男だと勘違いされて男子魔法師学園に入学してしまった私、どうやら才能があったみたいなので最強を目指してもいいですか?
夕白颯汰
初等部編 第1話 魔法師学園、入学!
私はレヴィア・グラステル。
母レインと父アグニスの下に生まれた一人娘だ。
国の中心部からは遠く離れた田舎町――それこそ猫や鳥が歩き回っているようなのどかで暖かい田舎町に住んでいる。
私の母は以前、魔法師をしていた。その実力は国からも認知されるほどで、街の人から慕われており困ったときにはいつでも助けてくれる素敵な魔法師だったという。
だが今は、年若くして病に罹ってしまい、魔法師を引退して家で療養している。病のせいで体が思うように動かせなくなり、大魔法はおろか通常の魔法すら放てなくなってしまったのだ。
とは言うものの母はまだまだ元気で、訪ねてくる人々や教え子と談笑したり、庭で花や果物を育てたり。曰く、『我が子の晴れ姿を見るまでは生きるわ!』と。
いっぽう父は、街で武具商を営んでいる。剣才がなくとも剣に関わる仕事がいい、と思って自分の店を立ち上げたらしい。開業から十年経った今、彼の豪快な性格のおかげもあったのだろう、「グラステル武具店」は多くの人に親しまれお得意さんも何人か抱えて繁盛している。
――そして私はレヴィア! 父から受け継いだ白髪の眩しい、蒼碧の瞳を輝かせる可憐な少女! 髪が短いからよく男の子と間違えられるんだけどね。
私はお母さんから、魔法の才能を受け継いだみたい。
母の魔法に対する適性が私にも遺伝して、幼い頃から様々な魔法が使えていた。そんな私を見て、二人は『お母さんを超える魔法師になれ、レヴィア!』『レヴィアならみんなを守れる魔法師になれるわ!』と熱意たっぷりに語った。
私が五歳になったとき、つばの大きな帽子を被った女の人が私の家にやってきて、魔法の指導をしてくれるようになった。
家庭教師ってやつ? 突然始まったことだたけど、なんだかんだ言って私は魔法が好きだったので、毎日新しい魔法を教わり、机に向かって仕組みを勉強し、ときには先生と戦いながら腕を磨いていった。
そうして二年が経ったある日、先生は『この子に教えられることはもうありません。短い間でしたが、ありがとうございました。こちらの息子さん、きっと素晴らしい魔法師になりますよ』と言って家を去った。これがつい一ヶ月前のこと。
そのころもう七歳になっていた私は、「学校」に行くか行かないかで悩んでいた。
すぐ近くの街には誰でも通える学校があり、その入学が七歳からだったのだ。
学校の勉強についていけるのかな、みんなと仲良くなれるかな……と、それはもう心配していた。しかも、普通の学校では魔法の勉強を一切しないという。
そんなところに入ったら退屈すぎておかしくなっちゃいそう、でも行かないのもな……とどっちつかずの状態だった。
だが、父が紹介してくれた学校の存在を知って、迷いは一瞬で吹き飛んだ。
『レヴィア、〈魔法師学園〉に通わないか?』
『まほーしがくえん?』
『ああ、魔法が得意な子たちが集まって、すごい魔法師になるために勉強するところだ』
『魔法、勉強できるの!?』
『そうさ、毎日毎日好きなだけな!』
『あら、アグニス、それ王立の魔法師学園じゃない。いいところだけど、入学試験はものすごく難しいって聞くわよ』
『大丈夫だレイン! レヴィアがこの二年間、一生懸命に魔法を勉強しているのを見たろう? この子ならきっと合格できるぞ!』
『……そうね、レヴィアならやってくれるわ。なんてったって、私とアグニスの子だもの!』
『どうだ、レヴィア。普通の学校じゃなくて、魔法師学園に行って魔法の勉強をしてみないか?』
幼い私の答えは、もう決まっていた。
『お父さん、お母さんを……レヴィア、魔法師学園に行く! たくさん勉強して、魔法師になる!』
『おうっ、それでこそ我が息子だ!』
『ふふっ、頑張ってね、レヴィア』
そうして私は、一ヶ月後の魔法師学園入学試験に向けて必死に勉強した。寝る間を惜しんで、外出もせず遊びもせずに、ただひたすら勉強した。何より私は魔法が好きで、魔法の勉強が好きなだけできる学校にわくわくしていたから。
――そして迎えた試験本番。前日の残雪が路傍に積もり息が白くなるほどに寒かったのを覚えている。そんな日にでも父は学校まで付き添うと言い、あまり動けない母はお守りを作って渡してくれた。
試験の翌日、家に白い封筒が届いた。そこに記されていたのは、
『レヴィア・グラステルは、本校の試験にて合格と認められました』
私たちは抱き合い、泣いて喜んだ。
『すごいぞ、レヴィア! お前は俺達の誇りだ!』
『ええ、本当に……本当におめでとう、レヴィア!』
私の胸には、魔法をたくさん勉強できるという「魔法師学園」に対する期待しかなかった。
『はやく、学校に行きたいなぁ』
◆ ◆ ◆
「……本校には長い伝統と威厳があり、精選された教師と充実した設備によって諸君の学びを――」
「ふ、ふわぁぁ……」
四月一日、魔法師学園入学式。長い長い校長の話を右から左に聞き流し、私は抑えたあくびを漏らす。壇上に立つのは第三十代校長、イリザ・フォレスティその人。なんだかすごいことを成し遂げた魔法師らしいけど、魔法以外の勉強をしてこなかった私には分からない。
イリザ校長は立派なあごひげを手で梳きながら話を続ける。
「……我々は魔法の座学だけでなく実習にも力を入れておる。例えば……そうじゃ、本校が使役しているドラゴン種との戦闘訓練や……」
身に纏った複雑な模様のローブ、肩にとまった黒いフクロウ、宝玉のついた荘厳な杖。あれで魔法を使うのかな、なんかとっても強そう……!
「……このように、学業の面にはより一層力を入れているのじゃが、それ以外にも諸君が素晴らしい学園生活を送るための行事が……」
周りの先生たちもなんだかかっこいい。みんな魔法師ってオーラが出てる。あっ、あの道具なんだろ! たしか家庭教師の人が持ってたような……。
「……などなど、数え切れないほどの楽しいことが諸君らを待っているのじゃ。故に……」
そういえば、天井にぶら下がってるこのライト、どうやって光ってるのかな? いろんな色があるし、電気よりも眩しいし……やっぱり魔法? でもどうやって……。
校長の話などまったく聞かずに、眼の前の光景に心躍らせたり妄想を繰り広げる私。
そんなことをしていたからだろうか、突然、
「――レヴィア・グラステル!!!」
びっくりするぐらいの大きな声で私の名前が呼ばれた。
「んえっ……え?」
シーンと静まり返っていた式場のホールに、校長の声が響き渡る。
何が何だか分からず、私は口を開いたまま固まってしまう。すると壇上の校長はやれやれと言わんばかりに頭を振って、
「……レヴィア・グラステル。学園生活が楽しみで待ちきれないのは分かるのじゃが、話は聞かないと駄目じゃぞ?」
その言葉に、くすくす、と周りの生徒達が私を見て笑う。
つい首を回して観察していたから、他のことを考えてたのがバレちゃったってわけ。もうっ、初日から恥ずかしいよ私……!
「ごっ、ごめんなさいっ!!」
私が頭を下げながら謝ると、あまり怒っているわけではなかったのだろう、校長はウム、と言って話を元に戻した。
「中断してすまんの。それで、あとは学園での諸注意じゃが……」
ほっとして胸をなでおろす。怒られはしなかったけど、悪目立ちしちゃったよ……今度からはちゃんと話を聞かないとっ。
そこから五分ぐらいして、校長の新入生に向けての話は総括に入った。
「さて、ここいらで老いぼれの話は終わりにするとしようかの。最後にひとつ、言葉を贈っておこう」
校長は生徒たちを見渡し、先ほどまでよりも大きな声で告げる。
「……魔法とは、文字が表すような魔の力ではない。むしろその逆、聖なる力なのじゃ。魔法を扱う者の倫理や価値観が、その力を善にも悪にも変貌させてしまう。だからこそ、諸君にはこの学校で魔法に向き合って自分なりの使い道を見つけてほしい。強くなるため、戦いに勝つため、人助けをするため、怪我を治すため……なんでもいい。とにかく自分だけの答えを、三年間の学びのなかで掴んでくれればわしは幸せじゃ。分かったかのう?」
「「はいっっ!!!」」
生徒たちが一斉に返事をする。なんだかかなり大きいし低い。でも……そんなにやる気に満ちているってことだよね! 私も負けてらんない!
元気な声に校長は頬を緩める。
「よろしい。では、これにて入学式は終わりとする。諸君、よく学び、よく動き、多くの友をもち、なにより魔法を愛して、そしていつか――素晴らしい魔法師になるのじゃ!」
「「はいっっ!!!」」
そこで校長は、大きく息を吸って――言う。
「――ようこそ、我らが王立男子魔法師学校へ!!」
「……ふぇ?」
どうっ、と辺りが沸き立つ。各所から金や銀の紙吹雪が吹き出て、天井のライトは虹色に輝き、一気に鮮やかな空間となる。
拳を突き上げている生徒、抱き合っている生徒、歓声を上げている生徒など様々いるが――
その中で、私はひとり立ち尽くしている。
えっ……と、聞き間違い、かな……? さっき、王立「男子」魔法師学園って聞こえた気がするんだけど……?
混乱しながら首を回す。皆同じ制服を着用しているため服装だけでは区別はつかないが……なんだか男子が多い、かな……?
いやいやいやでも! 聞き間違いでしょ! だってここ、お父さんが紹介してくれたところだし、それにお母さんも止めてこなかったんだからっ! 絶対に何かの聞き間違いだ、校長は「男女」とか言ったに違いない――
と、そのとき。眼の前のステージで校長が杖を掲げた――と思ったら、宙に大きな金のくす玉が現れ、振り下ろすと同時に割れて中の紙が露わになる。
この瞬間、私は両親をこの上ないくらいに憎んだ。お父さんお母さん……私、絶対に許さないからね……(にっこり)。
そこには達筆な字で、こう書かれていた。
『新入生諸君、王立男子魔法師学園へようこそ!』
ああもう、これほんとにどうしてくれるのっ! これからどうなるのっ!?
それは諦観を含んだ叫び。
私、女子なんですけどっ……!
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