雨傘と椿川

たいやきさん

第1話 誕生日

 私、袴田歌恋(はかまだかれん)は本日16歳の誕生日を迎える。

朝から、今日家に帰ったら私の好きなものとケーキを用意しておくと言われ、学校の友達や部活の子たちにお祝いの言葉やプレゼントをもらい、とても上機嫌で家路についている。

鼻歌交じりに自転車をこぐと、10月に入ったばかりの風は少し冷たかったが紅潮した頬にはとても心地が良かった。

私が住んでいるのは都会ではなく、田んぼや畑が見える少しのどかなごく普通の町。

電車一本で市内に出られるし、交通の便も悪くはない。

この後友人と待ち合わせをしているので、少しだけペタルを漕ぐ力を強くする。


「ごめん!待った?」


待ち合わせ場所の公園につくと、友人は振り返りニコッと笑い。


「大丈夫、今来たとこ。」

「よかったぁ、帰り間際に先生に呼び止められたときはあせったよー。」


そんな他愛もない話をしながら公園の駐輪場に自転車を止める。

彼女の名前は磯崎彩夏(いそざきあやか)幼稚園から一緒の大親友だ。

バレーをやっていて身長は170センチほどありショートボブに揃えられた髪は彼女にとても似合っている。


「もうみんな来てる?」

「まだ、これからくるみたい。」


この後3人の友達と合流していつものようにおしゃべりをしながら暗くなる前に家路につく。

そうこれがいつもの、日常の光景。

彩夏とベンチに腰掛けてお互いに尽きることのない会話をして待っていると、残りの3人がそろってやってくる。


「あーや、れんれんお待たせー。」

「ごめんねー、ちょっと遅くなって。」

「遥香が日直でさー。」


メガネのポニーテールの子が手を前に合わせながらごめんという。

彼女の名前は早坂遥香(はやさかはるか)、昔から絵がうまく今は美術部で油絵を描いている。

私たちをあだ名で呼んだ子は小清水ひより(こしみずひより)、ふわふわとした栗色の髪ではっきりとした二重の瞳、色が人より薄くお人形さんみたいで私たちの癒し。

3人の中で一番体格がいい子は清水恵子(しみずけいこ)、彼女もバレーをやっており中学の頃は彩夏と切磋琢磨していた、おっとりとした性格でいつもみんなのまとめ役をしてくれている。

この3人は同じ高校へ通っており、いつも仲よさそうにしている。


「いやいや、全然。おしゃべりしてたらあっという間!」

「ねー、ほんとあっという間!」

「あ、そうだ。忘れないうちに渡しちゃお~、れんれんお誕生日おめでと。」


そうひよりが言い出すとみんなカバンから色とりどりの包みを取り出してくれた。


「わぁ、いいの?ありがとー。かえって開けるの楽しみにするね!みんな大好き!」


私はそう言ってみんなに抱き付く。

もー、あつくるしいよーなどキャッキャとみんなではしゃいでおしゃべりをする。

それから少し時間がたったくらいに遥香が切り出す。


「あ、ねぇねぇちょっとだけ時間いいかな?もうすぐコンクールがあるから願掛けして帰りたいんだけど……。」


この公園内には小さな神社が併設しており、あまり高低差がないからお年寄りや犬の散歩のコースとしてとても人気がある。

小さなころからお祭りと言ったらここ!というくらい身近な存在だ。


「おっけー、じゃみんなで行こっか!」


ワイワイとおしゃべりをしながら境内へと進んでいく。

簡素ながらきちんと鳥居もあり、中には社務所などもあり小さな狐の対の石像もちょこんとある。

拝殿にみんなで並び、小銭を入れお参りをする。

みんな信心深いというわけではないが、こういう時は神頼みをしてしまうものだ。

みんな思い思いのお参りをして、いざ帰ろうというときに賽銭箱の横に手のひらサイズのぬいぐるみが落ちているのが見えた。

ボールチェーンを付けたらそのままキーホルダーにできそうなサイズの狐のぬいぐるみで、きっと誰か落としたのだろうと思い拾い上げ社務所の人に届け出る。

時間もちょうどよくなってきたので帰ろうかと神社を後にしようと鳥居をくぐったとき、ふわりと10月にしては暖かな風が私の首元をふわりと通り抜ける。


『ありがとう』


と、通り抜けざまに聞こえた気がして神社を振り返る。

少し暗くなってきた神社に明かりは灯っているが、なんだかとても暗く、けれど不思議と怖くは感じなかった。

きっと誕生日で浮ついているからそう聞こえたのかもと思い、皆と家路についた。

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