第19話 第2生還者

「ツ、ツ、ツ、ツバサ殿が復活しましたーーーーー!!!」


私は耳を疑った。


やっと、やっと黒崎仁と結ばれたというのに・・・。


なんでこのタイミングで復活しちゃうの?


黒崎仁は開いた口が塞がらない様子。


「ツ、ツバサってあの女優のツバサか?」


「え、ええ。

 そのツバサ殿にございます。

 黒崎殿の思い人の。」


「なんてことだ、信じられん・・・。」


「エドガー、俺を彼女に合わせてほしい!」


え! 私のこと好きって言ったのにその女のところへ行くの!?


でも、仕方ないか・・・。


昔の知り合いが生き返ったとなれば誰だってすぐにでも会いに行きたくなる。


ここは目をつむろう。


そうして、黒崎仁はエドガーの案内でツバサのもとへ向かった。


私はポツンと部屋に取り残された。


1人でいても嫌な感情が芽生えてしまう。


私はセレクションルームで岡部さんを呼んだ。


彼なら、あの包容力で私を満たしてくれるかもしれない・・・。


「やあ、スミレさん。

 どうかした?

 黒崎くんに何か言われたの!?」


私は泣いていた。


岡部さんは私にそっとハンカチを渡してくれる。


この世界は優しい。


エドガーと言い、泣いていたら必ずハンカチを渡してくれる人がいる。


前世では一人で部屋で泣いていても、だれもハンカチをくれなかった・・・。


「大丈夫、これは感動の涙なの。

 あのね、ツバサさんが復活したんだって。」


「ツバサさんって、あの黒崎くんの思い人っていう?

 すごい、たまげたなそりゃあ。」


「黒崎仁、私を置いてツバサさんのところにいっちゃったの。」


またしても大粒の涙が出てしまう。


岡部さんは私が寂しがって泣いていることを察してくれた様子。


「うんうん、そうか。

 それは大変だったね。」


そっと、椅子に座る私を後ろから抱きしめてくれた。


なんて温かいんだろう。


体温だけじゃない、なにか他の温もりがじんわりと伝わってくる感覚になる。


そうして、私はしばらく彼の胸の中で涙を流すのであった。


---


しばらくして泣き止むと、岡部さんは仕事に出掛けて行った。


すると、誰かがセレクションルームに入ってきた。


ウィーン


2人だ。


初老の男と美女。


女といったらこの世界には私とツバサさんしかいない。


つまり、この女はツバサさんだ。


男のほうはツバサさんの執事だろう。


「お初にお目にかかります。

 私は執事のセバス。

 そして、こちらが本日復活なされました、ツバサ殿にございます。

 ツバサ殿、こちらは先月に復活なされているスミレ殿にございます。」


「どうもごきげんよう、スミレさん。」


金髪碧眼、巨乳の美女だ。


年上なのか、お姉さんの色気が半端じゃない。


大人の妖艶な魅力、どこかつかめない雰囲気を感じる。


「ど、どうも、ツバサさん。」


たしかに、さすがは海外で名を馳せた女優なだけある。


悔しいけど、黒崎仁とお似合いだ。


セバスが言う。


「実はですな、ツバサ殿も記憶喪失なのです。

 スミレ殿と同じですな。

 先輩復活者として、色々教えてあげてくださいな。」


記憶喪失なんだ・・・。


黒崎仁、ショックだろうな。


でも、彼女に記憶が無いなら私にもチャンスあったりして?


それはちょっと不謹慎か・・・。


まあ、なんにせよ、彼女が私のライバルであることは違いないんだから、気合入れていかないと!


黒崎仁はどうだったか聞いてみる。


「黒崎仁とは会ったんですか?」


「ええ、でも私、記憶が無いの。

 だから彼の期待を裏切ってしまったみたいで。

 彼、落胆してた・・・。

 申し訳ないわ。」


やっぱり黒崎仁はがっかりしていたみたいね。


無理もない。


思い人がやっと復活したと思ったら、記憶喪失なんだもの。


でも、苦しいのはツバサさんだって同じ。


「そうだったんですね。

 私にできることがあれば何でも言ってください。

 先に復活したものとしてお手伝いできることもあるかもしれないので。」


「ええ、そうさせてもらうわ。」


「セバス!

 このセレクションルームにいる男たちが私のお相手?」


「いえ、ここはスミレ殿のセレクションルーム。

 ツバサ殿のお相手となる男性陣はこれから募集する運びでございます。」


「ええ、つまんなーい。

 ここの男性陣と話しちゃっていいでしょう?」


「うーむ、スミレ殿に確認しないことには・・・。」


すると、ツバサさんは私に話を振る。


「そういうわけだからさ、いいでしょ? ねっ?」


なんか、私の男性たちに唾つけられるのは嫌だけど、断りにくい雰囲気だなあ。


まあ、それで彼女の気が紛れるならいいかな。


私はしぶしぶ承諾することにした。


「い、いいですよ。」


「やったー!

 スミレさん、ありがとー!」


そうして、ツバサさんは私の男性陣と会話をすることになった。


この時の私は、この選択がのちに大事件を呼ぶことを知る由もないのであった・・・。

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