第4話 名前
「どうしたの? ジッと見つめて」
己の恋心を自覚し、目の前にいる初恋の人に見惚れていた時、彼女は不思議そうに首をコテンと傾げながら俺に問い掛けた。それを見て俺は。
(あ゛、可愛い)
萌えた。
(え、何その仕草もしかして素? いや絶対素でやってるよなはぁーあざとすぎるだろ。でも全然いい、全然ウザくない、むしろいい。なぜなら君が最強で無敵に可愛いから)
――――――
誰だコイツは。と、ほんの数分前の彼が今の彼を見たら我を疑うだろう。
客観的に見た
喋りかけたら反応するロボットの様な人間。それが彼の客観的な評価であり、それは全てが正しかった。
何事にも平坦に反応し、動揺とは無縁だった男は。
(はあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛尊い)
めちゃくちゃ恋に盲目だった。
――――――
「……? どうしたの、急に
「ハッ」
どうやら萌え過ぎたあまり蹲っていたらしい。
「ああ、いやえっと……その、すまない。君があまりに魅力的で」
「? 魅力的なの? 私。確かに姿は人間に近いけれど」
魅力的に決まってんだろ。君の前だとどんな女でも霞むよ。
「ん? 待て、やっぱり君は人間じゃないのか?」
「ええ」
何となくそうじゃないかとは思っていた。
その原因は彼女の体だ。体つきが悪いって意味じゃない。むしろ最高だ。全体的にスレンダーな体型をしており、手足なんかは木の枝の様に細い。胸や臀部は慎ましく、外見だけで見たら年齢は10代後半、主に17、8才を思わせる。
しかし特筆すべきは彼女の体つきでは無く、その身なりだ。
彼女は服を着ておらず、一糸纏わぬ姿でいる。だが局部が丸見えという訳でもない。彼女は頭から首は肌色だが、肩から足のつま先にかけては淡い光を纏っていた。
いや、纏っているというより、光っているといった方がいいだろう。身体には局部がなく、肩から下は淡い光を放っていた。
「私、
それを聞いて俺は驚愕した。すなわち、
―――――――――――――――――――――――
「
太陽も沈んで夜になった。彼女は動物や魔物達がいつの間にか作っていた枯れ木の枝を一ヶ所に集めた物に一瞬で火を起こし、俺と彼女と動物や魔物達はその火を囲う様に座りこんでいた。
「自然の化身か、俺が異世界から来たのを見抜いたのもその力なのか?」
そう、俺が説明するまでもなく、彼女は俺が異世界から来た事を見抜いていた。
「いいえ?あなたの身体を見たらすぐに分かったわ。この人間はこの世界の住民じゃないって」
「身体?この世界の人も俺もそんなに変わらないと思うんだが」
城下町を見物してた時にこの世界の住民を何度も見たが、そんな分かりやすい違いなんかあったか?
「私は明日にはここから移動するけど、あなたはこれからどうするの?」
「俺?俺は……」
様々な選択肢があるかもしれない。だがそんな物には目もくれず、俺の答えは決まっていた。
「俺は……き、君と一緒に行きたい」
途中から目線を外して仕舞いには言葉が詰まってしまった。手が震えていて全身が熱い。
ただ素直に自分の思いを伝える。今まで簡単に出来ていた事が全く出来なくなっている。返事を待つ緊張のせいか心臓も激しく動いており、彼女に聞こえていないかと心配になり汗もかいてしまう。
だが何よりも心臓の動きにアクセルをかけていたのは、彼女がポカーンとした顔で何も言わずにこっちを見ている事による不安だった。
「あ、いやその、出来ればというか、君が嫌だと思うのなら今すぐにでもこの場から消えるし、君の負担にはなりたくないし、本当に君さえ良ければというか……」
ついに沈黙に耐えられず言葉を捲し立てたが、恥ずかしさと居心地の悪さでどんどん声は小さくなり、最後の方には言葉が出て来ず俯きながら黙りこんでしまった。
「……プッ、あっははは」
すると突然彼女が笑い、俺は余計に恥ずかしくなり呻き声を上げた。
「あはははは、ごめんなさい。そんな事言われると思わなかったからびっくりしちゃった。うん、いいわよ。じゃあ一緒に行こっか」
「……いいのか?」
「うん、全然いいわよ。話し相手が出来て楽しそう」
「任せてくれ、絶対に退屈にはさせないから」
「そう?楽しみ」
「ああ。……あー、一ついいか?」
「うん、なに?」
「その、俺は君をなんて呼べばいいかな?」
そう、こうして楽しく談笑しているが、実はまだお互いに自己紹介もしていないのだ。これから一緒に行動する以上(同行しなくても意地でも聞き出そうと思っていた)それは必須だ。
「なんでもいいわよ?あなたでもお前でも
「それは種族名だろ?君の名前を知りたいんだ」
「名前なんてないわよ?」
「え?」
「人間は親から名を授かるでしょ?でも私には親という物はいないから、名前はつけられてないの」
「いやでも、自分で名乗る事も出来るだろ。自分で名前を考えたりはしないのか?」
「
「だからって……」
俺は言葉が詰まった。だからってどうするんだ?名前が無い事を彼女はこれっぽっちも悲しんじゃいない。だったら俺がどうこう言うのは余計なお世話以外の何物でもなく、煩わしいだけじゃないか。
おれが悩んでいると、彼女はポンッと手を叩いた。
「あっ、そうだ! それならあなたが名前を付けて?」
「え、俺!?」
「うん、あなたならきっといい名前を思いつきそうだから」
「そんな曖昧な理由で……俺にネーミングセンスなんかないぞ?」
「いいからいいから!」
「えー…………うーんとー…………」
あまり日本人みたいな名前は合わないだろうし、彼女の最大の特徴でもある自然精霊も要素に欲しいから……。
「イド……なんてどうだ?ドライアドから取ってみたんだが」
要素というかそのまんまになってしまった。
「あー、だから言ったろ?俺にはこういうのに関するセンスは」
「イド……イド……イド……」
「って、おい。大丈夫か?」
何やら俯きながら小さな声で喋っているが、声はこっちまで届かず聞こえない。俺が心配になり覗き込もうとしたその時。
バッと顔を上げこちらに近づいて来た。鼻と鼻がぶつかりそうになる程接近して来て、目線が合うと興奮しながら目を輝かせていた。
「いい! すっごくいい!! それが私の名前!!」
「え? いやでも、ホントに10秒で考えたやつだし、時間を掛ければもっといい名前が」
「いいの! 私はこれがいい! いいでしょ!?」
「いやまぁ、君が気に入ってくれたんならいいけど」
「うん、すっごく気に入った! イド……イド、イド! それが私、私の名前!」
「う、うん」
「あなたは? あなたはなんていうの?」
「さ、榊、榊拍斗」
「サカキ、サカキっていうのね!私はイド。よろしくね!」
「……ああ、よろしく」
こうして、俺とイドはお互いの名前を知った。
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!!
衝動的かつ突発的に始めてしまい、完全な見切り発車状態ですが、見守っていただけると幸いです。
よろしければフォロー登録、【★で称える】で星を3回押して応援してくださると、作者が狂喜乱舞します。
レビューもして頂けたら発狂して喜びます。
そしてもう一度、最後まで読んでくださり誠にありがとうございます!!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます