第13話 岡部さん

『名前 岡部 雅臣(おかべ まさおみ)

 年齢 27

 身長 176cm

 職業 帝国大学 物理学教授

 特技 お菓子作り

 経歴 帝国大学を飛び級で卒業、ノールベ物理学賞受賞

 その他 スタートアップ企業経営、医師免許所持』


私はセレクションルームで岡部さんを呼んだ。


ウィーン


「どうも、岡部です。

 なかなか呼ばれないからひやひやしたよ。

 はははは。」


すごく落ち着いていて、上品な印象。


7つも年上だからそう感じるのかな?


黒縁メガネをかけていて、インテリイケメンって感じ。


メガネフェチはもだえ死ぬんじゃないかな。


「すみません、ちょっといろいろ立て込んでいて。

 お話しするの遅くなっちゃいました。

 あははは・・・。」


なんだか、彼を忘れて黒崎仁とイチャイチャしてたのが申し訳ない。


彼、ずっと待っていてくれたんだよね・・・。


「いやあ、さすがに僕も黒崎君には嫉妬しちゃったよ。

 彼ばかり呼び出されるからね。

 まあ、彼は有名人だし。

 僕がスミレさんでも、黒崎君のほうが興味わくもの。」


岡部さん、ちょっと拗ねてるのかな?


申し訳ない!


「いやあ、そんなんじゃないんですよー。」


私は適当にごまかす。


「ところで、はいこれ!

 開けてみて!」


岡部はラッピングされた小さな箱を私に手渡した。


私はその箱を開けると、クッキーが入っていた。


「え!

 なんですか、これ!?」


「僕が作ったんだよ。

 趣味がお菓子作りでね。

 ぜひ食べてみて!」


私はクッキーを一つ取り出し、口に入れる。


おいしい!


芳醇なバターの香りとほのかに香るミルク。


私は思わず2個目も食べてしまった。


「あはは。

 おいしかったかな?」


「はい!

 もう絶品です!」


「お口に合ってよかった。」


彼はニコッと笑った。


すごく爽やかで包容力のある笑顔。


この人、絶対いいパパになる!


子育てなら絶対彼が一番だろうな、と私は確信する。


「お菓子作りが趣味なんて素敵!」


「ありがとう。

 仕事上、小学校とかにも講演に行くことがあってね。

 でも、物理学って堅苦しいし難しそうだし、ふつうは距離を置くじゃない?

 で、子どもたちに少しでも、僕が優しい人間なんだよって伝わるように、お菓子を持っていくようになったんだ。

 そうしたら、思いのほかお菓子作りにハマっちゃってね。

 それがキッカケなんだ。」


なんて心温まる優しい人なの!


優しい男性、大好き!


「すごくほっこりするキッカケ!」


私はふと思った。


物理学者って、恋愛にうといというか、奥手なイメージ。


なんでここに来たのだろう?


「なんでこのプロジェクトに参加したの?」


「ああ。

 会ったばかりの女性のまえでこんなこと言うのもあれなんだけど・・・。

 まあ僕も男だ。

 女性が絶滅したこの世界でも、なんとか子孫を残したいってのは当然さ。

 でも、それだけじゃないよ。

 プロジェクトの応募でスミレさんの顔を見てね。

 なんだか今までに感じたことのない気持ちになったんだ。

 この感情はなんだろうって不思議に思ってね。

 不思議に思ったことは追究したいんだ。研究者の性(さが)だね。

 で、今に至るってわけなんだ。」


やっぱり学者さんて感じ。


論理的なしゃべり方っていうか、よくわからないけどそんな感じ。


「そうなんだ。

 で、実際に私に会ってどうだった?」


「不思議なことに、余計わからなくなったよ。

 あははは。

 これが恋なんだろうね。」


やっぱり学者さんって、恋愛しないのかな?

質問してみる。


「え、女性経験ないの?」


「いや、あるにはあるんだ。

 学生の時に何度も僕に告白する子がいてね。

 熱意に押されてお付き合いしたんだ。

 でも、結局僕が彼女に対して本気になれなくてね。

 残念ながらうまくはいかなかったんだ。」


一応、経験はあるみたいね。

じゃあ、恋した経験がなかったのかな。


すると、岡部さんが私の目を見つめて言う。


「でも、スミレさんは本気だよ!

 まあ、この場に来てるんだ、当然と言えば当然だけどね。

 君にしっかりと伝えられてよかった。」


「あははは。嬉しい、ありがとう!」


芯があって優しい人なんだな。


他のひとたちに比べてキュンキュンは少ないけど、絶対的な安心感や包容力がある。


これがオトナの余裕、優しさなのかな。


私は彼のプロフィールをもう一度見た。


『スタートアップ企業経営』


これ気になるなあ。


やっぱり社長って言葉に憧れてしまう・・・。


「企業経営してるんだね、すごい!」


「ああ。

 新しい電力の発電方法を発明してね。

 それでノールベ賞と特許を取ったんだ。

 その技術を活用して会社を作ってね。

 けっこう順調なんだ。」


神崎くんも社長だけど、そんなに利益ないって言ってたっけな。


岡部さんは金持ち社長なんだ。


別にお金目当てじゃないけど、お金を生み出すチカラには惹かれるものがある。


「えー、まだ20代なのにすごい!」


そう、この経歴で20代なのはすごい、というかもはやおかしい。


彼は超エリートだ。


私、こんな頭いい人と同じレベルの会話できてるのかな?


バカだと思われてないか少し心配になる。


すると、岡部さんが時計を見て私に話しかける。


「ごめんね、今日に限ってこのあと、会社のほうで少し仕事があってね。

 せっかくスミレさんとお話しできたのに、まったく運が悪い・・・。」


企業経営やら大学教授をやっていると、そう簡単に休業してプロジェクトに常時参加とはいかないのかな。


「わかりました!

 お話しできて良かったです。」


そうしてお互いに席を立つと、岡部さんが手を広げる。


私もとっさに手を広げ、なんとも自然にハグされてしまった!


すごく硬い胸に男性らしさを感じる。


にもかかわらず、優しい柔らかい包容力も感じる。


そんなハグだった。


ハグが終わると、私が彼を見上げ、少し驚いた表情を見せる。


すると、彼がハッとした表情をし、口を開く。


「すまない、しばらく海外で発表会をしていてね。

 海外のハグする風習が残ってしまっていた。 

 不快に思ったら申し訳ない。」


「いいえ、全然大丈夫です!」


そういうことか、びっくりした。


温和な彼が急にハグしてきて驚いた。


最後にそんなサプライズ的な出来事があり、私は岡部さんと別れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る