第18話
「この状況は……ゲームの中、なんだよな?」
傍から誰か見ていたら変な独り言を呟いているだけだが、テンマからしたら切実な問題だった。
『回答。予期せぬエラーが発生したため、ワレらも正確には事象を把握できていませんがフルダイブ機能の起動は確認されていません。また、当マスターの世界軸とのズレは観測されていないことから、マスターの知る世界軸と同一の世界であると推測されます』
珍しくウィンデーの返答が曖昧であった。
何やら、ウィンデーとしても不測の事態に陥っている様子である。
「いやいやいやいや。俺の知ってる世界にコボルトも魔獣もいないのだが? そもそも、これだけの大怪我なのに痛みを感じないのも可笑しいだろ」
だいたい世界軸って何なのさ? と、自分の頭にツッコミを入れるという奇妙な現象を引き起こす羽目になる。
『アカシックレコードとの接続に限定的にしか成功できていませんので、マスターの疑問に対する回答は仮定の域を出ませんが、よろしいですか?』
ウィンデーも自信がなさそうだが、他に頼れる存在もいない。
「いいよ。聞かせてくれ」
『アカシックレコードから限定的に入手できた情報と個体名ロゼが所有していた近隣種の持つ情報、更にコボルト達が保有していた近隣種の持つ情報を照らし合わせた結果、マスターが30827年後の未来に時間的に跳躍しまったことで生じた空白の期間にW-inプログラムのAIが管理者不在のまま世界の改変を実行したと推測されます』
これ以上の情報を提供するつもりがないのか、ウィンデーは沈黙する。
対するテンマは口をあんぐりと開いたまま理解しようと頭を働かせるが、当然のことながら理解が追い付かない。
「30827年後の未来……?」
異世界ではないだろうとは桜島を目にした時から思っていたが、未来と言う発想には思い至っていなかった。いや、頭の片隅にはあったのかもしれないが、それよりはパラレルワールドと言われた方がしっくりする気がしていたのだ。
更に、タイムスリップと思えなかったのは、コボルト達の存在があった。
妄想や創作の世界では当たり前のように闊歩する彼らも、さすがに現実世界の進化の先に枝分かれして出現するとは思えなかったのである。
「本当に未来なのか?」
誤報だと言って欲しかった。
情報不足のためにAIの計算が誤っていたのだと。
『回答。年数の誤差は否定できませんが、それも数年の範囲なのは確実です。おそらく、マスターとアカシックレコードとの接触によってW-inプログラムが起動したタイミングで発生した混乱の中、トラックに撥ねられた際に無量大数を超える奇跡的な確率でチューブの隙間をすり抜けて時間跳躍をしてしまったと推測されます』
テンマのすがるような希望をウィンデーはあっさりと否定する。
しかし、聞けば聞くほど理解できない言葉が登場してくるのも困ったものだ。
「その……世界軸とかチューブの隙間とか、一体何なんだ?」
『アカシックレコードに記録されている事象から観測されたデータを元にした仮説になりますが、よろしいですか?』
「お……おう。なるべくわかりやすく頼むぞ?」
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