1章 カフェ アーバンレジェンド
「という話が数日前にありましたねー」
突如、林檎の目の前に現れた異質な少年ーーーー月影ましろは、お世話になっているカフェのカウンターにプラチナブロンドを寝そべらせ、注文したメロンフロートソーダの気泡を眺めている。
「私たち組織としては、君が難事件を解決してくれた方が
「大事に至る前に解決できたからいいじゃないですか」
「
カフェ アーバン・レジェンドの店主、アーバンはため息を吐いて肩を竦める。
「なのに、なんであの時の報酬はこの普通のメロンソーダ同等のスイーツだったんですか!?小動物はアーバンさんが世界各国に伝手があるから、色んな国のスイーツを
「それはちゃんと仕事をしてくれたら成立する約束だよ。『
「伝説のお菓子とか、本の世界の架空のスイーツの再現とか……」
「伝説のお菓子って何?ココはスイーツ屋じゃないんだけどな!」
やや納得せずにカウンターの下を靴のつま先で小突いてるましろは、不満そうに眉を顰めた。
『アーバンの言う通りだ。
白い生き物はましろのペットでもカフェのマスコットでもない。が、ペットのようにましろの周りを右往左往している。
「ああ、ボクらはラプスに騙されたんだ!簡単に出来る仕事だって言われたからOKしたのに、契約の先に待っているのは重労働!」
『ましろが普通に売っているスイーツに満足していたら、結構普通の契約なんだけどな。街の平和を守る普通じゃないけど街を普通にする仕事だ』
「ボクらはまだ学生ですよ!」
「完全に顕現した
聞き分けの悪いましろに、アーバンが再度ため息を吐いたところでカフェのドアに付けてあるベルがチリンと鳴る。
「こんにちは」
「おやこんにちは、高坂くん」
「いらっしゃい」
あの日の夕方、月影ましろに助けられてから、高坂林檎は学校帰りにこのカフェに通い詰めている。
突然巻き込まれた現象について、何も知らなかった林檎が今のところ説明されているのは、自分よりひとつ年上のましろとこのカフェの店長のアーバンは、
林檎を追っていたあの狼男は赤ずきんの
数日通い詰めて説明されたのはこのくらいだが、要点を把握するには十分な説明だった。
「高坂くんはりんごフロートでいいかな?」
「クリームは抜きで構いませんよ。私は甘いものは好きでも嫌いでもありません」
「ボクは絶対クリームがないとダメだなぁ」
クリーム抜きのフロートを頼むなんて信じられないよという表情で、ましろは林檎を見上げた。いつまでカウンターに頭を寝そべらせている気だろうか。
林檎がましろを
林檎は学校が選んで用意した普通のカリキュラムを受講しているが、ましろは科目を自由に選択出来るカリキュラムを選んでいた。学校から支給されるタブレット学習の為、学校の出席日数が極端に少ない。他には最先端の技術によるAI学習のカリキュラムもあったようなーーーー
「お待たせ」
少し薄い赤色のりんごサイダーが目の前に置かれた。
「何味かを言い忘れていましたが、林檎という名前だからって林檎が好きなわけじゃないですからね」
「え。そうなの?ボクの親は単純にマシュマロが好きだからましろって付けられたらしいんだけど」
「マシュマロ好きだよね。ましろくんは」
「マシュマロは好きなお菓子のひとつです。お菓子ならなんでも好きです」
甘いもの限定で、とましろは後から付け加えた。林檎は辛いものは苦手なのだろうかと単純に考える。
「ーーーーそれで、答えは数日で出せたかね?」
アーバンが林檎に問い掛ける。単純なことを考えている場合ではなかった。
ましろが今日、この店に林檎を呼び出したのは、赤ずきんの
どちらでも廃墟ホテルと化した黎明館は、アーバンが組織の伝手で解体及び修繕をする予定である。
つまり、林檎本人には重要な選択かもしれないが、ましろやアーバンにとってはどちらでも構わない話のようだ。
「……どちらが、いいんですか……?」
「……どちらかとはっきり言えば、協力して欲しいね。ボクとしては」
『おや。今回はましろにしては結構強引だね。林檎を店に呼び付けたり。あの日、少し説明した後に「やっぱり今日は遅いから」って、ちゃんと林檎を家に送ったのはこの日の為かい?』
「そうなんですか?」
「そう!ボクらはキミの協力を必要としているんだ!」
カウンターに寝そべっていたましろはいきなり背筋を伸ばし、唐突に林檎の手を握った。
「ましろくんはさっきのだらけ癖をなんとかすれば、そこそこのイケメンなのにねぇ。残念系に足を突っ込んでいるのは糖分の取りすぎかな?」
確かにアーバンの言う通り、ましろはきちんとしていれば学校に通って持て囃れるような外見の生徒だと林檎は思う。
しかし、それは置いといて。今は返事をきちんと伝えよう。
「ーーわかりました。学校帰りにこのカフェで少し働いてみます」
「やったー!」
ましろは林檎の返事を聞くとモフモフのラプスを掴んで胴上げし始めた。
「でも、本当にいいんですか?私、なんの……不思議な力とか、持ってませんよそういうの」
「いいよ。手伝っている間に関与した
「はぁ……」
とは言え、林檎はましろの不思議な力すらろくに見ていない。まさか自転車を使った能力ーーーー
「ボクの力はボクに関与した
突然店に誰が入ってきても見えない角度で、ましろは林檎に掌を見せ、小さな炎を灯した。
『わかってるだろうけど、ましろはマジシャンじゃない。火はありきたりで誰でも扱っていそうな系統能力だけど、現実は意外に使い手が少ない。それが僕がましろを即勧誘した理由だよ』
「だから、この小動物に騙されたんだよね。ボクがこいつと出会ったのは小6の時だった。今のボクなら勧誘に大量のスイーツを用意されても絶対断るのに」
「おやおや。先程高坂くんをそこの小動物みたいに
「……アーバンさんは料理が上手いけど、意地が悪いところがあるから気を付けてね」
林檎に見せていた掌の小さな炎を消して、ましろはすっかり炭酸が抜けてクリームも溶けてしまったメロンフロートを飲み始めた。
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