第8話 来訪者 黒崎

翌日。


「スミレ殿ーーー!」


バンっ!


いつものノックをせずに、突然エドガーが部屋に押し入ってきた。


「え? なに!?」


「やりましたぞー!

 黒崎仁殿が、こちらに面会に来るとのこと。

 プロジェクトに参加するかどうかはまだ決まっておりませんが、会えるのは確実ですぞ!」


え? まじ?


有名人にアポってから1日2日で返事来たんですけど!


私の絶滅危惧種の権力すごくない!?


「え! すごい!

 で、いつになるの、その面会は!」


「それがですな、今日この後すぐです!

 急いでご準備を!」


え! 急すぎるんですけど!


まだメイクしてないし、髪の毛ぼさぼさ!


私は急いで準備をしながら、エドガーに段取りを聞く。


「えーっとですな、今日の黒崎殿との面会の予定ですが、午前中のみ、朝10時からとなっております。

 午後には撮影の予定があって帰られるそうです。」


いま、朝の8時半!


朝食食べてシャワー入ってメイクして、ってやってたらあっという間!


急がないと!


私の運命の人かもしれないんだから、抜かりなく!


私は大慌てで準備を進めていった。


---


約束の午前10時。


私はこの施設の屋上の応接室にいた。


すごく広くて、真ん中にどーんと縦に長細いテーブル。


無駄におしゃれな観葉植物たち。


この施設のお偉いさん1人と私、エドガーがこの部屋にいる。


私は、はやる気持ちを抑えて、黒崎仁を待っていた。


でも、やっぱり待ちきれなくて、この施設の入口に黒崎仁の車が来ないか、窓からチェックしている。


この施設、30階くらいあるのかな?


私の視力じゃ、1階の入り口の車はすごく小さく見えてあまり詳しい様子はわからない。


でも、黒崎仁が来たかどうかくらいは目視できる。


これじゃ、鳥かごにとらわれた姫が王子の助けを待っているみたい。


とか、バカなことを考える。


そんなことを考えていると、1台の黒塗りの、いかにも重鎮が乗ってます、みたいな車が施設の入口に止まった。


マネージャーらしき人が車から降り、反対側のドアを開ける。


すると、そこから黒崎仁かな? それっぽい人が出てきた。


その人は黒い帽子にサングラスにマスクという、いかにも変装している格好で出てきたので、黒崎仁かはわからないけれど、たぶん本人だ。


私はとっさに自分の席に着いた。


まだ、すぐに黒崎仁が応接室に来るというわけではないけれど、自分の定位置で気持ちの準備をしておかないと気が済まなかった。


しばらくすると、ドアの外から足音がした。


とうとう来る!


コンコンっ!


「どうも、すみません。遅くなりました。

 ビーベックス株式会社 黒崎仁のマネージャーの野村です!」


若めの体育会系マネージャーだ、体と声がデカい。


マネージャーとうちのお偉いさんが名刺交換をする。


「どうも、私は人類再生プロジェクトの責任者、藤堂といいます。

 よろしく、野村くん。」


藤堂というのか。

しかも責任者ときた。


この男、仕事一筋の堅物といった感じ。

たぶん50代半ばくらいか。

なにかこう、何考えてるのかわからない、つかめない男だ。


すると、とうとう念願の全身変装男が部屋にはいってきた!


きたよきたよ本命が。


私はワクワクして、胸の高鳴りが抑えられない。


変装男がいよいよ変装道具をすべて取り、サッと顔を左右に振って乱れた長髪を整えた。


やはり、黒崎仁だった。


私の目の前にテレビに映っていた有名人がいる。


かっこよすぎる、もう抱かれたい。


「どうも、黒崎です。」


彼は自己紹介した。


彼が自己紹介しただけなのに、それが私の心臓の鼓動を早める。


テレビで見る印象よりもずっとスラっとしていて、小顔で、端正な顔立ち。


思わず見入ってしまう。


「あっ、どうも、スミレです。」


私の声に反応し、黒崎仁がこちらを見つめた。


「あっ!

 君が話題の絶滅危惧種か。

 ほんとに女が生きているなんてね。

 いいもの見たぜ。

 あははは。」


ズコーーー!


第一声がそれか、とほほ・・・。


何だか、動物園で初めてパンダを見た時の小学生みたいな反応・・・。


この反応は期待とは違うし、ちょっと失礼な発言なんだけど、私が彼に憧れを抱いているからか、全部許してしまう。

むしろ、かわいくて愛おしく思えてしまう。


そして、彼が席に着く。私の目の前だ。


藤堂が口火を切る。


「では、全員揃ったことだ、本題に入ろうではないか。

 まず、単刀直入に、おたくはうちのプロジェクトに参加するのかね?」


しょっぱなから一番重要な話だ。


さて、マネージャーはどう答える?


「実はまだ検討中です。

 うちの黒崎とスミレさんが面談してから、黒崎が独断で参加を決めることになっています。

 それでよろしいでしょうか?」


「ああ、異論はない。」


なーんだ、まだ決まってないのか。


でも、これから私との面談で決めるってことは、もしかして私、面接されてるってこと!?


急になに! 緊張感がグッと高まったじゃない!


私は突然、黒崎とのマンツーマンの面談の話を聞き、動揺する。


「それで、もし参加が決まったらの話なのですが・・・。

 このプロジェクト、ドキュメント番組として放送しませんか?」


は?番組!?


私、テレビに出るの?


しかも私の恋の行方を全国で?


やめて!恥ずかしくてもだえ死ぬって!


藤堂が答える。


「ほう、なかなか面白い案だ。

 うちとしても、テレビ放映はスミレ君を全国に宣伝するいい機会かもしれん。

 宣伝すれば、よりいい男が集まるからな。

 まあ、しかし。

 スミレ君の気持ち次第なところではある。

 どうかね、スミレ君。」


私に振られた・・・。


うーん、どう答えたらいいものか。


「えーっと、急な話ですので。

 ちょっと考えさせてください。」


マネージャーが口をはさむ。


「今の時点で前向きか後ろ向きかだけでも教えてほしいです!」


えー・・・。


やっぱり、自分の恋が見せ物になるのは少し抵抗あるかなあ。


「恥ずかしいので、少し後ろ向きですね・・・。」


マネージャーは悔しそうに言う。


「そうですかー。

 まあ、ゆっくり考えてください。

 悪いようにはしないので、それだけは安心してください!」


「ふむ。そうだな。

 まあ、ゆっくり考えるといい、スミレ君。」


藤堂が続ける。


「では、あとは契約の話だ。」


すると、藤堂とマネージャーが契約についての細かい話を始めた。


私と黒崎仁も一応耳を傾けるが、自分たちにはあまり関係のない話。


私同様、黒崎仁も退屈そうだった。


すると、テーブルの下で黒崎仁の足が私の足に触れる。


ビクビクッ!!!


突然の黒崎仁との接触に思わず電撃が走る。


あー、びっくりした!!!


黒崎仁に目をやると、ニコッとほほ笑んできた。


かああ////

かっこよすぎ!


私は思わず目をそらす。


恥ずかしがっていることバレたかな?


目をそらすことしかできなかった自分が情けない・・・。


この3か月、自分磨きをして自信をつけたはずなのに、この黒崎仁の前ではその鎧もすべてはがされる、そんな気分になった。


2人でそんなやり取りをしていたら、藤堂がこちらに話しかけてきた。


「おっといかん。

 契約の話は黒崎君とスミレ君には無関係だったな。

 2人は別の応接室で面談をしてくるといい。」


藤堂は、「健闘を祈る」と私に耳打ちをした。


そうして、私と黒崎仁は別の応接室へ移ったのだった。



<<作者あとがき>>


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