第20話 幼馴染現る

ツバサさんがしばらく私のセレクションルームを使っているので、私は暇を持て余していた。


すると、エドガーが私の部屋にやってきた。


コンコンっ!


「実はですな、スミレ殿にお客人がおられます。」


すると、エドガーの後ろからスッと一人の男が。


その男は、長身でスラっとして端正な顔立ち。


黒崎仁と雰囲気が似ている・・・。


なぜだかドキッとしてしまった。


その男は私を見るなりハッとした顔をする。


「やっぱり、スミレだ!

 枯死病、治ったんだね!

 奇跡だ!

 幼馴染の大葉蓮(おおば れん)だよ!

 わかる?」


でも、私は異世界転移前のスミレの記憶を持ち合わせていない。


だから、記憶喪失のていで彼と接しなければならない。


「ごめんなさい。

 私、記憶喪失だから・・・。」


「そ、そうだよね。

 それはエドガーさんから聞いてるよ。

 君と僕は孤児院で一緒に育ったんだ。

 まあ、時間をかけて思い出せばいいさ。」


めちゃくちゃイケメンで中身は普通の青年という感じだ。


黒崎仁に似ているけれど、中身は全然違う。


純粋な黒崎仁って感じかなあ。


黒崎仁はかっこいいけれど不純だもの。


そこが良さでもあるんだけどね。


蓮は続ける。


「実はさ、テレビで君を見て、俺もこのプロジェクトに参加することにしたんだ。

 君が記憶喪失なのにこんなこと言うのもなんだけど、ずっと好きだったんだ、君のこと。

 スミレのピンチは僕が救う、そう思ってね。」


わざわざ記憶喪失の私を気遣って来てくれたんだ。


「あ、ありがとう。

 でも、思い出せなくてごめんなさい・・・。」


私は思い出せないという演技する。


「いやいや、いいんだ。

 君にこうして告白もできてよかった。

 君が病気にかかってしまって、告白しなかったことを後悔していたんだ。

 そういえば、ここの男性陣の経歴ってすごいね。

 僕には彼らみたいな大それた経歴はないけれど、スミレを思う気持ちはだれにも負けない。

 だって、君を思い続けた年数は、ここのひとたちの比べ物にならないんだから。」


すごくまっすぐに私のことを思ってくれているみたい。


「でも、記憶を無くしてしまっているし、私は以前のスミレではない。

 それでも好きと言ってくれるの?」


「ああ、記憶を無くそうと、スミレはスミレ。

 僕は君を愛するよ。」


「ありがとう。」


なんだか、黒崎仁がツバサさんに乗り換えるなら、私は大葉蓮に乗り換えようかしら、と思ってしまう。


「私が病気になる前、あなたのこと、なんて呼んでたの?」


「蓮って呼んでたよ。」


「そう、蓮。

 よろしくね。」


こうして、私は大葉蓮との出会いを果たした。


すると、ノックがした。


コンコンっ!


「失礼するわー。」


この声、ツバサさんだ。


「あら、新しい男の子?

 あなたもけっこうイカすじゃない。

 あなたもセレクションルームでお話しする?」


連を見るなりそう言う。


すると、蓮が答える。


「すみません。

 お話はうれしいんですけどね。

 僕は、スミレ専用なんですよ。」


おお。


私は心の中で拍手した。


だって、こんな妖艶なお姉さんの誘いをしっかり断るんだもの。


「あらそう?

 残念ね。

 他の男子たちは鼻の下伸ばして私と話してたのに。」


え、そうなの?


信じらんない、何やってんだか・・・。


みんな蓮を見習ってほしいものだわ。


まさか、私のセレクションルームや男子たち、この女に取られないわよね?


「く、黒崎仁は?」


私は思わず黒崎仁がこの女にどういう反応をしているのか聞いた。


「ああ、彼?

 ちょっと傷心気味だったけど、まあ私の色香にメロメロね、おほほ。」


あの黒崎仁がメロメロ!?


私は部屋を飛び出し、黒崎仁のもとへ向かった・・・。



「ちょっと黒崎仁!

 どういうこと!?」


「え、なにが?」


「とぼけないでよ。

 あのツバサとかいう女にメロメロだって聞いたわよ!」


私は彼に問いただした。


「人聞きの悪い。

 この俺がそんなあからさまにデレるわけないだろ。」


黒崎仁はとぼける。


「じゃあ、私とツバサさん、どっちを選ぶのよ。」


「ああ。

 それはちょっと考えさせてくれ。

 俺も少し混乱しているんだ。」


か、考えさせてくれですって!?


ツバサさんが復活したせいで黒崎仁と私の関係はもうめちゃくちゃ。


「私たち、両想いなんでしょう!?

 なんで、私を選べないのよ!」


「ああ、君のことは好きだ。

 でも、ツバサのことも好きなんだ。

 ・・・すまない。」


謝られた。


謝られてしまったらもう何も言えないじゃない・・・。


「わ、わかったわ。

 せいぜい考えることね。」


私はそう吐き捨て、自分の部屋に戻った。


ツバサさんはもう私の部屋にはいなかったが、蓮は残っていた。


「どうしたんだい、急に飛び出して。」


蓮が私に質問する。


「ええ、ちょっと黒崎仁に問いただしてたの。」


「どうだったんだい?」


「あいつはサイテーね。

 私を捨てて、ツバサさんを選ぶみたいよ。」


そう。


私とツバサさんで迷っている時点でもうダメ。


私は愛想をつかしそうになっている。


「そうなんだ。

 でも、スミレには僕がついてるよ。

 安心して。」


本格的に私は黒崎仁を諦め、他の人に乗り換えなければならないのかもしれない。


すると、またしてもノックが。


コンコンっ!


ツバサさんだ。


「あら、ごきげんよう。」


「今度は何ですか?」


私は少し不機嫌に言う。


「仁はどうだった?

 私に惚れていたでしょう?」


「さあ、どうだか?」


「私、あの男子たち全員、あなたから奪うわ。」


は?


こいつは何を言い出すんだ?


私は怒りよりも驚きが出た。


「ど、どういうこと?」


「あなたの立場を無くせば、世の中の男はすべて私のもの。

 そうでしょう?

 私は手段を選ばないわ。」


こいつ・・・。


私に宣戦布告しに来たのね、この性悪女!


「あ、あらそう。

 やれるものならどうぞ。」


私は足が震えるも、余裕があるかのようにふるまう。


「っふん。見ものね。」


そういうと、ツバサは立ち去って行った。


なんて女なの・・・。


あんなアバズレ女、久しぶりに見たわ。


この後、彼女が大事件を起こすなんて、今の私は知る由もない。

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