小さく頷いた。「…行ってみたいです。でも、上手く歌えないかもしれません。」
「大丈夫だよ。俺も下手だからさ、一緒に楽しめたらそれでいいんだ。」
その言葉に、レニは安心したように微笑んだ。彼女の笑顔はまだ控えめで、どこかぎこちないが、それでもハルトにとってはとても大切なものだった。
「じゃあ、決まりだね。次の週末、カラオケに行こう。」
「…はい、楽しみにしています。」
こうして、ハルトとレニの距離はまた少し縮まり、次のステップへと進んでいく。そして、二人の物語が再び動き出したことを、二人はまだ知らない。
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