第13話 襲撃者
仄暗い地下室で数々の衝撃的な光景を目の当たりにした純悟らだが、とりわけその奥に鎮座していた女性の“死体”に強く意識が引きつけられてしまう。作り物でもなく、霊でもなく、ましてや“穢れ”でもない――物言わぬ人間の“骸”を前に、二人は満足に言葉を交わすことすらできない。
だからこそ、彼らは背後に接近していたその“気配”に気付くことができなかった。二人が入ってきた鉄扉が静かに開き、“それ”は隙間から純悟らの姿を見つめている。
微かに密室の空気が流動したことで、“祓い屋”がいち早くその異変に気付く。だが、結子が振り返った時にはすでに、“それ”が二人に向けて武器の照準を合わせ終えていた。
一拍遅れ、純悟もなにかが起こったことを悟る。彼がゆるりと振り返るなか、まるで待ったをかけることなく結子と“それ”が動いた。
“ばしゅっ”という乾いた音と同時に、結子が純悟に飛び掛かる。突然のことになすすべなく突き飛ばされてしまった純悟だったが、目の前の光景に思わず「ああっ」と声を上げてしまった。
結子の右肩に、飛来した“凶器”がまっすぐ突き刺さる。赤いレディーススーツを貫いたそれは彼女の皮膚と肉を容赦なくえぐり、わずかな黒を含む鮮血を空間に噴出させた。
激痛に結子の顔がゆがむ。純悟は尻もちを、そして結子はうつ伏せの体勢でコンクリートの上へと倒れてしまった。
結子の肩に、鉄製の“矢”が突き刺さっている。
その意味するところを理解できなかった純悟は、ゆるゆると、なおも緊張感に欠けた緩慢な動きで、矢が飛んできたであろう方向に視線を走らせた。
地下室の入り口の前に、いつの間にか真っ黒なシルエットが立っている。はじめはなにかの“影”なのかとも思ったが、目を凝らすとそれが全身黒ずくめの人物であることが理解できた。
黒や灰色を基調としたアーミースーツを着込んだ“それ”は、頭部に真っ黒なガスマスクをつけている。皮膚や髪の毛一つ見えないその姿のせいで、奇妙な乱入者の性別すら読み取ることができない。
なんとも異様な出で立ちの人物ではあったが、それ以上に純悟の目は乱入者が手にしている“それ”の姿に目を奪われてしまう。アーミースーツの人物は右手に携えた“それ”の照準を、まっすぐこちらに向けていた。
純悟はこれまで一度足りと触れたことすらないが、それが遠くのなにかを“射貫く”ための武器なのだということはすぐさま分かる。
謎の人物が手にした“ボウガン”から、純悟はすべてを悟る。そして悟ってしまったからこそ、ようやく鼓動が跳ね上がり、全身からおびただしい量の汗が滲みだしてきた。
(やつに――“撃たれた”のか!?)
結子はなんとか立ち上がろうとしたが、肩から走る激痛のせいでうまく身動きが取れない。そんななか、ガスマスクの人物はボウガンに新たな矢をつがえながら、なんら躊躇することなく二人に向けて距離を詰めてくる。
また一つ、“ばしゅっ”という乾いた音と共に矢が飛んだ。今度はどうやら純悟の肉体を狙ったようだが、鉄製の鋭い矢は間一髪、純悟の右腕をかすって外れてしまう。
その乱入者が何者なのか、なにが目的なのかは二人には理解できない。だがそれでも、これまで放たれた二発の矢によって、それが明らかな“敵意”を抱いているということだけは分かる。
カツンという音を立てて矢がコンクリートに突き刺さるなか、純悟の意識は瞬く間に覚醒していく。目の前に広がる数々の“事実”を受け止め、高速で思考が巡り始めた。
二人に残されている時間は、そう多くはない。
こうしている間にも迅速に、着実に謎の“ガスマスク”はこちらへと近付いてきている。乱入者は歩きながらもまた一つ、鉄製の矢を取り出し、手にしたボウガンへと装填し始めていた。
(どうすれば――どうすればいい!?)
わずかな時間で、純悟は必死に考える。この地下室の出入り口は唯一、二人が入ってきたあの鉄扉しかない。この場から逃げるためには、再びあの重厚な扉を押し開け、隠し通路の階段を上っていく必要がある。
そんな唯一の“逃走経路”に、謎の襲撃者は堂々と立ちはだかっている。鉄扉まで到達するためには、こちらに近付いてくるその黒い影をどうにか回避しなければならない。
そんなことが可能なのか。
そもそも、扉までたどり着いたとしても、すぐに追いつかれるのではないか。
純悟の脳裏で無数の思いが加速するなか、ようやく体勢を立て直した“祓い屋”が小声で語りかけてくる。
「純ちゃん――私が“合図”したら、一気にあの扉まで走るんだ」
「え……で、でも――!」
「私を信じて。一か八かではあるけど、なんとかやってみせるからさ」
たまらず振り向いた純悟の目の前には、変わらず笑う結子の姿があった。彼女は肩に突き刺さった矢を押さえたまま、全身に脂汗を浮かべ、それでもなお不敵な笑みは絶やしていない。
彼女の思惑が純悟には理解しきれない。だがそれでも、こちらに近付いてくる襲撃者は決して待ってなどくれはしなかった。
ガスマスクの人物はボウガンに矢をつがえ、躊躇することなく構える。その切先は、先程一矢を撃ち漏らした純悟の頭部へと向いていた。
威嚇などではない。対象を確実に“殺す”ために、襲撃者は迷うことなくトリガーに力を込める。しかし、新たな一矢が発射されるよりも速く、結子が動いた。
彼女はポケットから“なにか”を投げつけながら、叫ぶ。
「純ちゃん、行って!!」
混乱に包まれる純悟の肉体を、彼女の透き通った声が力強く叩く。気がついた時には純悟は迷いや不安を置き去りにし、わけもわからないままとにかく前へと突進していた。
無論、襲撃者も純悟へと照準を合わせ続ける。だが、ガスマスクの奥の眼は、ゆっくりと宙を舞うその投擲物を捉えていた。
一拍遅れて、駆け出した純悟も気付く。結子が投げつけたそれは、彼女が普段愛用している“アロマパイプ”だった。
宙を舞うそれはなぜか中途半端にカートリッジが抜かれており、中のオイルが漏れ始めている。彼女は投げる寸前、ポケットの中で密かに留め具を外していたのだ。
ぶつかったところで、さしたるダメージが残せるような代物ではない。純悟と襲撃者がその意味するところを理解できないなか、ただ一人、結子だけが力強く動く。
彼女は肩から走る激痛に歯を食いしばりながら、強く念じる。指を飛んでくアロマパイプに向け、明確な“怒り”すら力に変えて吼えた。
「――爆ぜろッ!!」
彼女は体内で練り上げた“力”を、躊躇することなく放出する。不可視の力はただちに宙を舞うアロマパイプへと到達し、そこから漏れ出す液体――可燃性の燃料液にわずかばかりの“火花”を咲かせた。
瞬間、燃料に引火したことで、小規模な爆発が巻き起こる。部屋のど真ん中で“バァン”という破裂音が空気を叩き、閃光が視界を白く染めた。
その突然の衝撃に、襲撃者が明確に怯む。駆け出していた純悟も叩き込まれた強い光と音のせいで、思わずスニーカーを急停止させてしまった。
だが、なおも“紅蓮”だけが迅速に動き続ける。結子はすぐさま走り出し、怯んでいた純悟の手を引いて真っ直ぐに加速した。
純悟は手に伝わった感触に唖然としつつ、引っ張られるように再び走り始める。うろたえ、身動きが取れない襲撃者の脇をすり抜け、二人は見事に鉄扉まで到達した。
純悟とて混乱はしていたが、それでも決して振り返ることはしない。一分でも、たとえ一秒でも無駄にしてしまえば、背後にいるであろう“奴”にすぐさま追いつかれてしまうと、本能が悟っていた。
二人は無言のまま力を合わせ、鉄扉を一気に押し開ける。冷たい隙間風が吹き込む階段を、そのまま迷うことなく全速力で駆け上っていく。
一段飛ばしで石段を上りながら、ようやく純悟はすぐ後ろにいる結子に問いかけた。
「なんなんだよ、あいつは! あ、あれも――“穢れ”かなにかなのか!?」
「いやぁ、どうやら違うようだね。“穢れ”はあんなふうに、物理的な“武器”なんか使わないよ。あれは人間――私たちと同じ、生きた人間だ」
結子のこの一言に、純悟は「ええっ」と声をあげてしまう。わずかに振り返りはしたが、なおもその足はもつれそうになりながらも、必死に次の足場を求めて駆動し続けた。
「人間……だって。じゃあ……誰かが俺たちを――殺しにきた、ってことか?」
「そういうこと。やれやれ、この館、どこまでも“闇”が深そうだね。“穢れ”に“死体”に――“殺人鬼”までいるなんてさ。邪悪なもののフルコースだよ」
あっけらかんという結子の目は、まるで笑ってなどいない。彼女もまた、肩に刺さった矢の痛みに耐えながら、それでも必死に足を動かし続ける。
狭い隠し通路を進みながら、純悟は戦慄せざるをえない。数多の“穢れ”と対峙し、隠し通路の先にある地下室で、謎の女性の“死体”を見つけたというその異常事態ですり減っていた心が、さらなる“想定外”によって一気に磨耗していく。
二人を襲ったあのガスマスクの人物は、霊体でも、ましてや“穢れ”などでもない。
正真正銘、生きた“人間”が武装を固め、地下室にいた二人を襲撃してきたのである。
なぜ、どうして、なんの目的で――頭の中を無数の疑問が乱反射するが、今はそれについて言及する気など毛頭ない。純悟は呼吸することすら忘れ、ただただ痛いほどに前へと肉体を送り込み続けた。
疲弊した肉体に鞭を打ち走り続けた二人の目の前に、ようやく隠し通路の終点が見えてくる。入り口を隠していた“本棚”開け放たれたままになっており、その奥にはあの打ち捨てられた広大な書斎が見えていた。
あと少しと力を振り絞る純悟だったが、突如、背後から聞こえてきた“どさり”という音に、たまらず振り返ってしまう。決して立ち止まるまいと決めていた彼も、飛び込んできた予想外の光景に身動きができなくなる。
すぐ後ろを走っていた結子が、階段の上に倒れ込んでいた。彼女は全身が汗だくで、なぜかひどく衰弱している。
肩にはなおも鉄の矢が突き刺さったままだが、それにしてもその疲弊具合は明らかに異常だった。
振り返り、彼女に手を伸ばそうとした純悟だったが、階段の奥に見えたその影に絶句してしまう。
見れば、二人を追いかけるように彼方からあのガスマスクの人物が階段を駆け上がってきていた。暗い通路の奥にガスマスクの赤いレンズが揺れている姿がなんとも不気味で、こちらに近寄ってくる明確な殺意に純悟は身をすくませてしまう。
一つ、また一つと襲撃者のブーツの音が大きくなっていく。身を包む恐怖に呼吸すら止めてしまう純悟だったが、彼に向けて倒れたままの結子が息も絶え絶えに告げた。
「純ちゃん、行って……私のことはいいから……逃げて」
彼女の思いがけない一言に、純悟は「えっ」と声をあげてしまう。しかし、こうしている間にも奥からは、あの襲撃者が凄まじい勢いで階段を駆け上ってきていた。
薄暗い通路で立ち止まったまま、純悟は再び思いを巡らせる。狭い視界のなかに映り込む二つの姿を前に、いくつもの葛藤がその身を震わせていった。
このまま躊躇していれば、間違いなくあの“殺人鬼”に追いつかれる。目の前に倒れた結子を引き上げ、彼女を担いだまま走ったとしても、あの襲撃者の健脚を突き放すことなど到底できないだろう。
もしも生き残りたいのならば、迷っている暇などない。目の前で倒れている結子を見捨てて、このまま全力で書斎を駆け抜け、館から脱出するべきなのだろう。
一歩、またも襲撃者が石段を踏み抜き、ブーツが乾いた音を響かせる。通路を乱反射するそれは純悟の肉体を鈍く叩き、その内側にざわめく無数の感情を震わせた。
純悟の脳裏に、無数の言葉が浮かぶ。
逃げろ――それは脳が導き出した思考などではなく、脅威を前にした彼の細胞そのものが突きつける、“生存本能”の叫びだったのだろう。
一瞬、純悟は吼えたてる己の本能に従おうと、踵に力を込めた。だが、踵を返そうとする自身を、胸の奥底に居座っている特大の感情が繋ぎ止める。
なにもかもが、あの時と同じだった。
館の2階で“四足獣”の“穢れ”と対峙し、瓦礫のなかから孤独に逃げおおせた、あの瞬間と同じなのである。
そう思った瞬間、純悟の胸の奥で鼓動が強く脈打った。彼は呼吸を止めたまま、力強く肉体を前に押し込む。
書斎の方向へではなく、倒れた結子へと駆け寄り、すぐさま彼女に肩を貸した。
「ッ!? 純ちゃん!」
驚く結子を前に、なおも純悟は歯を食いしばる。彼は結子の体を担ぎ上げたまま、再び石段を上り始めた。
一歩、また一歩と着実に書斎が近づいて来る。だが、やはり背後から迫る襲撃者の勢いも衰えはしない。離れていたはずのブーツの足音は、もうすぐそこまで距離を詰めてきていた。
二人を射程距離内に捉えた“殺人鬼”は、やはり手にした得物――ボウガンに矢をつがえ、照準を合わせる。二人に追いつくよりも先に、その背中目掛けて一矢を叩きこみ、身動きを封じてしまうつもりだった。
ガスマスクが狙いを定めるなか、ようやく純悟たちは階段を上り終え、書斎までたどり着く。しかし、担がれていた結子が背後から伝わってくる濃厚な“殺気”に気づき、息をのんだ。
(――逃げきれない)
“祓い屋”の心に絶望が湧き上がるなか、純悟は汗だくになり、肩で息をしながら必死に言葉を絞り出す。
つなぎを身に纏った純悟の肉体から、熱く、力強い感情の波が空間へとあふれ出していた。
「もう――いやなんだ」
「――えっ?」
「誰かに助けてもらったまま――惨めに一人で逃げるなんざ、ごめんだ!」
隠し通路に立つ“殺人鬼”は照準を結子の頭部に合わせていた。だが、彼女を担いでいた純悟がとった行動に、ガスマスクの下の目が見開かれる。
純悟はすぐ脇の本棚に手を伸ばし、そこに置かれた一冊を強く押し込む。ただちに本棚に施された“仕掛け”が作動し、重い本棚が音を立てて動き始めた。
襲撃者が事態に気付き、慌てて引き金を引く。鉄の矢は風を切って真っ直ぐ発射されたが、その切先が二人の肉体に食い込むことはない。
純悟の咄嗟の一手により、通路を隠していた本棚――もとい、“隠し扉”が再び閉ざされてしまう。鉄の矢は本棚の壁に弾かれ、“カィイン”という無機質な音色を響かせてしまった。
結子が唖然とするなか、純悟は彼女を座らせ、なおも動いていく。彼は周囲に置かれていた段ボールや椅子、本棚を片っ端から引き倒し、その隠し扉の前へと積み重ねていった。
間一髪、純悟らは隠し扉に“バリケード”を作り上げることで、殺人鬼を閉じ込めることに成功してしまう。純悟は椅子をまた一つ、隠し扉目掛けて蹴り飛ばしたが、ついに足がもつれ、尻餅をついてしまった。
二人がぜえぜえと呼吸を繰り返すなか、隠し扉の奥からがたがたと不穏な音が聞こえてきた。向こう側に取り残された襲撃者が足掻いているようだが、幸いにも隠し扉は簡単に開くことができそうにもない。
やがて、奥から聞こえる唸り声が止み、書斎に静寂が戻ってくる。二人はなおも肉体に湧き上がる熱を排出すべく、前を見つめたままひたすら呼吸を繰り返した。
やがて、なんとか呼吸を取り戻した結子が、肩の傷を押さえたまま立ち上がる。彼女はなおも“信じられない”といった様子で、うず高く積み上げられたバリケードを見つめていた。
「うまいことやったねぇ、純ちゃん。まさか、あいつを閉じ込めちゃうなんてさ!」
結子は汗だくのまま笑顔を浮かべてくれたが、あいにく純悟は目を見開き、呼吸を整えることで精一杯だった。彼もがくがくと笑う膝に喝を入れながら、ゆっくりと、着実に立ち上がっていく。
「ぎ、ぎりぎりだった……気がついた時には、体が動いてたんだよ」
「本当に、無茶するよぉ。もしかしたらあのまま、追いつかれてたかもしれないのにさぁ」
「ああ、だけど……それでも、“また”逃げるのはいやだったんだ。もう一度――あんたを放っておいて、自分だけ助かろうとするなんてさ」
純悟の言葉に、結子もようやく気付く。彼がかつての逃亡を心から恥じ、それを乗り越えようと必死に足掻いていたのだということを。
すべて、純悟の心に焼きついた“後悔”の念が生み出した奇跡であった。
もう二度と逃げたくない、と強く願い続けた彼の“爆発力”が、咄嗟の判断により二人の危機を救ったのである。
そのしたたかさにため息をついてしまう結子の前で、純悟は両手で脂汗をぬぐっていく。まとわりつく嫌な液体をつなぎで乱雑に拭きながら、なおもその目はバリケードの奥にいるであろう“奴”を睨みつけていた。
「けど結局、今回も助けられちゃったな。あの時――結子のあのアロマパイプがなけりゃ、そもそも部屋から逃げることすらできなかったんだからさ」
「なぁに、私だって一か八かの一手だったんだ。私の力であの“オイル”に引火して、目眩しにできないかなってね。まぁ、上手くいってなによりさ」
「それにしても、重ね重ね、あいつはなんなんだ? 一体、この屋敷に――なにがあるっていうんだよ」
危機は去ったが、それはあくまで一時のものにすぎない。緩みかけた二人の心は、姿を消したあの“殺人鬼”を思うだけで、再びぴりりと張り詰めていく。
「さあね。あの部屋の死体といい、弓矢で襲ってくる“殺人鬼”といい――私たちの想像以上のなにかが、この屋敷には隠れてそうだよ」
「ああ。このままいつまでもここにいたら危険だ。とにかく、まずはこの屋敷から脱出しないと」
もはや、“穢れ”の討伐などという単純明快な事態ではなくなってしまった。期せずして二人は、この“化物屋敷”に隠されたいくつもの謎に触れ、その深淵を覗き込みかけてしまっている。
全貌は見えてはこない。だがそれでも、このまま長居をすれば、またなにかが二人の目の前に立ちはだかり、命を奪おうと襲いかかってくることだけは容易に想像できる。
二人はそれ以上、多くは語らなかった。純悟はただちに結子に肩を貸し、書斎の外へと再び進んでいく。
誰もいなくなった書斎には、純悟が作り上げた瓦礫の山だけが取り残される。
その奥――隠し扉の裏側に立つ“それ”は、遠ざかっていく二つの気配を確かに感じていた。
ガスマスクの中で、深く、熱いため息が漏れる。
レンズの奥の二つの眼が目の前に広がる闇を見つめ、それでもただ嬉しそうに歪み、微笑んでいた。
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