第2話 第1生還者スミレ

「いいかい、君は人類の希望なんだ。 

 君はこれから、多くの子を産まなければならない。

 わかるね?」


この男、何を言っているんだ!?


繁殖犬じゃあるまいし・・・。


「ま、待って!

 ちょっと頭の整理がつかない・・・。」


「あ、ああ、ごめんね。

 そうだよね、起きたてなのにすまない。」


「ちょっと一人にしてください。」


私がそう頼むと、男は部屋から出ていった。


たしかに神は言った。

逆ハーレムと。

でも、全世界の男性が対象の逆ハーレムとか、極端すぎる!

神め、とんでもない世界に私を転生させたな。

私は神を少し恨んだ。


そして私は疲れたのか、眠りに落ちた。


---


サクッサクッ


なにか音が聞こえる・・・。


私は目を覚ました。


すると、先ほどの男がリンゴを切っている。


「あ、ああ、ごめんね。

 起こしちゃったかな。

 ほら、リンゴ、食べる?」


男がリンゴを差し出すも、私は警戒する。


そうすると、男は自分でもリングを食べてみせた。

毒見のつもりだろうか。


「ほら、これでどう?」


私はおそるおそるリンゴを受け取る。


「自己紹介がまだだったね。

 僕はクレイン、君の医者だ。よろしく。

 落ち着いたかな?」


「ええ、多少は。」


私はリンゴを食べる。


「でね、さっきの君が子供を産まなければならないって話なんだけど・・・。

 いいかな、話の続き。」


果たして私は繁殖犬にされてしまうのか、ドキドキが止まらない。


「ええ、どうぞ・・・。」


「なにも、君に無理やり適当な男の子どもを産ませようって話じゃないんだ。

 むしろ逆。

 今後、君のような枯死病に耐性をもつ子には強く育ってもらわなければならない。

 だから、こちらは色々な男性を用意している。

 スポーツマン、秀才、金持ち、などなど、みな優れた遺伝子の持ち主ばかりさ。

 しかも、全員美男子なのは当たり前。

 どうだい、悪くない話じゃないかな?」


たしかに悪くない。


ホストなんて、顔と女扱いのうまさだけが取り柄。

刹那よりいい男が、この世界ではいっぱい見つかるかもしれない。


「ま、まあ、そうね。

 私に選択権があるなら悪くない話ね。」


「よし、そうと決まれば、上に報告してくるよ。」


「え?」


「ああ。人権の問題でね、君の了承が必要だったんだ。

 実はね、あるプロジェクトが始動するんだ。

 人類再生プロジェクトだよ。」


たいそうな名前のプロジェクトが出てきた。


「なにそれ??」


「ああ。わかりやすくいえば、スミレ君の夫に値する男性を決める戦いが始まるのさ。

 まあ、選べるのは1人だけじゃない。

 何人でも可能さ。

 でもね、妊娠には約1年かかるだろう?

 だから、選ばれた2人目以降は予約待ち、という形になるね。」


なるほど。

見方によっては選択権のある繁殖犬ともとれるけど、選択権があるならまあいいか。


「わかった、私は了承するわ。」


「では、報告しに行ってくるよ。

 あ、それと、君には枯死病の耐性がある。

 DNAの解析のため、僕の診察を定期的に受けてもらうから。

 その時は、またよろしくね。」


そう言うと、クレインは足早に去っていった。


---


鏡があったので、ふと転生後の自分の姿を見てみた。


すごい美人。


黒髪ロング、白い素肌、顔立ちは凛としているだけでなく愛嬌もある。

病み上がりのため、少しやせ気味ではあるものの、それでも大きい胸とお尻。

男受けバッチリではなかろうか。


そうこうしていると、誰かがノックをした。


コンコンっ!


「はーい。」


「失礼します。」


「どちらさま?」


初老の男。

白いひげと白髪がダンディだ。


「私はエドガー。

 あなたの執事になります。

 以後、お見知りおきを。」


執事!?

まあ、重鎮的な扱いを受けるのも当然か。

クレインも言っていた。

私は世界の希望なのだと。


「どうも、スミレです。

 よろしく。」


「今後、あなたの生活のお世話や監督をさせていただきます。」


生活のお世話はまあわかる。

監督とはなんだろう?

なにか見張られるのだろうか・・・。


「監督とは、具体的に何ですか?」


「敬語は結構ですぞ、スミレ殿。

 監督というのは、あなたの礼儀作法の教育、勉学の指導、筋力トレーニングの指導、多岐にわたりますな。」


な、な、なんですとーーー!?


勉強とかしないといけないの?

筋トレも!?


私、そういうのだいっきらいで、前世は避けてきたんですけど!


「なんでそんなことしないといけないの?」


「なんでとは?

 当然ではありませんか。

 あなたは世界の希望。

 丈夫なお子さんを生むには、あなた自身が丈夫で健康で優れていなければならないのですぞ。」


たしかに・・・。何の否定もできない・・・。


「は、はあ、そうですか・・・。」


「ええ、当然当然。

 しっかりたっぷりしごきますからのう?」


執事エドガーはニッと笑みを浮かべた。

その笑顔に私は悪寒が走った。


「必ずや、素晴らしい女性になりましょう。

 プロジェクト開始まで3か月。

 それまでに、男性諸君に恥ずかしくない所作、美貌、能力を身に付けるのです!」


はあ。

まるで、今の私じゃ恥ずかしいみたいな言いよう。

この執事、失礼極まりないわ。


苦労もなく逆ハーレムできると思ったけど。

そう簡単にはいかないみたい・・・。


私は翌日から3か月の間、みっちりとしごかれた。


---


そして3か月後・・・。


「スミレ殿、よくぞ頑張りました。

 勉学は私の思うようには成長なされませんでしたが、美しい所作、美貌はバッチリでございますぞ!」


エドガーの指導は完ぺきだった。


しかし、勉強はどう頑張っても無理だった。

でもそれ以外は努力で手に入れた。


背筋を伸ばした美しいウォーキング、おなかには美しい腹筋の縦筋に美しいウエスト。

食生活を改善し、得た美しい肌、髪。


転生した後の体とはいえ、私史上、最高にかわいい!



<<作者あとがき>>


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