心のカギは渡せません

クライングフリーマン

心のカギは渡せません

 10年位前。私は「心筋梗塞」で入院した。

 私は、私物等を運んで貰い、妹夫婦に迷惑をかけたから、「もしもの時」用に合鍵を預けた。

 失敗だった。私物が盗まれたことは無かったが、妹は、自分の娘や孫達と、度々、自宅に出入りするようになった。

 私の留守中である。何やら言い訳をしていたが、「入院して私物を自分で取りにいけない時」ように合鍵を預けたのだ。

 付き合っている女の子に、家族同様だからと合鍵を預けるのとは違う。

 数年後、母が脳梗塞になり、介護施設に入居するようになった時、再三言っているのに守らないから、鍵を替えた。

 その後、『私が来る前』に介護施設を訪れ、鍵が開いていなかった、と不満を漏らした。

 同じ施設入居者のオバサンに、「どうして連絡してから行かなかったの?」と尋ねられ、答えられなかった。

 当時の彼女には、『別荘』であり、私と同じ権利があるという誤認があった。

 何度も似た様なことがあり、連絡してきた姉とやって来た妹に「鍵は取り替えた。渡してある合鍵は返してくれ。もし、私がまた入院することがあったら、あの時のように、私の鍵を『一時的』に預ける。」と言ってやった。

 過干渉するので、「この家は、父母と私の共同購入。それと、家族家族と言うが、お前は親族であって家族ではない。嫁いだら、嫁いだ相手や自分の家族が家族だ。何の為に、夫の郷里に放置してきた墓の整理掃除をしたのだ。私は、死んでも入る墓がない。自分の代で終るからだ、墓仕舞いが必要になるからだ。」そう書いた手紙を送った。

 私は既に、義兄が父の入院以降過干渉なので、あからさまに「通帳と判子のある場所を教えろ」と姉を通じて言ってきていた事にも辟易していた。

 妹は、その手紙以降、1年以上連絡をしてこなかった。

 ある日、妹は(隠密行動が好きらしいが)、姪と大姪を連れて、介護施設を訪れた。

 母は、覚えていなかった(少なくとも妹は)。

 私が、いつもより少し早い目に介護施設に行くと、血相を変えて出て行った。

 介護士と母の話を合わせて、母が覚えていないことが判明した。

 世間では、認知症と非認知症だけで分けたがる。介護士や介護施設でもだ。

 認知症には段階がある。母は軽度の認知症だった。

 だから、『ドリル』で計算問題をやらせると、いつも100点だった。

 例え身内でも、時間が経ちすぎると覚えていないのも不思議ではない。

 だが、妹の来訪は覚えていなくとも、妹の存在自体を忘れた訳ではなかった。

「この頃、あの子、来ないな。」と、私に言うことがあったからだ。

 妹は、また来なくなった。私は、ソーシャルディスタンスすることにした。

「たまに行くだけでいい」という勝手なスタンスで、『しっぺ返し』をした妹には、それしか方法が無かった。1回目の『危篤』状態の時、姉は跳んできたが、妹は電話で持ち直したことを聞くと、来なかった。

 その後、私は、『病変』か、複数の『保証人』がいる時以外、連絡を取っていない。

 戸締まり用心、『気の用心』。泣きたい時は相手を選べ。

 電話1本、定めは変わる。

『心の合鍵』は渡せない。友人や他人に渡せても、親族には。

「兄弟は他人の始まり」ではない。「兄弟は、害をもたらす化け物への変化の始まり」だ。

 ―完―

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心のカギは渡せません クライングフリーマン @dansan01

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