第16話 旅行2日目

旅行2日目。


2日目は、ショッピング、バーベキューだ。


まずはショッピング。


パラリナ島は人気の観光地。


プライベートビーチとは違い、買い物客でごった返していた。


人混みに酔ってしまう。


みんなでショッピングを楽しんでいると、私はふと民族衣装の店が気になり、立ち寄った。


すると、一瞬のうちにみんなとはぐれてしまった。


撮影スタッフも見当たらない。


みんなとはぐれた位置に戻っても誰もいなかった。


やばい、私がいないと撮影が止まっちゃう。


大迷惑だ・・・。


どうしようかと考えあぐねていると、私の手がグイっと引っ張られた。


「何やってんだよ、みんな探してるぞ。」


黒崎仁だ。

黒崎仁が私を探し出してくれたんだ。


私はとっさに謝る。


「あっ、ご、ごめん・・・。」


すると、黒崎仁がポツリと言う。


「撮影、抜け出しちゃおっか・・・。」


「へ? な、なに言ってんのよ、あんた!」


私は冗談だと思った。

でも、違った。


「本気。

 カメラ抜きで、お前と2人になりたい。」


かあああ////


ほんとにサラッと恥ずかしいことを言ってのける。


「そ、そんなことして、撮影止まっちゃうよ。」


「大丈夫、あのディレクターは腕利きだ。

 何とかしてくれるさ。」


そう言うと、黒崎仁は私の腕を引っ張った。


「さあ、こっちおいで。」


私は、「おいで」と指示された犬の気持ちが分かった気がする。


私はしっぽを振って彼のあとをついて行ってしまった。



彼はある店に入っていく。


そして、その店の屋上へ上がる。


すると、そこにはオーシャンビューの絶景が広がっていた。


「なに、ここ?」


「ああ。

 この店は昔の行きつけでね。

 店主に言って、特別に屋上を貸してもらったんだ。

 絶景だろ?」


「ええ、そうね。」


「ここならだれにもバレない。」


黒崎仁が私の目を見つめる。


え? キス?

私、またこいつとキスしちゃうの?


すると、突然1階から声が。


「じーーーーん!

 飯、できたぞーーーー!」


店主がご飯を持ってきた。

タコライスだ。


黒崎仁と私のおなかが同時にぐうううっと鳴った。


思わず2人で笑い合う。


なんて幸せな時間なんだろう。


こんな時間が永遠に続いてほしい。


「ここのタコライス、絶品なんだ。

 スミレにも食べてほしい。」


私はタコライスを口に運ぶ。


口に運んだ瞬間、スパイスの効いた肉と新鮮な野菜のシャキシャキ感が一体となり、口の中で爆発的な旨味が広がった。


「おいしい!」


私は思わず何度も口に運んだ。


「うまいだろ?」


黒崎仁はタコライスをほおばる私を見てほほ笑んでいる。


それを食べ終わると、黒崎仁は声色を変えて私に話しかける。


「真面目な話さ、スミレ、俺のことどう思ってんの?」


突然の真剣なまなざしに私は動揺する。


どうって。


私は黒崎仁に恋をしている、たぶん。


でも、岡部さんも捨てがたいと思っている自分もいる。


本当に黒崎仁のことが好きなら、他の人の可能性が入る余地はない気もする。


もしそうなら、私は黒崎仁にまだ恋していないともいえる。


なんだか、自分でもよくわからなくなってきた。


つまり、まだわからない、ということなのかな。


「わからない・・・。

 私たち、まだ会って2週間くらいでしょ?

 まだわからないよ。」


「2週間ねえ。

 時間なんて関係ないぜ。

 小学生の時、だいだい一番最初に仲良くなったやつとずっとつるむだろ。」


うーん、たしかに言われてみればそうだけど、なんか謎理論すぎる・・・。


「じゃあ、あんたは私のことどう思っているっていうの?」


私は質問し返した。


「ああ、好きだよ。」


またこれだ。


あっけらかんと好きとか簡単に言う。


ラブかライクかでまったく意味が異なる。


私はしびれを切らし、さらに質問した。


「ラブ?ライク?どっちの好き!?」


「ん? ラブに決まってんじゃん。

 じゃなきゃ2人きりになりたいとか言わないでしょ。」


かああ/////


照れるなあ。


え、私、黒崎仁を射止めたってこと?


そういうことでいいのよね!?


「昨日、岡部といちゃついてただろ。

 それでジェラっちゃってね。

 そこで気づいたんだ。

 あ、俺、こいつのこと好きなんだ、ってね。」


ふうーん。


私と岡部さんのやりとりでやきもち焼いちゃったんだ、こいつ。


けっこうかわいいとこあるんじゃん。


「まあ、2人きりになりたかった理由は、これを伝えたかったってのもある。

 俺はマジだから、真剣に考えろよな。」


「ふ、ふうーん。

 ジェラシーわくとかけっこうかわいいとこあるんだね。

 それを私に早く伝えないと、私を岡部さんに取られちゃうもんね?」


私は少し意地悪に言ってみた。


「ああ。取られたくない。

 スミレは俺だけのスミレだ。」


私は思わずきゅんとしてしまった。


これがこいつの口説き文句なんてのはわかっている。


頭ではわかっているけれど、心がキュンキュンしてしょうがない。


「もう。

 そんな甘いセリフ言って。

 あんたの口説き文句、十八番ってのはわかってるんだからね?」


「あははは。

 バレた?

 さすが俺のスミレだ。」


いつからあんたのスミレになったのよ。


と私はほほ笑む。


「っと。

 そろそろみんなと合流しないとな。

 さすがに心配する。」


そうだ、わたしたちは番組スタッフをまいてここまで逃げ隠れたんだった。


「いっけない!

 忘れてたわ、はやく戻らなきゃ!」


私と黒崎仁は急いでショッピングをしていた場所へ戻った。


しかし、スタッフや他のみんな誰一人見つからないので、仕方なしに宿に戻った。


すると、宿にはスタッフが数名残っており、ディレクターやみんなに連絡を取ってくれた。


「困るねえ、黒崎くん!

 ノットナイスですよ!

 これでは、ショッピングのシーンがボツですよー!」


みんなにはちょっと悪いことしちゃったかな。


でも、現場を抜け出すなんて、ちょっと背徳感というか、わくわくした。


その後は、他のみんなが買い出しをしてくれた食材でバーベキュー。


でも、黒崎くんは私を独り占めした罰としてバーベキューは抜きで、スーパーの焼き肉弁当。


まあ、私とのツーショットタイムが黒崎仁だけ増えちゃ、フェアじゃないものね。


ちょっとかわいそうだけど、焼き肉弁当をひとりでポツンと食べてる姿はなんだかかわいかった。


黒崎仁抜きでバーベキューを楽しんでいると、さすがにかわいそうに思ったか、桐生くんが提案する。


「ちょっとくらい、仁にもわけてやろうぜ。

 なんだか、仁をいじめてるみたいで心がいてえんだ。」


もちろん、みんな賛成。


「素晴らしい友情!

 ナイスですよ!」


桐生くんはよく提案する。


自分の意見があるというか、いい意味で我が強い。


みんなをいい方向にリードしてくれる感じがする。


この中でリーダーを選ぶなら、間違いなく桐生くんだろう。


「桐生くん、優しいのね。

 黒崎仁なんか、焼き肉弁当で十分よ。」


私はふいに意地悪な感じで言ってしまった。


うーん、好きな子に意地悪する小学生男子の気持ちが分かった気がするかも?


「まあまあ。

 俺、スミレちゃんに優しい男アピールしてるだけだから!

 本来なら、抜け駆けしてスミレちゃんを独り占めした罰として仁にはパンチくらわしてらあ。

 あはははは。」


桐生くんが冗談交じりに言った。


父親がヤクザだし、なんか本当にやりかねないかも・・・。


すると、バーベキューの匂いにつられたのか、野良猫が1匹やってきた。


よく見ると、左後ろ足を引きずっている。


ケガしているのだろうか?


すると、神崎くんが出てきて言う。


「こりゃひどい。

 けっこう傷は深いぞ、車にはねられたかな。

 スタッフさん、救急キットあるかな。

 まずは消毒して、ガーゼで保護しないと。

 それから、獣医に連絡を。」


スタッフが言う。


「もうこんなに夜遅い。

 病院はどこもやってない。

 今日はうちに泊めてあげるしかないかな。」


「わかりました。

 じゃあ、今晩この猫は俺が面倒見ます。

 それで、良ければ俺の施設で預かろうかなと思います。」


さすがは保護猫活動家、テキパキと対応している。


なんだかちょっとチャラいイメージがあったけど、真面目な一面もあるんだな。


と私は感心した。


そして、夜眠る前に如月くんがクラリネットを演奏してくれた。


ふつうこれを聞くなら、数万円はかかるだろう。


それくらい価値のある音色なのだ。


これを聞けば、ぐっすり眠れるだろう・・・。


こうして、2日目は幕を閉じたのだった。



<<作者あとがき>>


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