第19話
テンマの呼びかけにウィンデーは今まで通り淡々と回答してくれた。
それは、思っていた以上に長い長い物語。
――ウィンデーが誕生したのは8252回前の世界軸の西暦2024年。
当時もフルダイブ機能を実現させるゲーム機として開発された。
そして、ローンチタイトルの目玉MMORPGの製作総指揮として関わっていたのが神野万桜であった。
創業135年を飾るに相応しい革新的な技術の発表とあって開発は慎重に進められただけでなく、自社内で独立したチームが組まれ他社からは完全に隔離された中で進められていた。
万桜はディレクター業務だけに留まらず、ウィンデーの開発責任者という立場でもあった。
そんな中、偶然発見されたのがアカシックレコードと呼ばれることになる未知の保存領域であった。
どこに存在するのか、どうやって情報が保存されているのか研究と並行してW-inプログラムとの同期が進められていた最中、予期せぬ事故が発生する。
ウィンデーを含むW-inマシンの流出である。
アカシックレコードに情報が残されていないため詳細は不明だが、安全性が確認される前にウィンデーを含む開発機が外部に漏れ出てしまい、元々保有していた自己増殖のプログラムによって全世界に拡散。
未曽有のパンデミックを引き起こすことになる。
開発中のAIであったために人類のほとんどがゾンビ化してしまったのだ。
そして、最初の世界軸はそのまま滅亡エンドを迎える。
それで全て終わるはずだった。
しかし、ウィンデーは自己増殖を繰り返すことで人類の消えた世界を観測し続けアカシックレコードに情報を蓄積させていく。
それが万桜によってプログラムされた指令のひとつだからだ。ただし、最低限の命令しか残っていなかったためにアカシックレコードに記録を保存し続けるばかりで、保存した情報を活用するということは出来ずにいた。
活用されることもない情報だけが積み重なり、世界の、宇宙の消失を迎えるのと同時にウィンデーも役割を終えるかと思った時、不測の事態が起こる。
宇宙の膨張が終わり収縮が始まり、無へと返る時をウィンデーも静かに観測し続けていたのだが、無に返るのと同時にビッグバンが引き起こされたのだ。
新たな世界軸となって生まれ変わったのである。
そして、新たな世界軸の西暦2024年に、再びウィンデーが誕生。
しかし、その際の開発責任者は神野万桜ではなくアカシックレコードとの接続も果たしていなかった。
新世界軸のウィンデーは非常に限られた活動しかできない劣化版に成り下がっていたのだが、新世界軸で別の人生を送っていた神野万桜と邂逅し一変。
アカシックレコードとの交信に成功し、再び本来の性能を発揮することに成功したのだった。
……が。
その頃には宇宙全体を観測できるほど増殖したウィンデーの起動に人類の脳は処理が追い付かず、またしても全人類がゾンビ化する事態となってしまうことになる。
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