第4話 神崎くん

『名前 神崎 涼介(かんざき りょうすけ)

 年齢 20

 身長 172cm

 職業 帝国大学生、大手ペットショップ経営

 特技 犬を育てること

 経歴 世界を動かすアンダー22トップ100選出

 その他 保護犬猫活動実施』


私は最初に、優しそうな彼と話すことにした。


ウィーン


エドガーが戻ってきた。


「お待たせしました。

 こちら、神崎殿です。

 なお、私はこの場から一度引きます。

 後はお2人でごゆるりと・・・。」


神崎くんだ。

他の人よりもどこか親近感がわく。

愛嬌たっぷりの話しやすそうな青年。


「どうも、スミレです。

 よろしくね!」


「りょうすけっていいます!

 よろしく!」


まずは軽く挨拶をした。


声も予想通り、温かみのある感じ。


「あ、あの、私のこと知ってたの?」


「うん。

 プロジェクトの応募があってね。

 すごく誠実そうで可愛らしい方だなと思って、思わず応募しちゃった!

 実際に会うと、写真よりもずっときれいでびっくり!

 きっと努力してるんだね!」


「い、いやあ。そうでもないよお。」


すごく褒めてくれる。

ホストの刹那はもっと冷たかったのに!


ちょっと踏み込んでみる。


「今まで、彼女いたの?」


いや、聞いちゃまずかったかな?

枯死病で亡くなってたら気まずいかも・・・。


「実は、恋人はいたことないんだ・・・。

 いままで勉強やら、ペットショップの事業ばっかりでね・・・。

 だから、いますごく緊張してる!

 スミレさんはどうなの?」


私は、前世でもいたことはない。

処女だ。

一度だけ刹那とそういう雰囲気になったけど、

ホストの枕営業で処女卒業はやっぱダメって思って断っちゃった。


「わ、私も男性経験なくって・・・。

 だから、一緒だね!」


「じゃあ、こういうのもはじめて?」


神崎はそういうと、グッと私に顔を近づけ、手を握った。


かああ///


急になに!?

びっくりしたんですけど!

いきなりはずるいって!

私の心臓はひとつ大きく鼓動を打った。

呼吸が少し早くなるのを感じる。


「はっ、恥ずかしいって・・・。」


「ふふっ、反応かわいい。」


私はこの空気に耐えられなくなり、神崎に話題を振った。


「あ、あのう、ペットショップの事業って、どんなことしてるの?」


「ああ、僕は犬猫が大好きでね。

 それをみんなにも広めたいって思って事業をやってるんだ!

 でも、どうしても身寄りのない子も出てしまう。

 だから、保護犬猫活動なんかもやっているんだ。」


「結構、儲かってるの?」


とっさに出た質問。


質問した後に後悔した。

我ながらなんて下世話な質問なんだ・・・。


エドガーに礼儀作法を学んだのに!

美男子の前だとつい動揺して礼儀作法なんか気にしてられない・・・。


「いやあ・・・。

 実は利益はトントンなんだ。

 だから、経営者だからってお金はあんまり期待しないでね。

 こんなんじゃ、他の男性に負けちゃうかもだけど・・・。

 でも、その他の面では絶対負けないし、スミレさんを好きにさせる!」


すごくハッキリと恥ずかしいことを言う子だなあ。


でも、そういう素直な子、好きかも・・・。


「私も犬猫好きなの!

 気が合うね!」


「そうなんだ!

 じゃあ、スミレの前でだけ犬みたいになっちゃうかも。

 スミレ専用の犬! わんわん!」


神崎が両手で犬のポーズをして私の肩あたりにすり寄ってきた。

なにこのかわいい生き物は!


そのとき、肩と肩が触れ合う。

少し、ほんの少しだけ肩が触れ合っただけなのに、まるで電流が走ったかのように体中に熱が広がった。

彼の体温が伝わるたびに、何かが胸の中で小さくはじける。

ああ、やばいかも、鼻血出る、ティッシュ、ティッシュ持ってきてえええ!


「あはははは。」


私はとりあえず笑うも、笑顔が引きつっているのが自分でもわかる。

ああ情けない!

ほんとは、ニャーニャー言って彼にすり寄りたいのに、私にそんな度胸は無いのだ。


「そうそう、この部屋、僕らの生活が分かるでしょ!

 僕、スミレのために筋トレしてるんだ。

 恥ずかしいけどさ、ぜひ、僕のシャワー見においでよ!

 僕の筋肉、自慢させて!」


露出狂じゃあるまいに・・・。

でも、彼の裸、ちょっと見てみたい自分もいる。


「え、ええ。恥ずかしいよお。だめだめえ!」


口ではこう言っているけど、本心は真逆。


「じゃ、じゃあ。

 ちょっと触ってみて、腹筋とかさ!

 スミレのために頑張ってきたんだから!」


そこまで言うなら、触ってあげてもいいかな。


うーん、でも、あんまり簡単に触るのも、エロい女とか思われないかな。


とかなんとか考えているうちに、彼がシャツをたくし上げ、ほら触ってみ、と言わんばかりの笑顔をこちらに向けている。


その誘いに乗るつもりはなかったのに、気づけば手が伸びていた・・・。


手のひらが彼の腹に触れた瞬間、私はその硬さに驚いた。

想像以上にしっかりとした筋肉が、指先の下で動かない壁のように感じられる。


「すごいね・・・」と、思わず声が漏れる。

触れたままの手をどうすればいいのか分からず、私は動けなくなる。


彼の体温が手のひらを通して伝わってきて、その温もりが不思議と心地よかった。

指先をほんの少し動かしてみると、筋肉の形がくっきりと分かる。


「鍛えたんだ、ほんとに」と彼が言う声が、まるで遠くから聞こえてくるみたいに感じられる。


私は名残惜しかったが、ずっと触っているのもいやらしいと思われるかなと思い、スッと手を引いた。


もしも前世で神崎くんとこうして出会っていたら、間違いなく付き合ってると思う。

でも、私にはほかにも選べる候補がいっぱいいる。


そんなことを考えていると、ノックがした。


コンコンっ!


「失礼します。

 そろそろお時間でございます、神崎殿。

 他にも候補の男性がいらっしゃいますからな。

 ご承知くだされ。」


「そうかー。

 もっと話したかったけど、いっぱいアピールできたかな。

 今日寝る前に、僕のこと、思い出してよね。

 夢でまた会おう!

 じゃねー!」


なんて捨て台詞!

イケメンにしか許されない魔法の言葉「夢で会おう」!


なんて幸せな時間だったんだろう。

彼はもう帰ったというのに、まだ私の頭の中はほわほわしている・・・。


でも、こんなに男の子としゃべったのことない気がする。

さすがに疲れたな。


「エドガー。

 疲れちゃった、今日はもう寝させて。」


「はい、スミレ殿。」


私は自室に戻り、しっかり神崎くんを思い出して眠りについたのだった。



<<作者あとがき>>


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