第10話
『回答としてはマスターの血液を介してアッシュパンサー、個体仮称レッドアイの保有するワレらの近隣種の書き換えに成功しています。またマスターをレッドアイの管理者に登録していますので完全にコントロール下に置かれ、現在はマスターからの命令を待っている状態です』
何ともわかりにくい説明だが、マスターを自分と仮定した場合、あのレッドアイは自分の言うことを聞くようになっている……らしい?
信じて良いのか? と率直に考えてしまう。
返事はない。ただのしかばねではないようだが、返事はない。
サポートしてくれる気配は感じるものの、もっと積極的にやってくれないものだろうかと恨めしく思ってしまう。
しかし、命令を待っている状態と言われても、どうしたものか。
そんなことを考えている内にコボルト達も若様を中心に集まってきた。
「人間殿の言う通り、あの赤眼、どうしましょうか?」
「今が討伐の好機とはいえ、下手に刺激して暴れ出したら手が付けられぬことは必至でござろうからなぁ」
意識はあくまでもアッシュパンサーのレッドアイに向けながら、コボルト達は答えを出せずに困っていた。
自分の考えもまとまらない内にコボルト達の話は進んで行ってしまう。
現状、放置するか命の危険を顧みずに最初の案である御山とやらに誘導するという意見で分かれているようだが、やはり判断に迷う最大の懸念点が彼らの暮らす集落に近すぎるという点であった。
「魔獣はそもそも暴力の権化。その中でもアッシュパンサーは危険な魔獣でござる。やはり放置はできぬ」
若様は改めて表明する。しかし、最初に宣言した時と比べると心苦しい心情が声に漏れてしまっていた。
何しろ、生きて帰れる保証のない命令をくださなければならないのだ。
言い淀んでいる若様の心情が彼を支える体からも伝わってくる気がした。
「あ……あのぉ。ちょっとすみません」
何ができるのかはわからなかったが、口を出さずにいられなかった。
ウィンデーと思われる声を信じるなら、そこで寝そべっているアッシュパンサーはコボルト達が認識している暴力の権化ではなくなっている可能性があるのだ。
正直に話して信じてもらえるはずもないのだが、介入せずにはいられなかった。
この場に居合わせてしまったからには、自分も当事者なのだと腹を括る。
「どうされた?」
体を支えてくれている若様が見上げながら問いかけてきた。
ひとつ大きく息を吐き出し、そのままスーーーッと鼻から空気を吸い込む。
「俺を残して、皆さんは少し離れていてもらえますか?」
あの声が偽りの情報だったとしても、犠牲になるのは自分ひとりで済ませたい。
すでに腕を片方食われてしまっているのだ。そうでなくとも、正気を保って生きているのが不思議な状況。
惜しくはあるが、失って誰が困るでもない。
何を?
己の命だ。
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