第9話 黒崎仁

『名前 黒崎 仁(くろさき じん)

 年齢 21

 身長 185cm

 職業 俳優

 特技 バスケットボール

 経歴 第37回ジュンノスーパーボーイコンテストファイナリスト、仮面ライダー等々

 その他 偏差値70、英語ペラペラ、両親が焼肉店経営』


別の応接室に私が先に入った。


そして彼が続けて入る。


ガチャっ!!!


すると、黒崎仁がドアの鍵を閉めた!


えっ!

閉じ込められた・・・?


するとその瞬間、彼の腕が私の頭の横に伸びて、壁にドンと音を立てて触れた。


目の前に迫る彼の顔、すぐ隣に感じる彼の呼吸――心臓が一瞬で跳ね上がり、鼓動が耳にまで響いてくる。


な、な、な、急になに!?


壁ドンなんて漫画やドラマの中の話だと思っていたのに、今、私の現実の中で起こっている。


彼の香りがすぐそこに漂って、私は逃げ場を失ってしまったかのように立ち尽くすしかない。


彼の顔が少しだけ近づいてきた。


その動きに、胸の奥で何かがぐっと締め付けられる感覚に陥る。


目を逸らしたいのに、彼の目から逃れることができない。


どうしよう、彼にこんなに近くで見られて、私の心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと不安になる。


そうして、彼がようやく口を開く。


「ずっと、こうしてほしかったんでしょ?」


え・・・。


「そ、そんなこと・・・。」


いいえ、ずっとそうしてほしかったです!


私は彼から目をそらし、本心とは裏腹に、彼の質問に否定してしまう。


「きみ、俺のこと好きでしょ?」


え、バレてる!?


エドガーたちは、私が彼に直接オファーしたことを、彼には隠しているはずなのに!


すると、黒崎が続けた。


「なーんてね、冗談だよ、冗談。

 きみの人となりを知りたくてね。

 試してみたんだ。」


「きみ、さては処女でしょ?」


うっそ、バレてる!?


「だってさ、反応がすごいうぶなんだもん。

 まあ、かわいかったよ。」


「・・・。」


私は彼の質問に対して肯定も否定もしない。

無言で押し通した。


彼は話題を少し変える。


「俺の壁ドン、どうだった?

 うまかったでしょ?

 ドラマの撮影でさ、練習したんだよね。」


「も、もう!

 びっくりしたあ。」


そうして、私たちは席に着いた。


さあ、やっと面談開始!

と思いきや・・・。


「実のところさ、面談はもうほぼ終わったんだよね。

 今ので大体きみがどんな子かわかったし。」


え!そうなの!?


どこぞのメンタリストばりに心を読めるの、この人は!?


「どんなことが分かったの?」


「ん? 処女。」


そ、それだけ??


黒崎仁が続ける。


「人類再生プロジェクトとか言って、世界に1人の女が男をもてあそんで、よろしくやってさ。

 そんなの、どんなアバズレ女かと思ってたワケ。

 で、いざ会ってみたらしょんべん臭い処女だぜ?

 傑作だな!

 あっはっはっは!」


っくーーー!

こいつーー!


私が処女だからって、人の足元ばっかりみて!


こんなひどいこと言う人だったなんて!


見た目は良くても、中身はクズ!


ゴミ捨て場がお似合いよ!


だいたい、処女の何が悪いのよ!


大切な人ができるまで、大切なものは守り抜く!


当然のことじゃない!


ああーーー!


なんか、1人で勝手に舞い上がっていた自分がバカみたい!


「もう、あんたなんて知らない!

 プロジェクトが何よ!

 あなたの参加なんて、こちらから願い下げよ!」


私は言ってしまった。


自分が彼を呼び寄せたのに、自分で追い返すようなことを言ってしまった・・・。


「まあね、俺も参加するつもりはないよ。

 なんか、興がそがれたっていう感じ。」


ふんだ!


なによ、俳優だか知らないけど、お高くとまっちゃって!


しょせん、顔と演技だけのクズ!


私はこんなやつのこと、好きでも何でもない!

なにかの勘違いだったのよ!


・・・私はそう自分に言い聞かせて、自分の心の収拾をつけたかっただけなのかもしれない。


本当は彼のこと、大好きなのに・・・。


---


こうして彼との面談は終わった。


最悪の終わり方だった。


私がもっと素直だったら、状況は変わっていたのかもしれない。


けれど、私は自分の心に正直になれなかった。


なにより、彼に振られたことが悔しくて悲しくて、やりきれない気持ちになった。


この異世界に来て、男は私の思うがまま。


逆ハーレムなんて簡単、とか思ってた。


でも、黒崎仁みたいに思い通りにならない人もいる。


私、きれいになるために、男の人に恥ずかしくないように、あんなに努力したのに・・・。


わざわざ大変な思いをして頑張っていた、あの努力を笑われているような気さえした。


私は気が付くと泣いていた。


彼が出ていった部屋で独り、泣いていた・・・。


そこにエドガーがやってきた。


コンコンっ


「スミレ殿、こちらにいらっしゃいましたか。

 黒崎殿は先ほど帰られましたぞ。

 面談はいかがでしたかな?」


私はすぐに涙をぬぐった。


「え、ええ。

 大成功だったわ!」


エドガーは私の頬に残る涙の跡に気付き、そっとハンカチを差し出す。


再び涙が溢れだす。


エドガーはそんな私を見て、私の肩にそっと手を置いた。


「あんな男!

 私からお断りよ!

 面談してよかったわ!

 あんなサイテーなやつだったって知ることができて!」


---


翌朝、私はセレクションルームに向かっていた。


黒崎のクズなんかよりもイイ男、探し出してやるんだから!


私は息巻いてセレクションルームに入る。


ウィーン


すると、私は目を疑った。


そこには、あの黒崎仁がいたのだ・・・。

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