第5話 如月くん

『名前 如月 響(きさらぎ ひびき)

 年齢 19

 身長 178cm

 職業 帝国芸術大学生、クラリネット奏者

 特技 クラリネット、絵画

 経歴 全国関学コンクール クラリネットの部 最優秀賞受賞

 その他 如月財閥の御曹司』


昨日は神崎くんだった。


今日は如月くんと話してみよう。


神崎くんは明るすぎてちょっと疲れてしまった。


だから、今回はちょっと静かそうな如月くんと話してみたいと思った。


私は例のセレクションルームに行き、エドガーに如月くんを注文した。


このシステム、なんだか、ショーウィンドウで極上のケーキを選んでいるみたい・・・。


「どうも、如月です。

 よろしく。」


「ええ、スミレよ。

 よろしくね。」


なんとなく気まずい・・・。

たぶんどっちも根暗だから、ちょっとお互い慣れるまでぎこちないかも・・・。


「お、俺!

 楽器が得意なんだ!

 よかったらさ、聞いてよ!」


彼は楽器を取り出し、おもむろに演奏を始める。


なんだろう、知らない曲なんだけど、どこか懐かしいような、優しさを感じる。

全身の神経が高揚するようで落ち着きもする、不思議な感覚。

まるで、彼の雰囲気を表しているようでもあった。


「すごい・・・。」


思わず感嘆する。

彼の演奏する横顔はどこか儚げで、美しかった。


「俺、感情表現が不器用で下手なんだ。

 楽器は器用に弾けるんだけどね。

 あっはっはっは。」


なんだかわかる気がする。


楽器奏者って、やっていることは器用でも、感情表現は不器用だから、音楽で感情を表現している感じ。


「えへへ。

 でも、如月くんの音楽を通じて、あなたの感情を感じれた気がする!」


「そう? 音楽を分かってくれる人で良かったよ!」


如月が続ける。


「そうだ!

 お近づきの印に、スミレさんにプレゼントがあるんだ。

 これ!」


バッグ?

女性ものの革製のバッグだ。

たしか彼、如月財閥の御曹司だったはず。

もしかして、高級品?


「なあにこれ?」


「うちの財閥で作っていた高級バッグなんだ。

 でも、女性ものは枯死病のせいで売れなくなっちゃってね・・・。」


売れ残りを私のプレゼントにしたってこと!?

失礼しちゃうわね!

これだから財閥のボンボンは!


「え、売れ残りを私に、ってこと??」


私は思わず質問した。


すると、彼は慌てた様子で否定する。


「いやあ!とんでもない!

 これは新品だよ!

 プロジェクトの応募期間のこの3か月で作ったものなんだ!」


うーん、だとしても、自社製品をプレゼントするってどうなんだろう?

手抜き?営業?でもないんだけど、なにか引っかかる。


・・・そう!彼の気持ちがこもってない感じがしてしまう。

金に物言わせた感じのプレゼントは、あまり私には響かないし・・・。

ちょっと彼はマイナスポイントかも・・・。


「そうなの・・・。」


私は少し怪訝そうな顔をする。


「いやあ、これ作るのは苦労したよお。

 手にまめができちゃってね。」


え?どういうこと?

職人がつくったんじゃないの?

なんで彼が苦労するの?


「どういうこと?」


「ああ、これをつくっている職人さんに直談判してね。

 職人さんに教わりながらこのバッグを俺が手作りしたんだ。

 バッグの内側に刺繍でスミレって書いてあるでしょう?

 これは、世界で1つだけの、スミレさんのためだけのバッグなんだ!

 俺の愛を込めたバッグ、ぜひ受け取ってほしいな。」


そういうことね!

だったら話は違うわ。

彼の思いが込められたバッグ、素直に嬉しい!


でも彼、本当に感情を伝えるのは不器用みたいね。

そういうとこもまたかわいいかもしれない。


「私のために作ってくれたの!ありがとう!」


私に笑顔が戻った。


さて、私は改めて彼のプロフィールをざっと見た。


『如月財閥の御曹司』


やはり気になる。


そもそも如月財閥がどれほどのものなのか、私はこの世界について知らなすぎる。


「如月財閥ってどういうものなの?」


とりあえず私は超絶ザックリに質問してみた。


「うーん、そうだなあ。

 商社、金融がメインかな。

 あとは機械メーカーから製薬、まあとにかく何でもやっているよ。

 なんて言ったって、世界3本の指に入る大財閥だからね。」


彼はなぜか、かしこまったというか、申し訳なさそうに言う。


「なんだか、すごく謙虚そうに言うのね。

 もっと堂々とバーン!と自慢してもいいくらいなのに。

 私が如月くんの立場なら絶対そうするのに。」


「ああ。

 まあ、すごいことではあるんだけどね。

 所詮は親の七光り。

 あくまで俺はしがないクラリネット奏者さ。

 女性にあんまりお金目当てにされるのも悲しいし、あまりひけらかしたくはないんだ・・・。

 でも、プレゼントのバッグみたいに、使えるコネは使うんだけどね!

 あっはっはっは。」


なるほどねえ。

御曹司は御曹司なりの苦悩があるのね。

たしかに、ホストの刹那だって、私を金づるとしか思っていなかった節はある。

だから、如月くんの気持ちはわからないでもない気がする。


「わからないでもないわね。」


ふいに口に出してしまった。


「え? スミレさんもそういう経験あるの!?」


これは前世の記憶。

だから、彼には言えない・・・。

どうしよう・・・。


「い、いやあ。

 実は私、枯死病になる前の記憶が無くってね。

 でも、過去の私は何となくそういう経験をしていた気がするだけよ。

 おほほほほ。」


なんとかごまかした。


「記憶がない!?

 そ、そうだったんだね・・・。」


「ええ。」


「そんな大変な時に、男性を選ばなきゃいけないなんて・・・。

 無理しないでね、スミレさん!」


彼が私の手にそっと手を乗せた。


なんなのこの優しいボディータッチは!

こんな優しいボディータッチがこの世にあって!?

私は優しい男に弱いの!

それ以上、優しくされたら、神崎くんと如月くん、選べなくなっちゃう!!


そんなこんなで、楽しい時間は終わりを迎える。


コンコンっ!


「失礼します。

 そろそろお時間でございます、如月殿。

 他にも候補の男性がいらっしゃいますからな。

 ご承知くだされ。」


「はい。

 では、失礼します、スミレさん。

 話せてよかった。ありがとう。

 また今度、ゆっくり話そう。」


静かで優しい雰囲気の子だった。

ちょっと不器用だけど、お互いに慣れてきてからは居心地がよかった気がする。


如月くんもありだな。

と私は思うのであった。



<<作者あとがき>>


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