第24話
「さあ、さあ。難しい話はその辺して、ご飯にしましょう。テンマ様もお腹が空いているでしょう?」
ゴウとの挨拶に続いてテンマの質問が続いてしまったことでタイミングを失っていたのだが、引っ込んでいたミオが最後に魚の煮つけが乗った大皿を持って現れると半ば強制的に食事の時間となった。
「いただきます」
テンマが箸を取るのに苦労していると、そこかしこから声が発せられる。どうやら、この時代になっても、種族が変わっても、この習慣は残っているようだ。
幸い、テンマの利き腕は残っていたので、箸を使う事に不便はなかったが片腕では皿を持つことができずに些かはしたない食べ方になってしまった。
「すみません。皆さん、上品に食事されているのに……」
コボルトという偏見があることは否めないが、予想に反して彼らの食事スタイルは穏やかなものだった。
今回はロゼのおかげで肉の量が普段よりも多いとのことで、いつもはもっと粗食であるらしい。それもあって、食事ができることに対して感謝の気持ちが溢れ出ているのだ。
それは老若男女にかかわらず、この場に集まった全員から感じ取れた。
彼らが頬張るのを見ているだけで幸せな気持ちになれる。そんな感情を持ったのはテンマにとっては初めての経験だった。
ところが……。
「ああ、申し訳ないでござる。拙者の気が利かないばかりに、不便をさせてしまったでござるな!?」
テンマの言葉にクナイは慌てて動き出すと、それを契機に他のコボルト達も手が届かないだろう食材を取り分けてくれる。
「ああ、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんだけど……」
しかし、これが思わぬキッカケとなり場の空気が和むことになった。
どうやら、彼らも彼らでテンマを前にして畏まっていたようなのだ。
「がっはっは。わしは我慢の限界でござる。皆も普段通りに食べるが良い。テンマ殿も遠慮などせず、好きなように食べてくだされ」
互いの緊張を感じ取ったのかゴウは声を上げて笑い出すと、ミオに酒を持ってくるように告げる。
ミオも呆れたような表情を浮かべるも反論はせずに奥に向かうと、しばらくして両手で抱えるほどのサイズの樽を運んできた。
「テンマ殿は酒は嗜まれるでござるか? これは、時々旅の行商人から仕入れている焼酎なのでござるが、こんな時でもなければ飲む機会もござらんのでなあ。付き合ってくださらぬか」
「焼酎……。あまり得意ではないけど、お湯割りだったら」
一般的にはお湯割りの方が上級者の飲み方なのだが、テンマの場合は水割りやロックに比べるとアルコールの角が取れる感じがして飲みやすいと感じていた。ただ、その分焼酎の芋臭さが増す上に酔いの回りも早くなるのだが、そこは好みの問題だろう。
しかし、これにコボルト達は不思議そうな反応を見せた。
「お湯割り……。ほお、そのような飲み方があるのでござるか」
どうやら、彼らにとってはストレートか水割りしか選択肢はなかったようで、お湯で割るという発想そのものがなかったようである。
氷も魔法に分類される技術で作れないこともないようなのだが、この村落では貴重品なので贅沢な使い方はできない。
「ああ、でも、わざわざお湯を沸かすのも手間でしょうから、水割りでも構いませんよ? 飲めなくはないので」
コボルト達の反応に場違いな発言だったのかと慌てて代案を提示するも、コボルト達の興味はお湯割りに移っていた。ミオも率先してお湯を沸かし始め、すぐに宴会の準備が整っていったのである。
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