第2話 写真 

ただいまー、と玄関で靴をぬぎスリッパへ履き替えるとリビングから暖かな空気とおいしそうなにおいが漂ってくる。ペコペコのおなかをさすりながらリビングへ向かうとお母さんに

「きちんと制服脱いでからきなさい!あとちゃんと手を洗いなさい!」

と軽く怒られてしまう。

はぁーいと軽く返事をして自室へと向かい制服を脱ぎ捨て部屋着に着替える。友達からもらったプレゼントを開けず並べ、後からストーリーに上げるために角度を変えて何枚か写真を撮る。

満足のいく写真を撮り終えると、洗面台で手を洗いコロコロと鳴くおなかと一緒にリビングに向かう。家に入った時からずっといい匂いがしっぱなしでおなかももう限界だ。

リビングのテーブルいっぱいに私の好きなものが並んでいて空腹の私は全部食べれてしまうのではないかと錯覚してしまう。


「お、今日の主役がきたきた。もー、ねーちゃん俺部活帰りで腹ペコなんだから早く帰ってこいよなー。」


そう文句を言ってくるのは私の弟の拓海(たくみ)だ。二つ下の14歳で中学で陸上部に所属している。成長期なのか数か月前に身長を抜かれあっという間に大きくなった。


「女の子は忙しいんですぅー、ねえお母さん並べてるの写真撮るからちょっと待ってね!」

「まーたストーリーとかいうやつだろ。腹減ってんだからさっさと食おうぜー。」

「うるさい、そんなんだから彼女いたことないんだよ!」

「それ今関係ないだろ!?」

「もー、二人とも喧嘩しない!お父さんあと少しで帰ってくるからもう少し待ちなさい!」


お母さんにそう言われ二人ではーいと返事をし、私は写真を撮り始める。

拓海はソファに腰をかけテレビの番組表から気になるものを録画予約をしていた。

満足いく写真が撮れたのでカメラロールをみると、とった覚えのない一枚の写真が目に付く。

その写真は間違えてカメラを起動して知らない間に撮れてしまったときのように、画面がぶれて何が写っているかわからないものだった。

私はきっとポケットか何かから取り出すとに誤って撮ってしまったものだと思い一覧から削除する。消えたのを確認して、先ほど撮った写真をアプリでキラキラとしたエフェクトやポップな音楽で加工してストーリーに上げる。高校生の間ではコミュニケーションツールとして使われていることもあり、上げた後に友達から反応があるのがうれしくて、何かあるたびについつい更新をしてしまう。

そうこうしているうちにお父さんも帰宅して家族がそろう。拓海は待っていましたと食卓に着くと、お父さんはやくーとせかす。

皆が揃い、私の誕生日のお祝いが始まる。

シーフードのパスタに野菜たっぷりのポトフ、クリームチーズとベーコンが入ったポテトサラダ。しっかりと味がしみ込んだローストビーフ、クリームコロッケまで用意されている。食べ盛りの拓海はそれプラスでおにぎりにかぶりついていた。

食後には私の大好きなチーズケーキも用意されていて、少し調子に乗って食べ過ぎてしまった。明日からダイエットしなきゃ……

両親と拓海からもプレゼントをもらい、お礼に拓海の頭をなでまわすとその手を払われてしまう。両親にもお礼を言い、食後は自室へと戻る。

スマホをみるとさっきあげたストーリーの反応の通知が何件か来ていた。その反応へ返信しつつ、今日もらったプレゼントを一つずつ開封していく。

両親からは以前から欲しがっていたコート、拓海からは折り畳みの日傘、部活の後輩からは使いやすそうなタオル。友達からはハンドクリームや小さな香水などが入っていた。

ひよりからはかわいいバックチャーム、5人おそろいだよ♡のメッセージカード付だ。

遥香からは紺色のグラデーションがきれいなポーチに入った鏡、鏡の裏面もポーチと同じグラデーションカラーでとてもきれい。

恵子からは今話題のクッションカバー、もこもこで手触りがすごくよくて色も私の好きな薄い水色だ。

彩夏からは革でできたパスケース、これも前に一緒に買い物に行ったときに何気に気に入ってみてたものだったので驚いた。


もらったものを眺めて手に取ると、思わず顔が緩んでしまう。

今日は私は世界で一番幸せ者かもしれない。


そう思っていた。

一通の通知が来るまでは。

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