第6話

「え? ん? 何だ、あれ」


 黒色の煙が数千メートルという規模で青空に噴き上がっていたのだが、それがチカッと光ったかと思ったらキレイな螺旋を作りながら大きな球体になり、しかもギュッと押し固められるように一点に収束していくではないか。

 いつの間にか追いかけてきていたコボルト達も走りを止めて事の成り行きを見守るように凝視している。

 何事かと眺めていると、球形に凝縮された噴煙はウネウネと奇妙な動きを見せながら四肢を持つ獣の姿に変化していった。

 唖然となって眺めていると、偶然なのか必然なのかわからないが、獣に姿を変えた噴煙の塊はこちらに向かって飛んでくるではないか。

 その謎の現象に追いかけてきていたコボルトの方は大慌てだ。


 どんどん姿形がハッキリする。

 ハッキリするということは近づいてきているというわけで、コボルトは一致団結して迎え撃とうと身を寄せ合って身構えている。

 逃げるなら今だと思って逃走を再開しようと思ったのだが、事態は悪化。

 彼の目の前に急に壁が出現したように黒い塊によって視線が覆われる。


「え?」


 ぎゃわぎゃわと後ろの方からコボルト達の威嚇する声が聞こえてくる。

 彼の目の前に出現した壁が何であるか。

 のっぺりとした壁ではなく、硬質な灰色の体毛で覆われている。

 ギコギコギコとぎこちなく首を動かすと、目が合う。


 何と? 誰と?


 灰色の体毛に埋もれた真っ赤な眼。

 彼の身長は人並ではあるが成人男性の平均よりは高い。だというのに、見上げなければならなかった。四足獣の大きさとしては異常である。何しろ相手の全体像すら把握できないのだ。

 そもそも異常な存在なのだ。

 噴煙の中から飛び出してきたのではなく、噴煙そのものだったはずの塊。

 しかし、その眼からは生物の持つ意思を感じる。

 それだけでなく、向けられた口からは生ぬるい息遣いも感じていた。


 いや。何で相手の息を感じているのか? と彼も疑問に思う。


 カパッと開かれた巨大な口。

 湿った牙。

 良く見える特等席で見物しているからだと思い至った時には遅かった。


「あ……。今度こそ死んだわ」

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