第23話

「ようこそ、テンマ殿。わしがこの村の長をしておるゴウでござる」

 食事に入る前にゴウが深々と頭を下げて挨拶してきた。大きくも小さくもない体型――テンマからしたら当然小さい――だが、長ならではなのか威厳を漂わせる風格に気圧される感覚すらあった。

 聞けば、コボルト達は他にもいくつか集落を作って各地で暮らしているとのことで、中でもここは交流の要所として代々受け継がれてきた場所であるらしい。

 しかし、交通の要所であるものの、桜島にも近いことから度々魔獣の襲撃を受けて大きな被害を受けていたようだ。しかし、風向きを考えるとマシな方で、より被害の大きいのは大隅半島の方であるのは3万年経っても大きな違いはないようだ。

 そんな状況下で赤眼のアッシュパンサーが出現したことで、壊滅の危機であったらしい。

「初歩的な質問で申し訳ないんですが、あの魔獣ってのは何なんですか?」

 ロゼが誕生した瞬間を目撃しているのだが、そもそも何が起こったのか理解していない。噴煙が凝縮されてロゼになった。その事実しかわかっていないのだ。

「おや。テンマ殿はこの辺の生まれではないでござるか? 古の時代から魔の山が火を吹いたら生まれる異形の魔物と伝わっております。あれは天災に近い存在でござるが、おかげで他所の厄介な連中を近寄らせぬという存在でもあるのでござるよ。北の地では地面から魔物が湧き出てくると言いますからなぁ。こちらでも稀に生まれてきますが、やはり山から降ってくることの方が多いでござる」

 この時代、桜島は魔の山と化してしまっているのかと微苦笑を浮かべてしまう。

 と、ここでもウィンデーが割り込んでくる。


『ロゼを解析した結果、一種のセーフティーガードであることが判明しています。地震、噴火による災害による地形的な被害を軽減するため、生じたエネルギーを変質させてモンスターとしてポップさせる仕組みです。ポップするモンスターの種類はランダムですが、災害規模の大きさによってレア種が発生しやすい傾向にあるようです。ロゼもレア種に含まれることから、今回の噴火が大規模なものだったと推測されます』


 現実世界にモンスターをポップさせるシステムってことなのか⁉ と内心驚いてしまうも、どうりで3万年以上も経過している割に地形の変化がほとんど見られないことに納得もしてしまった。

 さすがに建造物といったものは経年劣化に耐えられずに消えてしまっているのだろう。何しろコンクリートの寿命は条件にもよるが良くても100年くらいだったと記憶している。どこかに痕跡くらいは残っているかもしれないが、原形を留めているとしたら、人為的な手が入っていない限り不可能だろう。

 しかし、ここで新たな疑問も浮かぶ。

「なるほど。そうなると、魔獣はどういう生活を?」

 何を食べているのか? そもそも、何かを食べる必要があるのだろうか? 他にも生態系にどのような影響を及ぼしているのか気になる点が多い。

「テンマ殿は面白いことを気にされるでござるな。わしらが知っているのは、あれらはただ暴れるのみで、討ち取られるか暴れ疲れて消えるのを待つかしかない存在でござるからなあ。故に、ロゼ殿には驚いているのでござるよ」

 災害に対して意思疎通が図れるはずもないという反応だ。

 対してウィンデーの回答も似たようなものだった。


『初期の災害によって生じたエネルギーをチャージした後は破壊衝動に従って消費するだけです。繁殖してしまっては生態系に必要以上に悪影響が出ることが必至なため、自然消滅するようにプログラムされています。ロゼに関してはマスターの安全を確保するという観点から必要と判断しプログラムを改変、破壊衝動を制御し長期活動が可能なように捕食によるエネルギーの補給も可能になっています』


 なっています――とは? と、思うも口には出さない。

 どうやら、ウィンデーとウィングのプログラムでは、ウィンデーの方が高位の命令を出せるようである。

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