第2章 転生したら強くてニューゲームって本当ですか?

———2023/08/02


「は、はは……」


 ちゅんちゅん、と小鳥の鳴く声が聞こえる。俺は起き上がって、掌を見て絶望する。


「サイズ感、変わんねー……」


 相変わらずミニマムサイズの掌、その掌で自分の頬を思い切りぶっ叩く。


「って、てぇー……」


 とりあえずこれは現実らしい。俺が俺の体に居ないことが現実。そんな受け入れられない現実に気が遠くなっていると、バタバタと誰かがこの部屋に駆け上がってくる音。そして、勢いよくガチャリと扉が開いた。


隼人ハヤトッ‼幼稚園遅れるって言ってるでしょー‼あなた来年は小学生よ?小学生になったら起こしてなんてあげないんだからね⁉」


 そう捲し立てられて、目を見開く。


(誰だ、このばば……)


 そこまで思ったところで、思考がぴたっと止まる。そこからはまるで、俺の記憶のパズルに新しいパズルをはめ込むように今の俺———高山タカヤマ 隼人ハヤトの情報が頭に入り込んできた。今俺は、5歳。雪鷹の台幼稚園に通う、年中さん。プラレールと恐竜が大好きで、休日には博物館に行くことをねだるほどの電車と恐竜マニアだ。


(ふむ……)


 自分の中に流れ込んできた情報にひと呼吸おく。


(……死ぬほど興味ねえな……)


 俺の趣味はと言えば、もっぱらカードゲームと色々なVTuberの配信を見ること、自分で配信することに偏っていた。どうしたものか……そんなことを考えながら俯いていると。


「だあかあらあ‼早く動きなさーいっ‼」


 俺は肝っ玉カーチャンに盛大に怒られたのだった。


 その後、俺は様々なことを親の目をかいくぐって調べ始めた。まず、この世界は俺がいた世界なのか。とりあえず日本語は通じているが———俺が日本語をしゃべっていると思い込んでいるだけで他の言語を自然にしゃべっている可能性もある。


(……俺が見ていたアニメだと異世界に転生したとき、その地域の言葉や文字が自動的に日本語に翻訳されたりしていたしな)


 様々な懸念を想像して、とりあえず俺は漫画で優しく歴史を教えてくれる某シリーズを読み漁った。


「え、鎌倉幕府が1192年じゃない、だと……⁉」


 驚愕、どうやら2021年ごろに今までの1192年鎌倉幕府成立説が覆されて、1185年になったそうだ。


(……まともに歴史なんて調べたの何年振りやら……変わってるもんだなあ……)


突如歴史に目覚めたと思われたのか、隼人の母親も父親も色々な歴史系の博物館に連れて行ってくれた。その結果、俺の知っている日本の歴史を大体歩んでくれていたことから、俺の居た日本とおおよそ大差はないと思われた。魔法の国へのトリップ……などではないことに若干肩を落とす。でも、それはそれとして、だ。ちょっと昔のこと過ぎて記憶に薄いが、白髪の眼鏡をしたオッサンが2020年のオリンピックを東京で開くことを宣言していたが、それが本当に開かれていたらしい。その東京オリンピック2020では日本は27個も金メダルをとったとか。やるじゃん、日本。それに加えて、コロナとかいう疫病が流行ったとか。その当時は俺は今の俺の意識を取り戻していないのと幼かったせいで、今の母親に頑固にマスク、手洗い、うがいを強制させられた記憶しかないが……。


(あれは必要なことだったんだな……)


 なんとなく、コロナで何があったかを把握して理解できてしまっている今、大イヤイヤ期を発してしまっていた俺ではない俺の行動にうっすらと罪悪感を覚えてしまっていた。……気を取り直して。2018年にはiPhoneXRまでしか出ていなかったが、この時代にはiPhone15まで出ているとか。他にも元首相が暗殺されていたり……俺の生活していた2018年からえらくいろいろな出来事が起こったらしい。たかだか5年、されど5年。俺の胸はこの先の未来に向かってワクワクしていた。

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