第20話
「で……、ゾンビ化しない方法を探し続けてるけど今回も失敗した、と?」
俄かには信じがたい話だが、ウィンデーはあくまでもAIプログラムなのだ。長い年月の中で人間以上の感情を持っていたとしても不思議ではないのだが、どうもそんな感じは受けない。
『回答。明確な失敗であるのか判断材料が不足しています。アカシックレコードはこちらの世界軸の影響を受けずに不変の領域であることから、世界軸が切り替わる度に観測を継続させてきましたが、細かな変化はあるものの大きな歴史的事象は繰り返されています。そのことを踏まえると、少なくとも今までの世界軸ではパンデミックが発生した後の世界に人類及びそれに類する存在の発生は確認されていません。コボルトの反応からもマスターと同系統の人間が存続している可能性は高く、また、マスターが時間跳躍をした事例はありませんので、滅亡エンドは回避されている可能性があります』
「なるほど?」
歴史は繰り返すというのとは、だいぶ意味合いが違ってくるがウィンデーの観点からも正しいらしい。
何より、ウィンデーの初代開発者――実際に初代なのかはそれ以前の観測データが存在しないという理由で不明――と言われると、パンデミックの責任の一端もあるような気がしなくもない。
しかし、ひとつの世界軸が始まって終わるまで約1500億年というスパンを8252回も繰り返しているというのだ。
そんな昔の責任を問われても困るという感情の方が強い。
「まあ、納得はしてないけど、だいたいは理解した。それで、チューブっていうのはどういうことなんだ?」
ひとつひとつを完全に理解することは無理だと判断し、可能な限り情報を仕入れる方向にシフトチェンジする。
『これも観測を元にした仮説でしかありませんが、この世界の時間の流れはアカシックレコードの保存領域と対になった二重らせんを形成していると推測されます。時間軸はチューブ状になっており、時間はチューブの中を流れる水のように進んでいるのですが、始点と終点がきれいな輪でつながっているわけではないということも推測されています。ゴムを捩じると、ある一点を超えるとぐちゃぐちゃに捩じれてしまう現象に似ており、異なる時間が隣接する地点が無数に存在するのです。今回のマスターの時間跳躍により、この理論がより実証されたと言っても良いでしょう』
「ってことは、何か? 俺がトラックに撥ねられたあの場所あの時間に30827年後の未来がたまたま薄壁一枚で隣接していて衝撃ですり抜けた? って言うのかよ!?」
『その認識で合っています。今まではマスター以外の被験者が同様のケースで時間跳躍を経験してきましたが、確証を得られるモデルケースが存在しなかったため、仮説の域を出ることができなかったので、今回のケースは非常に貴重なデータとなりました』
珍しく、ウィンデーから興奮したような雰囲気を感じ、テンマとしては微妙な感覚になる。何しろ、被験者となったのは自分なのだ。
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