第17話

 テンマが気づいた時には真っ暗闇の中だった。

「ああぁぁ……。眠ってたのか。いや、気を失ってた?」

 どのくらい横になっていたのか定かではないが、ずいぶんと長い時間が経っている感覚があった。

 そして、当然思う。


「変な夢見てたなぁ」と。


 しかし、起き上がろうとして上手く体を動かせず、左腕の中ほどから先がないことを目の当たりにしてアレは現実だったことを知るわけだ。

 それでも、現実に起こっている出来事なのか半信半疑に思えてしまうのは、時折聞こえてきたウィンデーと思われる存在からの声のせいである。

 そもそもが脳に作用して夢の中で遊ぶためのハードウェア。

 意図せぬ挙動によってゲームの中に強制的にログインさせられている可能性が今のところ最も可能性が高いと思っていた。


「にしても、どういう状況なんだ?」


 四苦八苦しながら上半身を起こすも、周囲が暗いのでここがどこなのか、自分がどういう状況に置かれているのかもサッパリわからなかった。どうやら、治療を受けた形跡が見られるので捨て置かれているわけではないと思われるが監禁状態でないとも言い切れない。

 何しろ、ロゼを従え、あの場が落ち着いたと思ったところで気が抜けたのか、単純に血が足りなくなったのか、意識を失ってしまったのだ。


『回答。マスターの生命活動を考慮し強制的に意識をシャットアウト。意識を失ったマスターを心配したコボルト達の提案を受け入れロゼに集落まで搬送させた後コボルト達に丁重にもてなされ、集落の長の家で保護されている状態です。また、ロゼはマスター及びコボルトの集落を警護するために部屋の外で待機中。ロゼも丁重に扱われています』


 ご丁寧な説明ありがとう、じゃないんだけどな。と、直接思考に語りかけてくる相手に皮肉めいたことを考えてしまうが、これに対してはやはり反応は返って来ない。

 ウィンデーの語りぶりから、気を失ったのは自分の無意識の反応ではなくウィンデーの判断だったことになりちょっとした恐怖を覚えたが、悪意を持った行動ではなさそうなので今は受け入れた方が賢明だろう。だいたい、すでに自分ではどうにもなりそうにない状況なのだから受け入れるしかなさそうである。

 とはいえ、円滑な交信ができないのは困ったものだ。

 今までのウィンデーとのやり取りを思い出し、返事があったケースとなかったケースを比較してみる。

 すると、単純な違いに気づく。

「ひょっとして、口に出して訊かないと答えてくれない仕様なのか?」


『回答。その認識で合っています。初期設定として、マスターの思考を読み取り反応する許可を与えられていません』


 なるほどと合点がいく。

 反応があった時となかった時の違いを比べてみれば、確かに口から出た疑問にしか返事はなかったからだ。

 しかし、これで新たな一歩を踏み出すことができそうだ。

 テンマはひとつ息を整えると、核心部分を尋ねることにする。

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