第13話
「タユタ。くれぐれも粗相のないようにな」
万桜が名を明かしてから、コボルト達の態度に変化が起こる。劇的と言うほどではないのだが、扱いが少し丁寧になったのだ。
何しろ、神名持ちの支配者階級であるのなら、こんなところにこんな状態で独りでいることがおかしいのだ。信じ切れない部分があるのも仕方あるまい。
そもそも、それが正解なのである。
万桜としても気分を害することもない。
「任せてでござるっす」
軽い返答に万桜だけでなくこの場の全員が心配になるも、ジュウベエを筆頭に持ち場に移動を始める。
どうやらコボルト達の言う御山とは左手、東方に位置する桜島のことではなく、地元の人間でも正式な名称は知らない南方の峠を指しているようだ。
タユタも、万桜がアッシュパンサーのコントロールに失敗した時には自分達を餌にジュウベエの方に一旦逃げる手筈になっている。
そして、若様を中心にした残りのメンバーはいくつかのグループにわかれて集落を守る役割を担う。この場合は、失敗に失敗が重なったパターンなので、被害は免れないだろうことから万桜の責任も大きくなる。
「行くでござるっす」
タユタは万桜を支える腕に力を入れると歩き出す。
目的地は目と鼻の先。普段であればものの数秒で辿り着く距離なのだが、タユタの歩みは遅い。万桜に合わせているというのもあるが、彼からしたらアッシュパンサーがいつ襲い掛かってくるのか気が気ではないのだ。
口では調子の良いことを言っていても怖いものは怖い。
その辺は動物の本能として失えないものなのだろう。
そういう意味では万桜も恐怖を感じているのだから真っ当なゾンビではないと言えるかもしれない。
ボロボロの体をタユタに支えられながら、短い距離を移動していく。
「ところで、何するでござるっす?」
緊張感を和らげようとしているのかタユタは努めて軽い口調を意識しているように見える。
「あー。えーと?」
この件に関しては何ひとつ進展していない。
万桜もどう説明すればいいのか言葉に詰まってしまうも、先ほどのウェインデーの回答を思い出す。
――神名持ちは特別な能力を保有していることが多い――。
「ほら、あれだよ。神野家秘匿の能力が効くかもしれないから、試してみたいんだ」
苦し紛れの説明だったが、効果てき面であった。
「そうだったんでござるっすか⁉ ヤバっ! 自分、聞いちゃマズかったでござるっすかね!?」
どうやら、神名持ちの能力は万桜の予想通り大っぴらにしているものではないようだ。タユタの勘違いを利用して、万桜はナイショだぞ? とジェスチャーで返すだけに留める。
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